30 / 100
30.
気まずい空気が流れる中、父は侍女ミミの肩を抱いたまま話した。
「陛下、この侍女の中に、今、リリスティーナが入っています。」
国王陛下と宰相は目を丸くして驚いていた。
「まことか?!……リリスティーナ嬢、なのか?」
「国王陛下にご挨拶申し上げます。リリスティーナ・クレベールでございます。」
リリスティーナは最上級の敬礼の姿をとった。
王太子妃になるはずであったリリスティーナは教育で学んでいた。
侍女がこの姿をとることなどあり得ないので、証明にもなるだろうと思ったのだ。
「リリスティーナ嬢、ウォルタスが申し訳のないことをした。本当にすまない。」
「……もう済んでしまったことだと広い心で許せたら、どんなによかったでしょうか。
陛下、500年はつらいです。長いです。長すぎます!みんな、いなくなってしまうじゃないですかぁ。」
侍女が国王陛下に詰め寄る姿はあり得ないだろう。
だけど、そんなことを言っている場合ではない。
このままでは誰かの体を乗っ取っては言動を訝しがられるような、気味の悪い存在になってしまいそうだ。
いたずらに精神に干渉し続ければ虚しくなっていくに違いない。
精神体で気がふれるという状況になれるのかはわからないが、頭がおかしくなりたくてもなれないという状況はキツイものがあると思う。
「体を乗っ取られたい者を募るか?それとも、建てる聖堂の中で何かできるようにするか?」
国王陛下もブツブツと何かを考えようとしてくれているらしい。
「乗っ取るのは誰の体にでもできるのか?」
「まだこの侍女の体にしか入ったことがないのでわかりません。
あ、この体でも治癒は使えました。ですが、魔力の多さが前と違うせいか、力を使うと疲れます。」
リリスティーナの体は魔力が多かった。
そのせいもあり、リリスティーナがどんな傷も治すので、研究者たちは調子に乗りすぎたのだろう。
「治癒が使える?!それは、すごいことだ。
リリスティーナ嬢はそれを隠したいか?それとも活かしたいか?それによって対応も変わってくる。」
隠したいか、活かしたいか?
「たとえ隠していたとしても、咄嗟に使うことがあれば隠し切れないと思います。」
目の前で大怪我をした人がいれば?
治癒が使える体に入っていれば、治癒することを選ぶはず。
そうなれば、リリスティーナ以外にも治癒が使える者がいると知られてしまう。
しかし、その体から出てしまえば、その者は治癒を使えなくなる。
それはそれで問題になるかもしれない。
リリスティーナがそう言うと、国王陛下は唸るようにして悩んでいた。
「聖堂で、乗っ取る者を毎日代えて、顔を隠して治癒するのはどうだ?」
それは……有りかもしれない。
でも500年の間に、何人を乗っ取ることになるのかと思えば少しうんざりである。
(私の魔力がもっと多ければ……)
心の中でミミがそう悔やんでくれている。
ミミのような人で魔力が多い人がいてくれたら、聖堂にいる間はリリスティーナでそれ以外の場所では本人として過ごせる日々が送れるかもしれないけれど。
難しいものである。
あなたにおすすめの小説
最初で最後の我儘を
みん
恋愛
獣人国では、存在が無いように扱われている王女が居た。そして、自分の為、他人の為に頑張る1人の女の子が居た。この2人の関係は………?
この世界には、人間の国と獣人の国と龍の国がある。そして、それぞれの国には、扱い方の違う“聖女”が存在する。その聖女の絡む恋愛物語。
❋相変わらずの、(独自設定有りの)ゆるふわ設定です。メンタルも豆腐並なので、緩い気持ちで読んでいただければ幸いです。
❋他視点有り。
❋気を付けてはいますが、誤字脱字がよくあります。すみません!
巻き込まれではなかった、その先で…
みん
恋愛
10歳の頃に記憶を失った状態で倒れていた私も、今では25歳になった。そんなある日、職場の上司の奥さんから、知り合いの息子だと言うイケメンを紹介されたところから、私の運命が動き出した。
懐かしい光に包まれて向かわされた、その先は………??
❋相変わらずのゆるふわ&独自設定有りです。
❋主人公以外の他視点のお話もあります。
❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。すみません。
❋基本は1日1話の更新ですが、余裕がある時は2話投稿する事もあります。
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
召喚から外れたら、もふもふになりました?
みん
恋愛
私の名前は望月杏子。家が隣だと言う事で幼馴染みの梶原陽真とは腐れ縁で、高校も同じ。しかも、モテる。そんな陽真と仲が良い?と言うだけで目をつけられた私。
今日も女子達に嫌味を言われながら一緒に帰る事に。
すると、帰り道の途中で、私達の足下が光り出し、慌てる陽真に名前を呼ばれたが、間に居た子に突き飛ばされて─。
気が付いたら、1人、どこかの森の中に居た。しかも──もふもふになっていた!?
他視点による話もあります。
❋今作品も、ゆるふわ設定となっております。独自の設定もあります。
メンタルも豆腐並みなので、軽い気持ちで読んで下さい❋
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。