物言わぬ家

itti(イッチ)

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え、泊まるって?

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  竹下通りから青山まで、散歩を兼ねたショッピングを済ませると、美乃利たちは一旦祐二のマンションに向かった。

「男のひとり暮らしのわりに綺麗ですね」
 マンションの玄関から部屋に入るなり美乃利は声をあげる。
ずっと母との二人暮らしをして来て、祐二の部屋には贅沢な家具や飾りは何一つ無い。綺麗かどうかは分からないが、母が亡くなって以来ゴミだけは溜めないように気を付けていた。

「ここに越して来て、もう12年は経つから古臭くて……あっちの部屋は母のタンスがまだそのままだし。家具を処分するのって結構面倒だしお金も掛かるんだよね」
    キッチンの食卓テーブルに、買ってきたペットボトルのお茶を置くと祐二は言った。

「あ、私、おばさんの写真にお花を手向けたかったのに…、ごめんなさい、ウッカリしてて。ちょっと手だけ合わせてもいいですか?」
「もちろん。お花は気持ちだけでいいから」
 そう言うと、立ち上がって母の部屋を案内する。6畳間に木目調の箪笥があり、その上に写真とお香、母の好きな刺繍の敷物が敷かれていた。その前に立つと、美乃利は両手を合わせて目を閉じる。
横顔に掛かる髪の毛がハラリと落ちると、美乃利の鼻から口元にかけたラインに、祐二は母の面影を重ねた。心の中で、血の繋がりを感じると複雑な心境になった。真壁の女性だけに与えられた特別な能力。母の過去を知って以来、同じ様に美乃利も苦悩の道を歩まなければいいが、と思っていた。

「それで、凛華さんのお兄さんとは何時に?」
「えっと、夜の7時に。たまたまですけど、住んでいるアパートがここと近くて。この近くに大きなドラッグストアがあるでしょ?あそこの裏に住んでいるんですよ。だから店の入り口で待ち合わせしました」
「そうなんだ?奇遇だよね、それって。凛華さんのお兄さんっていくつ?」
「えーっと、26歳かな?四つ上って言ってたから。写真だけ見せてもらったんだけど、背が高くてカッコイイ感じでした」 
「あ、そうなんだ。凛華さんもそういえば背の高い子だったね」
「ええ、そうですね」
 祐二は北海道で会った凛華の姿を思い浮かべた。彼女の兄ならきっとイケメンだろうな、と納得する。

「でも、美乃利さんの先輩と凛華さんのお兄さんが同じ会社だったってのも凄い偶然だよね」
 祐二はそう言うと、ペットボトルの蓋を開けてお茶を一口飲んだ。
「志保先輩と凛華のお兄さん、学部は違うけど同じ大学だったらしくて、もちろん年齢が離れているから同時期に通っていた訳じゃないけど。でも、会社では話した事があるって言ってました」
 不思議な縁があるものだと思った。しかし、考えれば自分の様に東京で暮らしていたら、同じ大学出身で同じ会社に勤めることは多々あるのかもしれない。遠く北海道出身の人たちだから稀な事の様に感じてしまうのか。

「その、志保先輩の失踪は警察は何て?」
「今のところ事件性が無いって。会社の寮に住んでいたんだけど、出かける支度をして暫く留守にするって同部屋の人には話したらしくて。仕事が嫌になって消えたんじゃないかって言ってて…..」
「うーん、4月って年度初めだし新入社員も入ってくるから、色々気を使う事はあるだろうけども…..」
 成人女性の失踪は、家出とか色々考えられるのか、目に見えて事件性がないと警察も本気で探してくれないのだろう。でも、何かの事件に巻き込まれた可能性もあるのに。
祐二は時計を見ると、「少し時間があるけど、夕飯はどうする?それと、泊まるところは?ホテルはもう取ってあるのかな」と訊ねた。
凛華の兄と出会って、話が終われば美乃利はひとりホテルに行くのかと思っていた。

「え、私、ここに泊めてもらうつもりで来たんですけど。祐二さんも一緒に出会ってくれると思ってて。ホテルは高いし、5日間居るつもりなんで、部屋の片隅に寝させて貰えば十分です」
 美乃利が平然と言うので、祐二は目を見開いて言葉を失う。
いくら従妹とはいえ、若い女性を泊める訳にはいかない。30手前でも、男は男だ。いや、30手前だからこそ、変な気を起こさないとも限らない。
「美乃利さん、それはちょっと….。いくらなんでも男一人の部屋に泊める訳にはいかないよ」
 祐二は思わず立ち上がると言った。
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