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ローリエと夫ディルは離婚を選ばなかった。
「10年経ったわよ?」
ローリエがそう言うと、ディルはとぼけたように答えた。
「10年?何だったかな?忘れたよ。どうでもいいことだったんじゃないか?」
ディルは笑顔でローリエと子供2人との暮らしを選んだ。
「ローリエと子供たちを愛してるよ。」
「私もよ。ありがとう。」
そう言って抱き合った。
それから9年後、ハーブス男爵家5代目となる長男ダモンの結婚相手が決まった。
表向きは、平民の男に現をぬかした令嬢ということになっているが、令嬢アニスもアニスの婚約者にもそれぞれ別に思い人がいたため、実情は円満婚約解消となっている。
もちろん、アニスの思い人というのがハーブス家のダモンということだ。
要するに5代目は恋愛結婚のようなものである。
この采配は、国王陛下となったクレソンによるものだった。
ローリエの結婚相手となったディルについてもクレソンが人柄を見抜き、暴力的な男ではないと判断して父である当時の国王陛下に助言していたのだ。
表向きは『ワケアリ』と結婚したことになる4代目と5代目。
10年経てば離婚は認められるが、離婚しなければならないわけではない。
クレソンはローリエのために、最善を尽くした。
結婚20年目には孫も産まれた。この子は罰から自由になった。
ようやく、ハーブス家は王家の縛りから解放されたように感じた。
結婚22年目、夫ディルが亡くなった。川で溺れた領民を救出した後、力尽きたらしい。
若くもないのに無理をして……だが、優しい夫らしい最期だと思った。
その翌年、クレソン国王陛下が病のため退位することになり、数か月後に訃報が届けられた。
クレソンはまだ43歳だった。
ローリエは驚いた。夫に続く早すぎる死に。
その年のある日、ローリエは25年前に訪れたあの丘にやってきた。
彼、ジェイと約束をしたからだ。彼が望んだ希望。それがこの日だった。
『この卑怯な私が王太子として、国王として責務を全うするための希望がほしい。何十年か後、私はその責務を終えることになる。国王を退位した年のこの日、ローリエとここで一度だけ会いたい』
彼はそう望んだ。それはおそらく50代のことになるだろうという認識だった。
あれからどういう人生を過ごしてきたか、辛かったのか幸せだったのか、お互い報告し合うという約束があれば悔いなく日々を過ごす目標になるから、と彼は言った。
あの時の彼には、この約束が原動力として必要だったのだ。
彼が病で退位したことを知ったとき、約束の日に来られないかもしれないと思った。
だが、その日までに亡くなるとは思ってもみなかったのだ。
ローリエは丘の上で、心の中でジェイに報告をした。
夫が優しくていい人だったこと。
夫を好きになって幸せだったこと。
子供が2人産まれて、可愛い孫まで産まれたこと。
昨年、夫が亡くなって寂しいこと。
学園の図書館ほどではないが、近くに大きな図書館ができて嬉しいこと。
その図書館にも学園にあったのと似た空間があってそこで過ごすのが好きなこと。
星座を本で覚えて、星空で探すのが楽しいこと。
一方的な報告を終え、ローリエは領地へと帰った。
そして、翌年もまた同じ日にあの丘へと向かった。
またその翌年も……
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