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しおりを挟むリリスティーナがこれから体を乗っ取る令嬢。
それは、セレンティナ・クレベール公爵令嬢である。
クレベール。
そう。リリスティーナの実家であり、兄の子孫だ。
セレンティナは幼い頃から美少女であるが故、嫌な目にあい続けてきた。
誘拐されそうになったり、顔や体を不用意に触られたり、悪戯されそうになったり。
今だって、公爵令嬢であるにも関わらず、学園で令嬢たちに嫌がらせをされている。
婚約者の公爵令令息と別れさせるために。
人間不信、特に男性への拒絶反応が強い子になってしまった。
そんなセレンティナは、あと半年で学園を卒業し、その後、結婚することが決まっている。
その前に、彼女は死ぬつもりなのだ。
今でさえ、婚約者に触れられることに怯えている自分が、閨事に耐えらえるわけがない。
両親はセレンティナがそこまで重症だとは思っていないのだ。
嫁ぎ先に迷惑をかけないためには、結婚前に死ぬしかないと思い詰めていた。
セレンティナは毎週のように聖堂に来ていた。
彼女は『リリスティーナ聖堂』が建てられた経緯を、実家の書庫の奥に隠されていた書物を読んで知っている。
その書物を書いたのはリリスティーナの父と兄だった。
兄の子、甥の嫁がリリスティーナの存在を怖がったことから、以降の子孫には隠された書物であった。
何の因果か、セレンティナはそれを見つけ、読んでしまったのだ。
彼女が聖堂に来るのは、聖女になりたいのかと最初は思った。
しかし、その頃にはすでにイボンヌが最後の聖女と周知済みであったため、セレンティナを聖女にしてやることは難しかった。
だが、彼女は聖女になりたいと思っていたわけではない。
むしろ、不特定多数と触れ合わなければならない聖女は自分がなれるはずもないと思っている子だった。
どうやったら、誰にも迷惑をかけずに死ぬことができるか。
そればかり考えているようだった。
そんな彼女に声をかけたのは、少し前のことだった。
「思い詰めたような顔をしているわ。」
「……聖女様。いえ、リリスティーナ様?」
「ええ。その名前で呼ばれるのは久しぶりだわ。」
聖人以外だと、イボンヌを聖女に選んだ時にラヴェンナとジュリエッタが呼んでくれたわね。
「聖女をお辞めになるのは何故ですか?本当に聖力を失ってしまわれる?」
「いえ?正直に言うと、飽きたの。それと、聖力を持つ子供を産むことができるか確かめるためよ。」
「ご結婚されるのですか?え、でも、王弟殿下とご結婚されていますよね?」
「このイボンヌはね。だから、新たな体を乗っ取って結婚しようと思っているわ。」
「新たな体を……」
「ええ。あなたの体を、ね。」
セレンティナはひどく驚いた後、微笑んだ。
「この体を使っていただけるのですか?」
「ええ。本当はあなたの心を治してあげたかった。でも無理だわ。それは今までの人生が、あなたの自我が崩壊することを意味するくらいに根深すぎて。」
「リリスティーナ様が私になって下さるのであれば、誰も悲しませずに済みます。」
「ごめんなさいね、以前からあなたの苦しみに気づいていたのに。」
「いいのです。私はどうなるのですか?」
「ずっと、中で眠らせてあげることしかできないわ。意識があるとつらいでしょう?」
「感謝致します。家族にお別れする時間をいただけますか?」
「ええ。慌てなくてもいいわ。」
「いえ、来週のこの時間に。」
「……そうね。わかったわ。」
そして、その日が今日だった。
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