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しおりを挟むユリアが公爵家の使用人として働くことが決まった夜、彼女に与えられた部屋は客間だった。
実はこの国では、メイドは主に平民であるため12歳から働くことが許されるが、貴族の身分にある者は16歳からでないと正式に働くことが認められていない。
そのため、まだ15歳のユリアは客の扱いで滞在することになるのだ。
しかし、このことはある意味、功を奏している。
リリスティーナがユリアを乗っ取る機会が多くなるため、使用人棟ではなく客間で過ごしてほしいというのが両親の本音だからだ。
リリスティーナが入ったユリアを、母や義姉の話し相手として自然と側に置こうとしている。
ミミの体だろうがユリアの体だろうが、中身がリリスティーナなのだから、家族にとってはリリスティーナとして扱いたいらしい。
しかし、それにはやはり無理があるため、話し相手がせいぜいといったところなのだ。
そんなこととは知らないユリアは、客室でも豪華な部屋に恐縮しながら休むことになった。
翌日、リリスティーナはユリアと共に研究施設の跡地へと向かった。
ユリアを乗っ取るために。
乗っ取られた彼女の反応が知りたかった。
もう少し後にするつもりだったが、ユリアはどこか公爵家に居心地の悪さを感じているのではないかと思ったのだ。
罰を受けるつもりが豪華な客室では、ちぐはぐな感じがするのもわからなくもない。
それに、ユリアが貴族としての暮らしを続けてしまっては、聖堂で暮らすことに嫌気がさす可能性もある。
彼女に好きな人ができたり、聖堂での暮らしが嫌になれば、本当は解放してやりたい。
しかしそれは、彼女が幸せになれるという見込みがない限り、リリスティーナは手放したくはないのだ。
「ここよ。ここが、リリスティーナが死んだ場所。そして聖堂が建つ場所。」
侍女の口調から変わったミミに、ユリアは少し驚いたようだった。
しかもリリスティーナ、と呼び捨てにしたから。
「リリスティーナはね、体は死んだけれど精神は彷徨っているの。」
ユリアは目を丸くした後、首を傾げた。
何と言っていいかわからないのか、ミミがおかしなことを言っていると思い返答に困ったのか。
「リリスティーナが未知の魔力で殿下の傷を治癒したことは知っているでしょう?彼はね、その治癒の力を持ったリリスティーナを誰にも奪われることのないように、私利私欲のためにここに閉じ込めたの。」
「それなら婚約を解消しなければよかったのではないでしょうか?」
そうよね。普通はそう思うわよね。
王太子妃になった方が手出しはされにくくなるから。
だけどあの男はアホバカマヌケなのよ。
「殿下はリリスティーナを道具のように見たの。治癒の力を政治的利用するために。あなたの姉は愛する人として自分のそばに。どちらも手にしようとして失敗したのよ。」
治癒のことがなければ、リリスティーナはただ捨てられるだけだった。
その行為が、王太子に相応しいかどうかは疑問視されることになっていただろうけれど。
「私はね、リリスティーナよ。今はミミの体を借りて話しているの。あなたに入ってもいい?」
ユリアは更に深く首を傾げていた。
もう、わけがわからないと言ったように。
そして、リリスティーナはミミから出てユリアに触れた。
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