ワケあってこっそり歩いていた王宮で愛妾にされました。

しゃーりん

文字の大きさ
10 / 16

10.

しおりを挟む
 
 
朝にルーチェが目覚めた時には王太子殿下はいなかった。

既に陽は高くなりつつある。当然執務に行ったのだろう。

メモ書きが置いてあった。
執務に行くこととゆっくり休んでいるようにということ。また夜に来るということ。 

……お腹が空いた。どうしたらいいのだろう。

寝室を出てみると、侍女が待ち構えていた。


「おはようございます。ルーチェ様。本日担当致しますレミと申します。
 浴室の準備を致しますので、朝食を食べてお待ちください。」

「あ、ありがとうございます。よろしくお願いします。」 


そっか。部屋の準備も出来ていたし、扉の前に護衛もいた。
王太子殿下の愛妾がいるということは通達されているということなのね。


一昨日に王宮に来てから、私の人生は変わってしまった。
……違う。
単なる侍女として働き始めていたとしても、王太子殿下は私を愛妾にしていただろう。
つまり、3年前から逃げられない状況にあったということ。
だけど、あの時に純潔を奪われたことが決定的になった気がする。


なぜ、私なのか明確な答えを殿下本人すら持っていなかったのだもの。私にわかる訳もない。
ただ、逃げられる気はしない。少しでもそんな素振りがあれば、鎖で繋がれる。


私が解放されるのは、彼が飽きた時だろう。 


それがいつかはわからない。
だけど、あんなに嬉しそうな顔をする殿下を傷つけたくはない。
国のために頑張っているのだ。
私がそばにいることを望んでくれている限り、愛妾でいよう。
その間は公の場に出ることはない。
ひょっとして、実家に顔を出すこともできない?


……侍女になってると思っている家族に何て言えばいいのかしら?


そう言えば、第二王子殿下の方はどうなったのか。
突然、連れ去られた私に代わって誰かが行ったとも思えない。
あの時の侍女の方から王太子殿下が私を連れ去ったことは伝わってるわよね。
そういえば、手紙みたいなのを渡していたから、私を連れ去る理由が書いてあったのかも。
愛妾ということも伝わっていそう。
ビリー様のことだから、すでに次の候補の方に打診しているかもね。

侍女の件もなくなっちゃったよね。
昼間は侍女になってはいけない?無理?無理か。
王宮内を愛妾が侍女としてウロウロしてるって変よね。
かといって王城内で働くと貴族たちの目に触れる。
そこで愛妾だとバレたら、貴族中に知れ渡ってしまうわ。

王族に愛妾がいることは、おそらく王宮内の秘密なのだろうから。

側妃だった場合は公にされるから誰もが知っている。
愛妾は妻ではないから。
誰に何人いようが、愛妾が変わろうが、貴族には伝わらない。


ハイネ妃殿下という完璧な妃殿下がいるために、側妃には誰もなりたくない。
なりたいという令嬢すら現れないだろう。
あの2人に割り込もうなんて、実家ごと、非難されるだけだ。

だから、私は愛妾なのだ。わかってる。

というか、絶対に表に出さないで?命がいくつあっても足りないから。



モグモグ食べながら、そんなことを考えていると侍女のレミが戻ってきた。


「浴室でお手伝いさせていただく侍女をあと一人呼びますので、少しお待ちください。」

「いえ。今日は一人でゆっくりと入りたいと思います。」

「そうですか。かしこまりました。」


……跡がすごいんだもの。恥ずかしすぎて見せられないわ。





 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

売られた先は潔癖侯爵とその弟でした

しゃーりん
恋愛
貧乏伯爵令嬢ルビーナの元に縁談が来た。 潔癖で有名な25歳の侯爵である。 多額の援助と引き換えに嫁ぐことになった。 お飾りの嫁になる覚悟のもと、嫁いだ先でのありえない生活に流されて順応するお話です。

側妃としての役割

しゃーりん
恋愛
結婚を前に婚約者を亡くした侯爵令嬢フェリシア。 半年が過ぎる頃、舞い込んだ縁談は国王の側妃であった。 王妃は隣国の元王女。 まだ子供がいないため側妃が必要になったようだ。 フェリシアが心配した王妃との関係はどうなる? 国王に愛され、自分の役割を果たすお話です。

代理で子を産む彼女の願いごと

しゃーりん
恋愛
クロードの婚約者は公爵令嬢セラフィーネである。 この結婚は王命のようなものであったが、なかなかセラフィーネと会う機会がないまま結婚した。 初夜、彼女のことを知りたいと会話を試みるが欲望に負けてしまう。 翌朝知った事実は取り返しがつかず、クロードの頭を悩ませるがもう遅い。 クロードが抱いたのは妻のセラフィーネではなくフィリーナという女性だった。 フィリーナは自分の願いごとを叶えるために代理で子を産むことになったそうだ。 願いごとが叶う時期を待つフィリーナとその願いごとが知りたいクロードのお話です。

誤解されて1年間妻と会うことを禁止された。

しゃーりん
恋愛
3か月前、ようやく愛する人アイリーンと結婚できたジョルジュ。 幸せ真っただ中だったが、ある理由により友人に唆されて高級娼館に行くことになる。 その現場を妻アイリーンに見られていることを知らずに。 実家に帰ったまま戻ってこない妻を迎えに行くと、会わせてもらえない。 やがて、娼館に行ったことがアイリーンにバレていることを知った。 妻の家族には娼館に行った経緯と理由を纏めてこいと言われ、それを見てアイリーンがどう判断するかは1年後に決まると言われた。つまり1年間会えないということ。 絶望しながらも思い出しながら経緯を書き記すと疑問点が浮かぶ。 なんでこんなことになったのかと原因を調べていくうちに自分たち夫婦に対する嫌がらせと離婚させることが目的だったとわかるお話です。

義兄のために私ができること

しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。 しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。 入り婿である義兄はどこまで知っている? 姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。 伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。

政略結婚はお互い様なので自由度もお互い様でいいですね。

しゃーりん
恋愛
突然、結婚を命じられた子爵令嬢サフィニア。相手は侯爵令息ギルバート。 父親も高位貴族からの命令のような打診を断れなかった。 結婚式もなく、婚姻届を出すだけなのですぐに嫁いで来るように言われて… 子供を産んだら自由?でも愛人が育てる? そちらが自由ならこちらもよね? 嫁いだ先の仕打ちに自由に過ごすことにしたサフィニアのお話です。

男女の友人関係は成立する?……無理です。

しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。 ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。 ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。 それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。 その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。

禁断の関係かもしれないが、それが?

しゃーりん
恋愛
王太子カインロットにはラフィティという婚約者がいる。 公爵令嬢であるラフィティは可愛くて人気もあるのだが少し頭が悪く、カインロットはこのままラフィティと結婚していいものか、悩んでいた。 そんな時、ラフィティが自分の代わりに王太子妃の仕事をしてくれる人として連れて来たのが伯爵令嬢マリージュ。 カインロットはマリージュが自分の異母妹かもしれない令嬢だということを思い出す。 しかも初恋の女の子でもあり、マリージュを手に入れたいと思ったカインロットは自分の欲望のためにラフィティの頼みを受け入れる。 兄妹かもしれないが子供を生ませなければ問題ないだろう?というお話です。

処理中です...