裏切る前提の結婚は、心が痛かった

しゃーりん

文字の大きさ
1 / 30

1.

しおりを挟む
 
 
レティシアは、リオンに会いに行く途中の宿で足止めされていた。

長雨による土砂崩れだった。


リオンはレティシアの元婚約者で、妹ルチアの元夫でもある。 

『三年経ったら離婚して、一緒になろう』

お互いが別の相手と結婚する前に、リオンはレティシアにそう言った。


リオンは昨年、独り身になった。

レティシアは少し前に離婚届にサインをした。
 

レティシアはリオンとの約束のために、リオンに会いに行くのではない。

『リオンとは一緒になれない』
 
そう告げるために、会いに行こうとしている。

 
そして、こうして足止めされている間に、一緒になれない理由がもう一つ増えてしまった。


三年間、夫のジョエルを裏切り続けた報いなのかもしれない。


今後の生活に不安を覚えながら、窓の外の土砂降りの雨を眺めていた。





今から三年半ほど前、レティシアは学園を卒業してリオンとの結婚式を楽しみに待っていた。

母と二人、談話室でおしゃべりをしていると、妹のルチアが帰って来た。
ルチアはレティシアの一歳下で学園の最終学年になったところである。
 

「おかえりなさい。遅かったわね。物騒なんだから寄り道はしないで帰りなさい。」

「物騒って、あれは心中事件で解決したでしょう?」

「あぁ、そうだったわね。でも身近で起こると落ち着かないのよ。」
 

少し前に学園の敷地奥にある池に、ルチアの同級生の男女が浮かんで亡くなっていた。

事故、事件の両方で捜査されていたけれど、心中ということで解決したらしい。

二人が恋仲だったことは誰も知らなかったようだけど。
 

「まさか、またジョエル様のところにお邪魔したの?」


母の問いに、ルチアは顔を顰めた。

ジョエルはルチアの婚約者。
ルチアよりも二歳年上のジョエルは、アーノン侯爵家の跡継ぎとして忙しい。

それなのに、度々ルチアが訪れているようで、迷惑をかけているらしい。 


「……お姉様は幸せそうね。」

「ルチア?どうかしたの?」


まるで、自分は幸せではない。そう言っているかのように思えた。 


「なんでもないわ。着替えてくる。」


いつも明るいルチアの表情が気になった。

気になったのに、母が話の続きをし始めたことで追いかけなかった。


この時、ちゃんと話を聞いてあげていたら、私たちは仲のいい姉妹でいられたかもしれない。

 
 
二日後、妹ルチアと婚約者のリオンが部屋に二人きりでいるところを見て、いろんなことが変わらざるを得ないことになるとは思いもしていなかったから。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]

風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが 王命により皇太子の元に嫁ぎ 無能と言われた夫を支えていた ある日突然 皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を 第2夫人迎えたのだった マルティナは初恋の人である 第2皇子であった彼を新皇帝にするべく 動き出したのだった マルティナは時間をかけながら じっくりと王家を牛耳り 自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け 理想の人生を作り上げていく

【完結】白い結婚はあなたへの導き

白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。 彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。 何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。 先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。 悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。 運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》

私の婚約者はちょろいのか、バカなのか、やさしいのか

れもんぴーる
恋愛
エミリアの婚約者ヨハンは、最近幼馴染の令嬢との逢瀬が忙しい。 婚約者との顔合わせよりも幼馴染とのデートを優先するヨハン。それなら婚約を解消してほしいのだけれど、応じてくれない。 両親に相談しても分かってもらえず、家を出てエミリアは自分の夢に向かって進み始める。 バカなのか、優しいのかわからない婚約者を見放して新たな生活を始める令嬢のお話です。 *今回感想欄を閉じます(*´▽`*)。感想への返信でぺろって言いたくて仕方が無くなるので・・・。初めて魔法も竜も転生も出てこないお話を書きました。寛大な心でお読みください!m(__)m

【完結】どうか私を思い出さないで

miniko
恋愛
コーデリアとアルバートは相思相愛の婚約者同士だった。 一年後には学園を卒業し、正式に婚姻を結ぶはずだったのだが……。 ある事件が原因で、二人を取り巻く状況が大きく変化してしまう。 コーデリアはアルバートの足手まといになりたくなくて、身を切る思いで別れを決意した。 「貴方に触れるのは、きっとこれが最後になるのね」 それなのに、運命は二人を再び引き寄せる。 「たとえ記憶を失ったとしても、きっと僕は、何度でも君に恋をする」

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

ミュリエル・ブランシャールはそれでも彼を愛していた

玉菜きゃべつ
恋愛
 確かに愛し合っていた筈なのに、彼は学園を卒業してから私に冷たく当たるようになった。  なんでも、学園で私の悪行が噂されているのだという。勿論心当たりなど無い。 噂などを頭から信じ込むような人では無かったのに、何が彼を変えてしまったのだろう。 私を愛さない人なんか、嫌いになれたら良いのに。何度そう思っても、彼を愛することを辞められなかった。 ある時、遂に彼に婚約解消を迫られた私は、愛する彼に強く抵抗することも出来ずに言われるがまま書類に署名してしまう。私は貴方を愛することを辞められない。でも、もうこの苦しみには耐えられない。 なら、貴方が私の世界からいなくなればいい。◆全6話

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

処理中です...