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失念していた。
セバスはホテルから出て馬車に乗りながら、そう思った。
ジュリ、いや、ジュゼット様を逃がすまいと思ったことで、旦那様に言われていた条件のことを。
旦那様が、子供を産んでもらう女性を極秘で探すようにとセバスに頼んだ条件を。
『妻と同じ髪色と目の色の女性』
『貴族の女性』
『金、あるいは契約を終えた後の仕事の手配など、交換条件で出産を了承してくれる女性』
『未婚の女性』
旦那様に候補の女性を見つけるように言われ、あちこち探したが難しいのは『未婚』だった。
未婚=純潔だと解釈した。
未亡人も当てはまらないことになる。
ほとんどの令嬢は、学園を卒業すると2年以内には結婚している。
まず、跡継ぎと婚約できずに働くことを選んだ女性などから探した。
だが、騎士や文官と恋人関係にあったりして、純潔が疑わしい。
そこで、学園の学生に目を向けた。
婚約者がおらず、望む色目の令嬢が2人。
1人はまだあと2年学生で、1人が最終学年だった。
その最終学年だったのがジュゼット様だ。
2年前に、父親のギャンブルが原因で王都での住まいを失った伯爵家。
これは使えると思った。
彼女自身は、真面目な令嬢であり、金や仕事の紹介程度で見知らぬ男の子供を産むなど受け入れないだろう。
彼女が受け入れざるを得ない状況にしなければならないのだ。
父親の借金を捏造して、陥れた。
ジュゼット様は、嘘の借金の犠牲になる覚悟で契約をした。
思いの外、早くに妊娠したために契約が終了となったことも喜ばしかった。
罪悪感はあったのだ。
たかが100万を10億と偽った。
伯爵を陥れるために手配した男たちに払った金の方が何倍もあった。
ジュゼット様には快適に過ごしていただこうと衣服や書籍などの準備に金は使ったが、契約終了時には置いて行かれた。
刺繍したハンカチなどを帰りの馬車や宿代にしたいから売りたいとシーラから聞いたので、慰労金として上乗せして渡したが、大金ではない。重いし狙われても困るだろうと思って。
つまり、子供を産むという交換条件に全く見合っていない報酬しか払っていなかったのだ。
旦那様はそんなことをご存知ない。
今回、旦那様が2人目の子供がいてもいいかもしれないとおっしゃった。
『前回の女性を』と言われ、ジュゼット様の居場所を調査した。
コールマン伯爵家に籍があることから未婚のままだと安心したが、あの時護衛として雇った男がなんと婿入りしているという事実に気づいた。
未婚ではなかったが、前のことを知っている男を夫にしているならば話は早いと思った。
子供を産んだ女性だと知っていて結婚した男だ。
1人許したのであれば、2人目も許してくれるはずだ。
そんな安易な考えで、ジュゼット様を貸してほしいと言ってしまった。
しかし、あの男はジュゼット様を『愛する妻』と言った。
貸してほしいと言った私に、頭がおかしいんじゃないか?と。
今となっては、そう言われても仕方がないとわかる。
断られるなど考えもせず、策略も捏造も対価も何も頭になかったくらいなのだから。
ジュゼット様たちが夫婦になったのは、彼女の自己犠牲をあの男が受け入れて優しく癒した結果だ。
ジュゼット様が契約を受け入れたのは、交換条件には当てはまらない。
そうなるように追い込み、それしか選択肢がなかったのだから。
『喜んで産んでくれる女性を探せ』
あの男が言ったことは、旦那様の言われた交換条件に当てはまる女性だ。
ジュゼット様を逃がすまいと思ってしまったことから、最初の条件を失念してしまっていた。
それに、私は思い違いをしていたことに2つ気づいた。
『未婚=純潔』だと解釈したこと。
『前回の女性』というのはジュゼット様を指すのではなく、『前回と同じ条件に合う女性』だということを。
ジュゼット様は既婚者で条件には当てはまらない。
今度は純潔に拘る必要もないし、離婚経験者や未亡人などからも選べると気づき、セバスは気が楽になった。
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