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彼との待ち合わせの場所に早く着いた。
明日の卒業式に下級生は出席しない。なので、彼に会う最後の日になるだろう。
図書館以外で会うことのなかった私たちの、最初で最後のデート。
前に彼が話していた、夕日と星空が綺麗に見える丘に連れて行ってくれるらしい。
そこでお互いの気持ちを思い出にする。そういうことだろう。
彼も、待ち合わせ時刻よりも少し早めに着いたようで、そのまま目的地まで歩いた。
彼が前。私は少し斜め後ろ。おそらく、少し前に歩いている人と後ろの人は護衛だろう。
無言のまま、少し小高い丘まで登った。
ちょうど夕日が沈み、夜空に星が見える前の幻想的な光景は見たことがないほど美しいものだった。
見とれている間に夜が進み、気がつけば星空になってきていた。
「綺麗だっただろう?」
「はい。こんなに美しい景色は初めて見ました。」
「君に、覚えていてほしかった。夕日を、星空を見るたびに、私のことを心の片隅に。
ズルい男だろう?君の側にいることはできないのに覚えていてほしいなんて。
ほんの一時だけ、君と幸せになる夢を見た、愚かな男のことを。
君は私の初恋だ、ローリエ。」
名前で呼ばれ、前から聞きたかったことを聞いてみた。
「『ジェイ』って、偽名ですか?図書館でそう呼ばれていましたよね?」
「いや、ミドルネームだ。クレソンだと君にバレそうだったから。」
「そうでしたか。では今だけジェイと呼ばせていただきますね?私もあなたが初恋です、ジェイ。」
私たちは見つめ合って微笑むだけしかできなかった。手も繋げない、抱擁もできない関係だから。
「初恋の人は忘れません。絶対に。この先、誰かを好きになることがあっても。」
「私も忘れないよ。だけど前を向いて進まなければならない。進まなくてよくなるまで。だから、私に一つだけ希望をくれないか?」
「希望?」
「ああ。いつのことになるかはわからないが、目標がほしいんだ。」
私たちはその後、一つの約束をして、別れた。
ローリエは王都の学園から領地に近い学園へと2年生から編入した。
王都にいれば、彼の情報を嫌というほど耳にすることになると思ったから。
だが、どこにいても大きな話題は耳にすることになる。
クレソン王太子殿下とマドラス公爵令嬢が卒業半年後に予定通り結婚したこと。
結婚から1年後に王太子妃の妊娠が発表されたこと。
産まれたのは王子だったこと。
辛く思う気持ちもあったが、国民として祝福した。
そして王子が産まれた同じ頃、ローリエは『ワケアリ』の男性と結婚した。
伯爵家の長男だったディル。
しかし、夫はこれまでの『ワケアリ』とは少し違った。
表向きは、家の金を持ち出して平民女性に貢ぎ、見かねた弟が兄の婚約者を慰めて、跡継ぎの座も婚約者の令嬢も弟のものになり兄は放逐されたことになっている。
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夫ディルは心優しい人だ。
「僕よりも弟の方が、彼女も領民も幸せにできると思っただけだよ。」
そう笑って言った。
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結婚当初はそう言っていた。
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