出会ってはいけなかった恋

しゃーりん

文字の大きさ
15 / 17

15.

 
 
ローリエと夫ディルは離婚を選ばなかった。


「10年経ったわよ?」


ローリエがそう言うと、ディルはとぼけたように答えた。


「10年?何だったかな?忘れたよ。どうでもいいことだったんじゃないか?」


ディルは笑顔でローリエと子供2人との暮らしを選んだ。


「ローリエと子供たちを愛してるよ。」

「私もよ。ありがとう。」


そう言って抱き合った。





それから9年後、ハーブス男爵家5代目となる長男ダモンの結婚相手が決まった。

表向きは、平民の男に現をぬかした令嬢ということになっているが、令嬢アニスもアニスの婚約者にもそれぞれ別に思い人がいたため、実情は円満婚約解消となっている。

もちろん、アニスの思い人というのがハーブス家のダモンということだ。

要するに5代目は恋愛結婚のようなものである。


この采配は、国王陛下となったクレソンによるものだった。
ローリエの結婚相手となったディルについてもクレソンが人柄を見抜き、暴力的な男ではないと判断して父である当時の国王陛下に助言していたのだ。 


表向きは『ワケアリ』と結婚したことになる4代目と5代目。
10年経てば離婚は認められるが、離婚しなければならないわけではない。

クレソンはローリエのために、最善を尽くした。




結婚20年目には孫も産まれた。この子は罰から自由になった。
ようやく、ハーブス家は王家の縛りから解放されたように感じた。

 

結婚22年目、夫ディルが亡くなった。川で溺れた領民を救出した後、力尽きたらしい。
若くもないのに無理をして……だが、優しい夫らしい最期だと思った。


その翌年、クレソン国王陛下が病のため退位することになり、数か月後に訃報が届けられた。
クレソンはまだ43歳だった。
 

ローリエは驚いた。夫に続く早すぎる死に。




その年のある日、ローリエは25年前に訪れたあの丘にやってきた。

彼、ジェイと約束をしたからだ。彼が望んだ希望。それがこの日だった。
 
 
『この卑怯な私が王太子として、国王として責務を全うするための希望がほしい。何十年か後、私はその責務を終えることになる。国王を退位した年のこの日、ローリエとここで一度だけ会いたい』
 

彼はそう望んだ。それはおそらく50代のことになるだろうという認識だった。
 
あれからどういう人生を過ごしてきたか、辛かったのか幸せだったのか、お互い報告し合うという約束があれば悔いなく日々を過ごす目標になるから、と彼は言った。

あの時の彼には、この約束が原動力として必要だったのだ。


彼が病で退位したことを知ったとき、約束の日に来られないかもしれないと思った。
だが、その日までに亡くなるとは思ってもみなかったのだ。



ローリエは丘の上で、心の中でジェイに報告をした。 

夫が優しくていい人だったこと。
夫を好きになって幸せだったこと。
子供が2人産まれて、可愛い孫まで産まれたこと。
昨年、夫が亡くなって寂しいこと。
 
学園の図書館ほどではないが、近くに大きな図書館ができて嬉しいこと。
その図書館にも学園にあったのと似た空間があってそこで過ごすのが好きなこと。
星座を本で覚えて、星空で探すのが楽しいこと。

一方的な報告を終え、ローリエは領地へと帰った。




そして、翌年もまた同じ日にあの丘へと向かった。

またその翌年も……
 


 
 

あなたにおすすめの小説

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

某国王家の結婚事情

小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。 侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。 王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。 しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。

嘘が愛を試す時 〜君を信じたい夜に〜

月山 歩
恋愛
サラとマリウス・ハンプトン侯爵夫婦のもとに、衝撃的な告白を携えた男が訪れる。「隠れてサラと愛し合っている。」と。 身に覚えのない不貞の証拠に、いくらサラが誤解だと訴えてもマリウスは次第に疑念を深めてゆく。 男の目的はただ一つ、サラを奪うこと。 *こちらはアルファポリス版です。

公爵令嬢は運命の相手を間違える

あおくん
恋愛
エリーナ公爵令嬢は、幼い頃に決められた婚約者であるアルベルト王子殿下と仲睦まじく過ごしていた。 だが、学園へ通うようになるとアルベルト王子に一人の令嬢が近づくようになる。 アルベルト王子を誑し込もうとする令嬢と、そんな令嬢を許すアルベルト王子にエリーナは自分の心が離れていくのを感じた。 だがエリーナは既に次期王妃の座が確約している状態。 今更婚約を解消することなど出来るはずもなく、そんなエリーナは女に現を抜かすアルベルト王子の代わりに帝王学を学び始める。 そんなエリーナの前に一人の男性が現れた。 そんな感じのお話です。

【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」

仙冬可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。 「で、政略結婚って言われましてもお父様……」 優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。 適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。 それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。 のんびりに見えて豪胆な令嬢と 体力系にしか自信がないワンコ令息 24.4.87 本編完結 以降不定期で番外編予定

私の婚約者様には恋人がいるようです?

鳴哉
恋愛
自称潔い性格の子爵令嬢 と 勧められて彼女と婚約した伯爵    の話 短いのでサクッと読んでいただけると思います。 読みやすいように、5話に分けました。 毎日一話、予約投稿します。

【完結】嘘も恋も、甘くて苦い毒だった

綾取
恋愛
伯爵令嬢エリシアは、幼いころに出会った優しい王子様との再会を夢見て、名門学園へと入学する。 しかし待ち受けていたのは、冷たくなった彼──レオンハルトと、策略を巡らせる令嬢メリッサ。 周囲に広がる噂、揺れる友情、すれ違う想い。 エリシアは、信じていた人たちから少しずつ距離を置かれていく。 ただ一人、彼女を信じて寄り添ったのは、親友リリィ。 貴族の学園は、恋と野心が交錯する舞台。 甘い言葉の裏に、罠と裏切りが潜んでいた。 奪われたのは心か、未来か、それとも──名前のない毒。

4人の女

猫枕
恋愛
カトリーヌ・スタール侯爵令嬢、セリーヌ・ラルミナ伯爵令嬢、イネス・フーリエ伯爵令嬢、ミレーユ・リオンヌ子爵令息夫人。 うららかな春の日の午後、4人の見目麗しき女性達の優雅なティータイム。 このご婦人方には共通点がある。 かつて4人共が、ある一人の男性の妻であった。 『氷の貴公子』の異名を持つ男。 ジルベール・タレーラン公爵令息。 絶対的権力と富を有するタレーラン公爵家の唯一の後継者で絶世の美貌を持つ男。 しかしてその本性は冷酷無慈悲の女嫌い。 この国きっての選りすぐりの4人のご令嬢達は揃いも揃ってタレーラン家を叩き出された仲間なのだ。 こうやって集まるのはこれで2回目なのだが、やはり、話は自然と共通の話題、あの男のことになるわけで・・・。