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第三章
母の人柄
しおりを挟むその晩、おじさんが仕事から戻ったところで、美乃利さんは開口一番「昔、肺炎にかかって死にそうになったって言ったよね」と訊ねた。
「え?.......なんだよ突然。.........まあ、確かにそういう事があったけど、今はこの通り元気だから。」
おじさんは笑いながら僕たちの前を通り過ぎると、着替えをする為に自分の部屋に向かう。
その背中を見ながら、美乃利さんは不安な表情になった。さっきの事を気にしているんだと思うが、僕には何も云えない。
「そう云えば、祐二さんのお母さんって高校を卒業してすぐに東京に行ったんですよね。」
リビングに戻ると美乃利さんは訊いてきた。
その辺の事は僕もよく知らない話で。母がどこの大学に通っていたのか、何処に住んだことがあったのか、全く語られる事はなかった。それに、僕自身もそこまで母の過去に興味もなく、父親の事を話さない時点で過去の事を訊くのはダメな事としていたからだ。
「それは、........ごめん、よく知らないんだ。あんまり昔の話とかしない人だったから。」
「そうですか、..」
暫く沈黙が続くと、着替えを済ませたおじさんがドアを開けて入って来た。
「美乃利が煩くしてないかな?この子は人見知りなくせに調子に乗るとずかずか入って来るから。ビックリしたんじゃない?」
そう云って美乃利さんの顔を見ながら笑みを浮べるが、美乃利さんは口を尖らせて不機嫌そうになった。
「変な事云わないでよ。初めて出会った従兄にテンション上がっても仕方ないでしょ?でも、祐二さんって大人って感じ。都会の人はもっとチャラいのかと思ってたんだけど。」
「大人、だなんて......。まだまだ成長過程ですよ。それに、今回母が亡くなった事で更にそう思いました。」
僕は今まで母に守られて生きてきたんだと思った。
母の事もよく知らないまま、目の前の事だけを見て育ってきた。母が病気になった時でもそうだ。
僕の為に、母は会社の人達にも良くしていたし、残される僕の事を案じてくれていた。だから頼れる人がいればと思って長年音信不通だったおじさんにも手紙を送ったんだと思う。
「ここに来て、母の昔の姿を垣間見た気がします。東京での母の印象とはかなり違いましたが。」
目の前のおじさんは、そう話す僕の顔をにこやかに見ながら頷いた。
「姉さんとは歳が離れていたから、記憶に残っている事は少ないんだよね。確か高校を卒業して東京の専門学校に行ったって聞いてる。うちの両親は毎月の仕送りが大変だってこぼしてたけど、学校を卒業してから少しずつお金を返してくれてたらしいよ。」
「え、そうなんですか?.....就職しても初任給じゃ余裕がないだろうに。」
「そうなんだよね。だから両親も心配してお金の事はもういいからって言ったらしい。自分の為に貯金でもしなさいって云ってたのを覚えてる。」
母は昔から贅沢はしない人で、僕の学費も貯金から出してくれた。自分は着飾る事もせず、周りの人に気を使いながら生きてきたと思う。だから葬儀の時にも多くの人が参列してくれたんだろう。
「そう云えばお地蔵さまの事は分かった?」
おじさんがふいに訊いてくるが、僕と美乃利さんは互いに顔を合わせると無言になってしまった。
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