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聖堂の建設が始まった頃、リリスティーナの存在をどういう風に扱うか、国王陛下と話し合うことになった。
ユリアの姿で王城を訪れたため、国王陛下は一瞬『誰だ?』と思ったようだが、すぐにそれがリリスティーナなのだと気づいたようだった。
「聖堂には12領地への転移室を設けたい。」
12領地とは、王都を中心に12区分の方向に分かれている主要な領地のことである。
王都と公爵領や侯爵領を転移で行き来しやすくしているのだ。
転移した先から、各領地へと馬車で移動すれば時間短縮になる。
もちろん、誰でも使えるわけではない。
一度に転移できる人数に限りはあるし、魔力がそこそこなければ倒れてしまうので、魔力の少ない者はひたすら馬車移動となる。
「ひと月ごとに行く方向を決めて、その領地で一週間ほど怪我人の治癒をするというのはどうだろうか?」
国王陛下はリリスティーナの治癒を国中に広めるつもりだろう。
しかし、誰もかれもが王都に来ることができるわけではない。
むしろ、動かしにくい怪我人を、リリスティーナの方から治癒に向かってほしいと思っている。
四方の国境には森や山が広がっており、獣による怪我人も多いからだ。
それを、リリスティーナの仕事にしたいと考えているらしい。
500年もの間、役割を与えなければリリスティーナの存在は不気味な怨霊のようなものと思われるか、孤独な精神体として過ごすことになる。
誰に憑依しているのかわからなくなることも、望ましいことではないはずだ。
悪い案ではない。
しかし、たとえベールか何かで顔を隠したとしても、身長や髪色など外見の違いは誤魔化せない。
治癒ができる女性が何人もいると勘違いされてしまうのではないか?
そう伝えると、国王陛下側はいろいろと考えたらしい。
「各領地へ向かうのは一人の女性に憑依してもらうことが一番いいとは思うが、こういうのはどうだろうか。あの聖堂が建った時、リリスティーナ嬢の未知の魔力を何らかの方法で受け取れるようになった、と。」
荒唐無稽のように聞こえるけれど、リリスティーナが誰かに憑依することで治癒が使えるようになるのだから、外れた言い分というわけではない。
「つまり、聖堂で一定期間、誰か一人が力を授かると思わせるのですか?
その本人が治癒を使えるようになったわけではなく、リリスティーナから力を授けられているだけで、たとえ連れ去られても力を使い続けられるわけではないと思わせるということでしょうか。」
父の問いに、リリスティーナはなるほど、と思った。
たとえば、ユリアの治癒力が目的で攫われたとしても、リリスティーナがユリアから出てしまえば治癒は使えなくなる。役に立たなくなったユリアは良ければ解放、悪ければ殺される。
だが、力は聖堂で授かるもので、時間が経てば使えなくなると公表していれば、連れ去っても意味はない。
リリスティーナが乗っ取る女性たちを守るためにはいい考えかもしれない。
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