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聖堂に通い始めて十日ほど経ち、ラヴェンナはようやく満足のいくクッキーを焼くことができた。
それを婚約者ラウルード様に食べてもらった。
「うん。美味しいよ。頑張ったな。」
「ありがとう。でもね、お菓子のお店や屋敷のシェフが作るものと全然違うの。何が悪いのかしら。」
ラヴェンナが焼いたクッキーは素朴な美味しさはある。
だけど、食べなれているお菓子に比べて、どうも違いがあり過ぎると思っていた。
「ラヴェンナが参考にした料理本は、誰でも作りやすい基本的なものなのだと思うよ。
専門的に作る職人はアレンジを加えて独自の味を生み出すことで有名な店になったりするんだ。
長年の努力と料理本の間に違いがあって当然だよ。」
「それもそうね。プロの味が簡単に作れるはずがあるわけないのよね。私ったら。」
それでも、作ってみてよかった。
食べてしまう時間は短いのに仕上がるまでの工程がとても大変だし、後片付けまである。
わかっていたつもりでも、実際にやってみるとその苦労がわかる気がした。
後片付けに関してはほとんどさせてもらえなかったけれど、それはやったことがないラヴェンナたちが手を出すと逆に手間がかかるからのように思えた。
貴族のお嬢様の手に万が一のことがあれば大変だから。
手荒れ如きで聖女様に治癒してもらうのもどうかと思うし。
「でも、材料がいいから喜ばれると思うよ。」
確かに。
ラヴェンナは侯爵家から材料を運んでもらって作った。
孤児院や平民の中で使われているものよりも優れた材料であるはず。
ラヴェンナの素朴なクッキーも、いつも食べているものよりも美味しいと思ってもらえるなら、作った甲斐もある気がした。
そして、アレクサンドル王子殿下が再び聖堂を訪れた。
ラヴェンナとジュリエッタに、少し前から辺境伯令嬢アメリも行動を共にし始めており、三人でお茶を飲んでいた時に彼はやって来た。
なぜか、イボンヌ様と一緒に。
「ジュリエッタ、私が言ったことを聞いていなかったのか?イボンヌ嬢が教えてくれたぞ。お前はあれから改心することなく過ごしているそうではないか!」
改心って何よ……
「聖女になれなければ、婚約解消するぞ!いいのか?」
いいって、ジュリエッタ様は言いたいんじゃないかしら。でも言えるはずないもの。
「アレクサンドル殿下、聖女候補は聖女になりたい女性の中から選ばれるわけではございません。年齢と魔力、ただそれだけで十人が決まり、辞退は許されないのです。」
「つまり、お前は聖女になりたくないのにここにいると言いたいのか?」
「私の口からはそのようなことは何も申せません。」
そうなのよねぇ。
心の中では言えるのに、口に出して『聖女になりたくない』とは何故か言えない。
十人のうち、誰が聖女になりたくて、誰がなりたくないと思っているのか実際はわからない。
ただ、明らかにイボンヌ様はなりたいということはわかるわ。
これは、聖女候補同士の中で誰が聖女に相応しいかを選んだり決めたりできないようにするために心が干渉されているからだと思っている。
選ぶのは『聖女』だから。
ジュリエッタ様が聖女になれなければ、婚約解消。
アレクサンドル殿下、ちゃんと聞きましたよ?
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