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彼は王族でありながら、ままならない実情が辛いのだろう。
王族であることが嫌になってしまったのではないか。そう思った。
「王太子である私が責任を放棄することで、ハーブス男爵家の婿になる。それが何の罰も受けていない王家に与えられるべき罰なのではないか。そう思ったこともある。
だが、こんな私が君の夫になるのは罰ではなく褒美になってしまうだろう?」
一番、出会ってはいけなかった令嬢に恋をしたと彼は言った。
「私は王太子をやめるから、オリヴィエ嬢は次の王太子の婚約者になれ、などと言えるはずもない。
彼女は私の婚約者ではなくなれば、嫁ぎ先が難しくなる。彼女の人生を壊してしまう。
結局、私は王太子であることをやめられないし、ハーブス家の罰を終わらせることもできないんだ。」
自嘲するようにそう言った彼は泣きそうに見えた。
王家はハーブス家だけが罰を受け続けていることを、自分たちにはもう関係のないことだとしているのだと思っていた。
『ワケアリ』結婚相手を選ぶときだけ、過去の王太子の出来事を思い出すくらいで。
だけど、彼はハーブス家のことで苦悩していた。
彼だけでなく、いままでの国王陛下もそうだったのかもしれない。王女の命令に従い結婚させた。
国益・国民とハーブス家を天秤にかけると前者に傾くのは当然のこと。
それだけ、書面で残された約束事というのは国として重いものなのだろう。
それに彼は、マドラス公爵令嬢が勘違いしたような考えは持っていない。
罰を受け続ける男爵家でなくとも、男爵令嬢を王太子妃にしたいなどと思ってはいなかったのだ。
もちろん、側妃にするにも男爵家では格が低すぎて認められにくい。
通常、側妃も厳選する必要があるのだから。
8年間、王太子妃教育を受け、なんの瑕疵もない公爵令嬢の人生は壊せない。王太子殿下は自分のことだけでなくちゃんと周りも見えている。
もし、王太子に相応しい人物が他にいたら。もし、マドラス公爵令嬢に相応しい嫁ぎ先があれば。
そう、願ってしまったことを咎めることはできないが、現実的ではなかった。
彼も、婚約を考え直したいと口に出してしまったことを悔いているようだ。
失言に間違いない。
罰を受けてハーブス家の婿になる。
彼がローリエと同じ発想を思い描いたと聞いたときは、密かに嬉しかった。
彼の苦悩を知れたことで、改めてローリエは『ワケアリ』夫を受け入れる覚悟ができた。
彼に恋をしてよかった。そう思えた。
「悩む必要はありません。あなたは王太子としてマドラス公爵令嬢と結婚する。そして私はハーブス男爵家4代目として罰を受けます。
何も変わっていないように思いますが、それは違います。
ここであなたに会うことがなければ、ハーブス家は王家にいい感情を持たないままでした。
ですが、王族としてのあなたの苦悩を知ることができた。それを王家への罰だと思うことにします。」
「……私と出会えてよかったと思ってくれるのか?」
「はい。」
「最後に……一度だけ外で会ってくれないか。オリヴィエ嬢には許可を取る。」
婚約者のマドラス公爵令嬢が許してくれるのであれば、最後の思い出が欲しい。
「わかりました。」
彼が卒業する前の日、私たちは外で会う約束をした。
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