義兄のために私ができること

しゃーりん

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義兄のために私ができること

 
 
 
5歳年上の姉サリーナが亡くなった。19歳だった。

原因は出産時の失血が原因。



手の施しようがなくなった時、姉が私を呼んだ。
二人きりで最期に話したいと。
そして衝撃的な話を残して、そのまま亡くなった。



私アリサは伯爵家の二女で、昨年、姉が結婚するまでは父と姉と私の三人家族だった。
母は私が10歳の時、馬車の事故で亡くなった。
父は数年前から体調が悪く、姉の婚約者であった侯爵家三男のアルベルトが仕事を手伝っていた。
姉が学園を卒業した昨年、アルベルトが入り婿となり伯爵家の一員となった。
私が13歳、姉が18歳、アルベルトが20歳の時だった。


そして今、この伯爵家に住んでいるのは、

・伯爵である父ロバート(病気療養中)
・伯爵家の仕事をしているアルベルト(入り婿だが妻死亡)
・姉の子であるデイジー(実父不明)
・アリサ

の四人である。


姉の話では、デイジーが自分の子ではないと義兄は知っているという。
ということは、アルベルトがこの伯爵家に留まる理由はない。
しかし、病気の父を気遣ってか、何も言ってこない。
やはり私から話をしなければならないと、アリサはアルベルトの執務室へ向かった。


『義兄のために私ができること』を考えなければいけない。



「アル義兄様、お話があるのですが、お時間よろしいでしょうか?」

「アリサか。いいよ。お茶を飲みながら話そう。」

「お忙しいところ申し訳ありません。
 …アル義兄様は、今後のことをどうお考えですか?」

「お父上には聞いたかい?」

「いえ、まだです。…父はデイジーのことを知っているのでしょうか?」

「…サリーナから聞いてたのか?あぁ、あの最期の時?」

「はい。自分の過ちで身籠ったと。父の病気のこともあって義兄様はここにいてくれてると。」

「頃合いを見て離婚して、その男と結婚し直すかと聞いたんだが、相手を言わなかった。」

「義兄様はどう聞いているのですか?私が聞いたことが全てかわからないんです。」

「…初夜に、いきなり泣き出したんだ。このまま騙せないと。
 俺が浮気している、結婚してからも愛人として囲う女性がいると人から聞いて、腹が立ったらしい。
 結婚式の一月ほど前にあった仮面舞踏会で酒を飲み過ぎて関係をもってしまったそうだ。 
 相手は誰かわからないと言っていた。…気付いてた可能性はあるが…
 後悔したが、俺も浮気をしているなら文句は言わないだろうと思っていたらしい。
 だが…月のものがこなくて不安なまま結婚式になった。
 俺に愛人がいると言った女性が『あれは冗談だ。結婚前に与えたちょっとした刺激だ』と言ったらしい。
 俺が浮気していないと知って、初夜で妊娠を誤魔化そうと思ったことが怖くなったらしい。
 もし、本当に妊娠していたら…俺の子だと一生嘘をつき通すのは無理だろうと。
 俺はサリーナを抱いていない。だから、デイジーの父ではない。」

「私が聞いた話とほぼ一緒です。
 姉が言うには、その女性はアル義兄様のことが好きだったのだろう、と。
 ちょっとした諍いでも起こしたかった程度で、実際、結婚式の日に冗談だったと言われた。
 自分が馬鹿だったと言っていました。」

「伯爵は知らないんだ。デイジーのこと。
 でも、実父が誰でも伯爵にとってデイジーは孫だ。だからそこは問題ない。
 アリサが心配しているのは、今後の伯爵家を誰が継ぐかだろ?
 伯爵は俺がデイジーの父だと思っているから、俺を中継ぎとしてデイジーを跡継ぎにする案があると思う。
 だが君は、実子でもないデイジーのために俺が伯爵家にいるのが申し訳なく思ってる。
 なら、自分が伯爵家の跡継ぎになり婿をとりたいが、まだ14歳で継げない上に仕事もできない。
 どうしたらいいかお父上に相談する前に俺に確認にきたんだね。」

「そのとおりです。病気の父には心配事をこれ以上増やしたくはありません。
 アル義兄様がこのまま伯爵家にいて誰かと再婚した場合、その子供は伯爵家の血縁ではないので継げません。
 デイジーか私の子が跡継ぎです。
 だから、アル義兄様が出ていかれるのであれば、その前に私に仕事を教えてもらえないかと思って。
 来年から学園に入るはずだったけど、義務じゃないし。
 16歳で結婚するために学園を1年で辞める女性もいるでしょ?
 だからお父様には、私が婿をとって跡継ぎになる。デイジーも私の娘にするって言うわ。
 あと2年で結婚できるから、一緒に仕事をしてくれる人を探そうと思って。」

「アリサ、仕事も大事だけど、学園で友人をつくることも大事だよ。
 跡継ぎになるなら、人脈作りも大切だ。
 16歳で結婚するにしても、1年だけでも行くべきだ。
 君の覚悟を聞いて、案が二つある。アリサが選んで伯爵に進言してほしい。
 一つは、現在18歳以上で婿入りが可能な人物を婚約者にし、俺は仕事を教えた後、伯爵家を去る。
 もう一つは、俺がアリサの婚約者になる。仕事はこのまま。結婚は18歳まで待ってもいい。」

アリサは少しの間、絶句した。

「…アル義兄様、どちらの案も伯爵家のためでアル義兄様の時間を犠牲にしてしまいます。
 もちろん、私たちは助かるのですが、本当に良いのですか?」

「ああ。3年近くこの伯爵家の仕事を手伝ってきて、すごく大切に思ってる。
 アリサに任せるにしても見知らぬ婚約者候補に任せるにしても、領民を困らせるような状態にしたくない。
 犠牲だなんて思わないよ。
 どうするか、少し考えればいい。」

「いえ、決めました。父に伝えに行きます。アル義兄様も一緒に聞いてくれますか?」

「わかった。行こう。」


二人で父の部屋へ向かい、ドアをノックした。


「どうぞ。」


父の声が聞こえた。起きているようだ。
部屋に入ると、窓辺の椅子に父が座っていた。今日は体調が良さそうだ。


「お父様、今後の伯爵家についてアル義兄様とお話をしました。
 それで私が決めたことを聞いていただきたいのです。
 よろしいでしょうか?」

「ああ。私が考えないといけないことを子供のアリサに悩ませたね。
 不甲斐ない父親で申し訳ない。聞こう。」

「私は、この伯爵家のために………………」








あれから2年後、16歳になったアリサは結婚した。
夫となった人は学園を卒業する18歳まで結婚を待つと言ってくれたが、私が家に居たかった。

病気の父、幼い姪のデイジー、そして伯爵家の仕事をしてくれる夫。
皆のそばに居たかった。

結婚から一年後、17歳で長男ルイスを出産した。
父は涙を流して喜び、その2か月後、眠るように亡くなった。穏やかな顔をしていた。



月日は流れ、アリサは20歳になった。


「お母様、テラスでお菓子を食べましょう?
 ルイスとお父様も呼んでくるから先に行って待っててね。」


6歳のデイジーが『早くお菓子が食べたい』という気持ちを隠さずに、二人を迎えに行った。

テラスの椅子に座ってすぐ、三人はやってきた。

3歳のルイスは、ようやく自分の手であれこれ食べるが口の周りに食べカスが付いている。
それをデイジーが綺麗に拭いてやっている。お姉さんぶりたい年頃なのだ。
そんな二人の姿を27歳になった夫アルベルトと微笑ましく見ていた。


「アリサ、体調は問題ない?」

「ええ。大丈夫よ。今にも出てきそうなくらい、よく蹴ってくれるわ。」


アリサは二人目の子供を間もなく出産する予定だ。はち切れそうなお腹をさすっている。
姉サリーナが出産による失血が原因で亡くなったため、アルベルトは神経質になってる。
お菓子を食べ終わり、遊んでいる子供たちを見ていた時、アルベルトが言った。


「アリサ、君を心から愛してる。
 君の夫になれて子供たちの父になれて幸せだ。
 7歳も年上の僕を選んでくれてありがとう。」

「お礼を言うのはこっちよ?
 あの時、あなた以上に伯爵家のために尽くしてくれる人はいないと思った。
 それに…元々私はあなたのことを憧れていたのよ。
 少女だった私の前に王子様のようにかっこよくて優しい人がいるんだもの。
 誰と出会ってもあなたと比べてしまうと思ったわ。」

「サリーナとの婚約中は、二人の関係を築く前に仕事に夢中になってしまった。
 結婚後に徐々に仲良くなれればって思ってたけど、彼女は不満だったんだろうな。
 だから君とは早く信頼関係を築きたかった。
 君が学園に行っている時、本当は不安だったんだ。
 7歳も年上の俺より、同年代の男に惹かれるんじゃないかって。
 18歳まで通ってもいいなんて余裕ぶってたけど、実際はどんどん綺麗になっていくアリサを取られそうで。
 だから、結婚して安心したかった。俺のアリサだって。
 早くルイスが出来たのも…俺の欲望の結果だな…」

「でもそのお陰で、父にルイスを会わせてあげられたわ。
 父はデイジーのこと、気付いていたのかもしれない。
 髪色や瞳の色、顔立ち…違和感があったのかも。今のあの子は姉そっくりだけど。
 父はあなたのことを本当の息子みたいに気に入って大事に思ってた。
 ルイスが生まれて、あなたを本当に伯爵家の一員にすることができたと思ったんじゃないかしら?」

「そうなのかもな。アリサ、愛してるよ。」

「私も愛してるわ、アル様。」

そう言い合いキスをしていると、子供たちが『僕も~』『私も~』と寄ってきた。

額にキスをすると喜びながら駆け回る。とても幸せな日常に溢れていた。



『義兄のために私ができること』を考えた結果、アリサが望む最高の結果となった。





<終わり>

 
 

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