破滅は皆さんご一緒に?

しゃーりん

文字の大きさ
1 / 2

前編

しおりを挟む
 
 
学園からの帰宅途中、急に馬車が揺れて止まり、ドアが開かれるとナイフが見えた。
それを突きつけた男に従い、サラシュは馬車を乗り換えた。…侍女を馬車に残して一人で。



それから数日後、出席を予定していた夜会にサラシュは父と参加した。
婚約者ボーデンがパートナーになるはずが、突然、エスコートできないと連絡を受けたためだ。
友人と出会い白ワインを片手に談笑していると、ボーデンが大声でサラシュの名前を呼んだ。
サラシュは離れたところで自分を呼ぶボーデンに近づいて言った。
 
「ボーデン様?どうされました?」
 
「いたか、サラシュ。お前との婚約を破棄する!!!」

周りはシーンとして注目している。 

「…別に構いませんわ?ですが、ここで大声で言うことではありませんわよね?」

「お前に言い逃れさせないためだ!この傷物がっ!」

周りがザワザワとし出した。

「…傷物とは?何のことでしょうか?」

「しらばっくれるな!数日前、怪しい男たちに拉致されたと聞いたぞ!傷物じゃないか。」

周りはザワザワしながらも驚いている者、心配そうに見る者、真偽を確かめようと静観する者、扇子で口元を隠しても笑っているとわかる者、様々であった。それをサラシュはさりげなく見渡し確認していた。

「…相手はナイフを持っておりましたからね。
 御者と侍女が傷つけられないように相手の馬車には乗りましたよ。」

「ほらみろ!純潔が疑わしい女と結婚できるかっ!」

「彼らのアジトはすぐに制圧されて、私は身綺麗なままですわよ?」

「っそんな!本当のことはわからないじゃないか。金を積んで黙らせたか?」

「失礼ですね。我が家はそんなことは致しませんわ。」

「夫以外の男に身を任せた女など、罪人に等しいわ!跡継ぎが自分の子供か疑わしくなる。」

「…あなたがそれを仰いますか?」

視界の端で父が頷いているのを確認した。諦めた顔をしている。
迷惑をかけてしまうとサラシュは一瞬悩んだが、もう後には引けないと覚悟を決めた。

「あなたは身綺麗と言えるのですか?」

「う、うるさい!男と女では違うだろ?女は貞淑が求められるんだ!」

「…では、あなたの相手は男なのですね?」

周りから失笑が起こる。男相手が悪いわけではない。そう思われても可笑しくない発言だったからだ。

「何を言うんだ!女に決まってるだろ!」

「では、あなたは貞淑が求められるはずの女性たちを襲っているということになりますわね?」

「ば、馬鹿なことを言うな!同意に決まってるだろっ!」

「…夫以外だと罪人に等しく、跡継ぎか疑わしくなるのに?」

「しょ、娼婦はそれが仕事だろ?」

「そうですわね。お仕事の方は例外ですわね。でも……
 バラモン侯爵夫人、クレース侯爵夫人、アンドロス伯爵夫人、リモド子爵夫人、オランジア男爵夫人、モレ男爵夫人、ルル伯爵令嬢、イスター子爵令嬢、ジェット男爵令嬢、マーマン男爵令嬢姉妹、クリプトン男爵令嬢は妹さん、あとは貴族の庶子と平民のお嬢さん方。まだ他の貴族も未亡人の方もおられますが…」

「ちょお、ちょっと待て?なんでぇ?」

「あなたと婚約してから、あなたが関係を持った方々です。
 あえて名前をお呼びした方々は、私が拉致され傷物扱いされた時に笑われた方々です。
 笑われなかった方々は、一応名前は言いませんでしたが把握はしておりますわよ?」

あちらこちらで夫や婚約者に問い質される女性が見られる。

「ちなみに私を襲う計画をたてたのが誰であるか、わかっているのですよ?
 事前に知っていたため、我が家の騎士にも王都騎士団にも伝えており、私は囮だったのです。
 馬車では実行犯には眠っていただき、御者は知らないままアジトまでご案内下さいました。
 そして、騎士団による一網打尽でしたわ。ご存知ではない?」

父がこちらにやってきた。

「サラシュ、騎士団は首謀者に嘘の報告をさせたんだ。『依頼完了』と。そこの令嬢にな。」
 
ルル伯爵令嬢のイザベラが真っ青な顔をしている。側にはすでに騎士が立っていた。

「そうでしたの。彼女から聞いたボーデン様は私が傷物になったと思ったわけですね。
 …共犯なのに彼女に依頼させたのですね。
 婚約破棄の慰謝料が目的にしては杜撰な計画すぎません?」

「そ、そういう、可愛げのないところが、嫌いでムカつくんだっ!」

騎士に腕をとられたままボーデンは叫んだが、脱力し、ズルズルと引きずられて行った。


 






 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

復讐は静かにしましょう

luna - ルーナ -
恋愛
王太子ロベルトは私に仰った。 王妃に必要なのは、健康な肉体と家柄だけだと。 王妃教育は必要以上に要らないと。では、実体験をして差し上げましょうか。

【完結】やってしまいましたわね、あの方たち

玲羅
恋愛
グランディエネ・フラントールはかつてないほど怒っていた。理由は目の前で繰り広げられている、この国の第3王女による従兄への婚約破棄。 蒼氷の魔女と噂されるグランディエネの足元からピキピキと音を立てて豪奢な王宮の夜会会場が凍りついていく。 王家の夜会で繰り広げられた、婚約破棄の傍観者のカップルの会話です。主人公が婚約破棄に関わることはありません。

短編 お前なんか一生結婚できないって笑ってたくせに、私が王太子妃になったら泣き出すのはどういうこと?

朝陽千早
恋愛
「お前なんか、一生結婚できない」 そう笑ってた幼馴染、今どんな気持ち? ――私、王太子殿下の婚約者になりましたけど? 地味で冴えない伯爵令嬢エリナは、幼い頃からずっと幼馴染のカイルに「お前に嫁の貰い手なんていない」とからかわれてきた。 けれどある日、王都で開かれた舞踏会で、偶然王太子殿下と出会い――そして、求婚された。 はじめは噂だと笑っていたカイルも、正式な婚約発表を前に動揺を隠せない。 ついには「お前に王太子妃なんて務まるわけがない」と暴言を吐くが、王太子殿下がきっぱりと言い返す。 「見る目がないのは君のほうだ」 「私の婚約者を侮辱するのなら、貴族であろうと容赦はしない」 格の違いを見せつけられ、崩れ落ちるカイル。 そんな姿を、もう私は振り返らない。 ――これは、ずっと見下されていた令嬢が、運命の人に見初められる物語。

【完結】君を愛する事はない?でしょうね

玲羅
恋愛
「君を愛する事はない」初夜の寝室でそう言った(書類上の)だんな様。えぇ、えぇ。分かっておりますわ。わたくしもあなた様のようなお方は願い下げです。

許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?

珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。 それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。 ※全3話。

悪役令嬢は手加減無しに復讐する

田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。 理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。 婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。

わざわざ証拠まで用意してくれたみたいなのですが、それ、私じゃないですよね?

ここあ
恋愛
「ヴァレリアン!この場をもって、宣言しようではないか!俺はお前と婚約破棄をさせていただく!」 ダンスパーティの途中、伯爵令嬢の私・ヴァレリアンは、侯爵家のオランジェレス様に婚約破棄を言い渡されてしまった。 一体どういう理由でなのかしらね? あるいは、きちんと証拠もお揃いなのかしら。 そう思っていたヴァレリアンだが…。 ※誤字脱字等あるかもしれません! ※設定はゆるふわです。 ※題名やサブタイトルの言葉がそのまま出てくるとは限りません。 ※現代の文明のようなものが混じっていますが、ファンタジーの物語なのでご了承ください。

飽きたと捨てられましたので

編端みどり
恋愛
飽きたから義理の妹と婚約者をチェンジしようと結婚式の前日に言われた。 計画通りだと、ルリィは内心ほくそ笑んだ。 横暴な婚約者と、居候なのに我が物顔で振る舞う父の愛人と、わがままな妹、仕事のフリをして遊び回る父。ルリィは偽物の家族を捨てることにした。 ※7000文字前後、全5話のショートショートです。 ※2024.8.29誤字報告頂きました。訂正しました。報告不要との事ですので承認はしていませんが、本当に助かりました。ありがとうございます。

処理中です...