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39 アルミ箔のオンナ 21
しおりを挟むこの状況をなんと説明すればいいのか.....
俺のマンションのキッチンで、野嶋さんは買ってきたというおでんの具を取り出すと、先日カレーをこしらえた鍋に出汁の入ったおでんの具材ごと移した。
コンビニで買ってきたらしいが、それに残っていたジャガイモと鳥の手羽元を入れて煮込み始める。
「あ、あの.....、実は今夜は恵が帰って来ないんで.....。」
俺は、一応本人から聞いたかもしれないと思い、野嶋さんにそう云ってみるが、「ああ、そうなんですか?だったら長居はいけませんね。せっかくのひとりの時間を。これが出来上がったら帰りますので、気を使わないで下さい。」と云って笑みを浮べた。
「や、でも、せっかくだから一緒に食べたらいいんじゃ?」
「.....、ん~、有難いんですけど、それじゃあ私が田代さんを狙っているみたいに思われるから。恵くんに。」
「ぇ?...............まさかそんな事、.....思わないでしょ?」
「女の方から男性の部屋に出向くのは、普通そう思われても仕方のない事。けど、田代さんにはそういう感覚がなさそうで。私の事を女性と認識していないのか、又は興味が無いのか。どちらにしても、私は本当に同僚としてお手伝いがしたいだけで、私に興味を持ってもらおうなんて思ってませんから。」
意外にあっさりと云ってくれるから、少しだけ拍子抜けしてしまう。
俺がゲイだと気づいているのか?
「野嶋さん、綺麗だし彼氏がいるでしょ?!俺なんかに気を使ってもらって悪いですよ。」
恵に訊いた昔の事は云わないでおいた。実際今の彼女の事は知らないし、バイセクだとしても男がいるかもしれない。俺と違って異性との恋愛も出来るんだから。
「........彼氏はいません。残念ながら、心を動かされる男性は今までいなかった。もちろんお茶を飲んだりお酒を飲んだり、映画を見に行った方はいますよ。でも、その先には進めませんでした。」
鍋がグツグツと蓋を鳴らし始めて、慌てて火加減を見に行く野嶋さんの後ろ姿に思わず手を伸ばしそうになった。
これはカミングアウトか?
いや、そこまでは云っていない。
異性との付き合いは出来ても、その先には進めなかったと云っただけだ。
「........、俺が、.....俺がもし、野嶋さんと付き合いたいと云ったら?」
「.............え、.........それは、..........考えます。田代さんの事は嫌いではないし、むしろ好きです。こうして押し掛ける程には。でも、正直それが恋なのかどうかは定かでないんです。私も初めてこんな行動を起こしてしまって、自分でも分からない。」
野嶋さんの頬が少しだけ色付いたように見えたが、それは俺の錯覚か?
それでも恵に抱く感情とは別に、彼女に対する気持ちも今の俺にとっては心を温かくしてくれるものだと分かった。
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