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しおりを挟む気まずい空気が流れる中、父は侍女ミミの肩を抱いたまま話した。
「陛下、この侍女の中に、今、リリスティーナが入っています。」
国王陛下と宰相は目を丸くして驚いていた。
「まことか?!……リリスティーナ嬢、なのか?」
「国王陛下にご挨拶申し上げます。リリスティーナ・クレベールでございます。」
リリスティーナは最上級の敬礼の姿をとった。
王太子妃になるはずであったリリスティーナは教育で学んでいた。
侍女がこの姿をとることなどあり得ないので、証明にもなるだろうと思ったのだ。
「リリスティーナ嬢、ウォルタスが申し訳のないことをした。本当にすまない。」
「……もう済んでしまったことだと広い心で許せたら、どんなによかったでしょうか。
陛下、500年はつらいです。長いです。長すぎます!みんな、いなくなってしまうじゃないですかぁ。」
侍女が国王陛下に詰め寄る姿はあり得ないだろう。
だけど、そんなことを言っている場合ではない。
このままでは誰かの体を乗っ取っては言動を訝しがられるような、気味の悪い存在になってしまいそうだ。
いたずらに精神に干渉し続ければ虚しくなっていくに違いない。
精神体で気がふれるという状況になれるのかはわからないが、頭がおかしくなりたくてもなれないという状況はキツイものがあると思う。
「体を乗っ取られたい者を募るか?それとも、建てる聖堂の中で何かできるようにするか?」
国王陛下もブツブツと何かを考えようとしてくれているらしい。
「乗っ取るのは誰の体にでもできるのか?」
「まだこの侍女の体にしか入ったことがないのでわかりません。
あ、この体でも治癒は使えました。ですが、魔力の多さが前と違うせいか、力を使うと疲れます。」
リリスティーナの体は魔力が多かった。
そのせいもあり、リリスティーナがどんな傷も治すので、研究者たちは調子に乗りすぎたのだろう。
「治癒が使える?!それは、すごいことだ。
リリスティーナ嬢はそれを隠したいか?それとも活かしたいか?それによって対応も変わってくる。」
隠したいか、活かしたいか?
「たとえ隠していたとしても、咄嗟に使うことがあれば隠し切れないと思います。」
目の前で大怪我をした人がいれば?
治癒が使える体に入っていれば、治癒することを選ぶはず。
そうなれば、リリスティーナ以外にも治癒が使える者がいると知られてしまう。
しかし、その体から出てしまえば、その者は治癒を使えなくなる。
それはそれで問題になるかもしれない。
リリスティーナがそう言うと、国王陛下は唸るようにして悩んでいた。
「聖堂で、乗っ取る者を毎日代えて、顔を隠して治癒するのはどうだ?」
それは……有りかもしれない。
でも500年の間に、何人を乗っ取ることになるのかと思えば少しうんざりである。
(私の魔力がもっと多ければ……)
心の中でミミがそう悔やんでくれている。
ミミのような人で魔力が多い人がいてくれたら、聖堂にいる間はリリスティーナでそれ以外の場所では本人として過ごせる日々が送れるかもしれないけれど。
難しいものである。
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