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しおりを挟むユリアは唖然としてシグルドが語ったことを聞いていた。
「え?ちょっと待って?あの日が初めてじゃなくて、いつも東屋にいたの?」
「言っておくけど、ユリアが一人であのベンチに通い始める前から僕は東屋で過ごしていた。
君は僕の後に来て、いろんな独り言を言って去って行った。
僕は聞こえて来た声に耳を傾けていただけ。まぁ、それを期待して通い続けたけど。」
あの東屋は通用門の近くにあるけれど、その通用門は基本的に学生は使えないことになっている。
なので、あの付近に現れる学生はほとんどいない。
ユリアは母が亡くなった後、一人になりたいときにあの静かな場所を見つけた。
東屋の中に入らなかったのは、囲われた空間にいると授業に出たくなくなりそうだったから。
ベンチでは領地を失うことになった父への恨み言や、弟アールのために学費を稼ごうと父が前向きになったこと、弟が家事を覚えたことなど誰にも言えないことを呟く時間になっていたのだ。
まさか、シグルドに聞かれていたなんて思ってもみなかった。
聞いてしまった体を売るという覚悟に同情して、本当に善意でお金を恵んでくれると言い出したと思っていたから。
それはさすがに気が咎めて、ユリアは自分から愛人になると言った。
いつか純潔を失うのであれば、シグルドのように若くて優しくて期間限定の男がちょうどいいと思った。
彼なら、誰にも話さないだろうから。
お金と引き換えに、抱いてほしいと言いやすかった。
「じゃあ、シグルドは私が愛人にしてほしいって言った時、困ったり悩んだりしてなかったの?」
「僕は本当に下心なく学費を援助しようと思っていたんだ。
だけど、ユリアから愛人にしてほしいって言ってるのに断れるわけないだろ?
最初の男になりたいって当然思うじゃないか。
だから僕はユリアの気が変わらないうちに、手続きを済ませたんだ。」
その日のうちにユリアの弟アールの学費と寮費、そして必要経費に使うお小遣いをそれぞれに振り込んだ。
そして別邸の使用人たちに、卒業まで女性と泊まらせる日があるので、その時は夕食と朝食の準備をするように頼んだ。
『客間のご準備は?』と聞かれたので、『必要ない』と答えた。
これで閨を共にする女性であると彼らはわかる。
避妊薬やお風呂に着替え、タオルなど必要なものを全て部屋に準備してくれるのだ。
『ご令嬢のお名前をお伺いしても?』と聞かれたので答えた。
どんな令嬢なのか、調べられることもわかっていたし、両親に伝わることもわかっていた。
だが、卒業までという関係で理解してくれると思った。
隣国第4王女メラニーを妻に迎えなければならない。
それを両親も悲痛に思ってくれていたから。
隣国国王には言われていた。
『遊び相手の女はいても構わない。ただ、メラニーより先に妊娠させてはいけない』
つまり、浮気、愛人は肯定されているのだ。隣国はそういう王族だから。
シグルドはメラニーと結婚してからでないと愛人が必要になるかはわからなかった。
子供ができれば、閨事は拒否されそうだとは思った。
王女が僕に興味を持つことはない気がするから。
人形のような彼女を愛することは僕も無理だろう。
でも、何らかの情を感じれば、愛人は必要ないかもしれないとその時は思っていた。
もちろん、結婚前にも浮気するつもりはなかった。一応、婚約者のいる身だから。
だけど、好意を持っていても触れることの叶わないと思っていたユリアからの誘惑に勝てるはずもない。
シグルドは王女に対しての誠意を捨てることにしたのだ。
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