聖女になりたいのでしたら、どうぞどうぞ

しゃーりん

文字の大きさ
42 / 100

42.

しおりを挟む
 
 
ユリアが公爵家の使用人として働くことが決まった夜、彼女に与えられた部屋は客間だった。 

実はこの国では、メイドは主に平民であるため12歳から働くことが許されるが、貴族の身分にある者は16歳からでないと正式に働くことが認められていない。

そのため、まだ15歳のユリアは客の扱いで滞在することになるのだ。 

しかし、このことはある意味、功を奏している。

リリスティーナがユリアを乗っ取る機会が多くなるため、使用人棟ではなく客間で過ごしてほしいというのが両親の本音だからだ。 

リリスティーナが入ったユリアを、母や義姉の話し相手として自然と側に置こうとしている。

ミミの体だろうがユリアの体だろうが、中身がリリスティーナなのだから、家族にとってはリリスティーナとして扱いたいらしい。

しかし、それにはやはり無理があるため、話し相手がせいぜいといったところなのだ。


そんなこととは知らないユリアは、客室でも豪華な部屋に恐縮しながら休むことになった。 





翌日、リリスティーナはユリアと共に研究施設の跡地へと向かった。

ユリアを乗っ取るために。

乗っ取られた彼女の反応が知りたかった。 

もう少し後にするつもりだったが、ユリアはどこか公爵家に居心地の悪さを感じているのではないかと思ったのだ。
 
罰を受けるつもりが豪華な客室では、ちぐはぐな感じがするのもわからなくもない。
それに、ユリアが貴族としての暮らしを続けてしまっては、聖堂で暮らすことに嫌気がさす可能性もある。

彼女に好きな人ができたり、聖堂での暮らしが嫌になれば、本当は解放してやりたい。 

しかしそれは、彼女が幸せになれるという見込みがない限り、リリスティーナは手放したくはないのだ。




「ここよ。ここが、リリスティーナが死んだ場所。そして聖堂が建つ場所。」


侍女の口調から変わったミミに、ユリアは少し驚いたようだった。
しかもリリスティーナ、と呼び捨てにしたから。


「リリスティーナはね、体は死んだけれど精神は彷徨っているの。」 


ユリアは目を丸くした後、首を傾げた。
何と言っていいかわからないのか、ミミがおかしなことを言っていると思い返答に困ったのか。


「リリスティーナが未知の魔力で殿下の傷を治癒したことは知っているでしょう?彼はね、その治癒の力を持ったリリスティーナを誰にも奪われることのないように、私利私欲のためにここに閉じ込めたの。」

「それなら婚約を解消しなければよかったのではないでしょうか?」


そうよね。普通はそう思うわよね。
王太子妃になった方が手出しはされにくくなるから。
だけどあの男はアホバカマヌケなのよ。


「殿下はリリスティーナを道具のように見たの。治癒の力を政治的利用するために。あなたの姉は愛する人として自分のそばに。どちらも手にしようとして失敗したのよ。」


治癒のことがなければ、リリスティーナはただ捨てられるだけだった。
その行為が、王太子に相応しいかどうかは疑問視されることになっていただろうけれど。


「私はね、リリスティーナよ。今はミミの体を借りて話しているの。あなたに入ってもいい?」


ユリアは更に深く首を傾げていた。
もう、わけがわからないと言ったように。

そして、リリスティーナはミミから出てユリアに触れた。

 



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

【書籍化決定】愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。 しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。 生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。 それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。 幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。 「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」 初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。 そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。 これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。 これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。 ☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

【完結】恋につける薬は、なし

ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。 着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました

みん
恋愛
伯爵家の長女シルフィーは、5歳の時に魔力暴走を起こし、その時の記憶を失ってしまっていた。そして、そのせいで魔力も殆ど無くなってしまい、その時についてしまった傷痕が体に残ってしまった。その為、領地に済む祖父母と叔母と一緒に療養を兼ねてそのまま領地で過ごす事にしたのだが…。 ゆるっと設定なので、温かい気持ちで読んでもらえると幸いです。

処理中です...