2 / 60
え、泊まるって?
しおりを挟む
竹下通りから青山まで、散歩を兼ねたショッピングを済ませると、美乃利たちは一旦祐二のマンションに向かった。
「男のひとり暮らしのわりに綺麗ですね」
マンションの玄関から部屋に入るなり美乃利は声をあげる。
ずっと母との二人暮らしをして来て、祐二の部屋には贅沢な家具や飾りは何一つ無い。綺麗かどうかは分からないが、母が亡くなって以来ゴミだけは溜めないように気を付けていた。
「ここに越して来て、もう12年は経つから古臭くて……あっちの部屋は母のタンスがまだそのままだし。家具を処分するのって結構面倒だしお金も掛かるんだよね」
キッチンの食卓テーブルに、買ってきたペットボトルのお茶を置くと祐二は言った。
「あ、私、おばさんの写真にお花を手向けたかったのに…、ごめんなさい、ウッカリしてて。ちょっと手だけ合わせてもいいですか?」
「もちろん。お花は気持ちだけでいいから」
そう言うと、立ち上がって母の部屋を案内する。6畳間に木目調の箪笥があり、その上に写真とお香、母の好きな刺繍の敷物が敷かれていた。その前に立つと、美乃利は両手を合わせて目を閉じる。
横顔に掛かる髪の毛がハラリと落ちると、美乃利の鼻から口元にかけたラインに、祐二は母の面影を重ねた。心の中で、血の繋がりを感じると複雑な心境になった。真壁の女性だけに与えられた特別な能力。母の過去を知って以来、同じ様に美乃利も苦悩の道を歩まなければいいが、と思っていた。
「それで、凛華さんのお兄さんとは何時に?」
「えっと、夜の7時に。たまたまですけど、住んでいるアパートがここと近くて。この近くに大きなドラッグストアがあるでしょ?あそこの裏に住んでいるんですよ。だから店の入り口で待ち合わせしました」
「そうなんだ?奇遇だよね、それって。凛華さんのお兄さんっていくつ?」
「えーっと、26歳かな?四つ上って言ってたから。写真だけ見せてもらったんだけど、背が高くてカッコイイ感じでした」
「あ、そうなんだ。凛華さんもそういえば背の高い子だったね」
「ええ、そうですね」
祐二は北海道で会った凛華の姿を思い浮かべた。彼女の兄ならきっとイケメンだろうな、と納得する。
「でも、美乃利さんの先輩と凛華さんのお兄さんが同じ会社だったってのも凄い偶然だよね」
祐二はそう言うと、ペットボトルの蓋を開けてお茶を一口飲んだ。
「志保先輩と凛華のお兄さん、学部は違うけど同じ大学だったらしくて、もちろん年齢が離れているから同時期に通っていた訳じゃないけど。でも、会社では話した事があるって言ってました」
不思議な縁があるものだと思った。しかし、考えれば自分の様に東京で暮らしていたら、同じ大学出身で同じ会社に勤めることは多々あるのかもしれない。遠く北海道出身の人たちだから稀な事の様に感じてしまうのか。
「その、志保先輩の失踪は警察は何て?」
「今のところ事件性が無いって。会社の寮に住んでいたんだけど、出かける支度をして暫く留守にするって同部屋の人には話したらしくて。仕事が嫌になって消えたんじゃないかって言ってて…..」
「うーん、4月って年度初めだし新入社員も入ってくるから、色々気を使う事はあるだろうけども…..」
成人女性の失踪は、家出とか色々考えられるのか、目に見えて事件性がないと警察も本気で探してくれないのだろう。でも、何かの事件に巻き込まれた可能性もあるのに。
祐二は時計を見ると、「少し時間があるけど、夕飯はどうする?それと、泊まるところは?ホテルはもう取ってあるのかな」と訊ねた。
凛華の兄と出会って、話が終われば美乃利はひとりホテルに行くのかと思っていた。
「え、私、ここに泊めてもらうつもりで来たんですけど。祐二さんも一緒に出会ってくれると思ってて。ホテルは高いし、5日間居るつもりなんで、部屋の片隅に寝させて貰えば十分です」
美乃利が平然と言うので、祐二は目を見開いて言葉を失う。
いくら従妹とはいえ、若い女性を泊める訳にはいかない。30手前でも、男は男だ。いや、30手前だからこそ、変な気を起こさないとも限らない。
「美乃利さん、それはちょっと….。いくらなんでも男一人の部屋に泊める訳にはいかないよ」
祐二は思わず立ち上がると言った。
「男のひとり暮らしのわりに綺麗ですね」
マンションの玄関から部屋に入るなり美乃利は声をあげる。
ずっと母との二人暮らしをして来て、祐二の部屋には贅沢な家具や飾りは何一つ無い。綺麗かどうかは分からないが、母が亡くなって以来ゴミだけは溜めないように気を付けていた。
「ここに越して来て、もう12年は経つから古臭くて……あっちの部屋は母のタンスがまだそのままだし。家具を処分するのって結構面倒だしお金も掛かるんだよね」
キッチンの食卓テーブルに、買ってきたペットボトルのお茶を置くと祐二は言った。
「あ、私、おばさんの写真にお花を手向けたかったのに…、ごめんなさい、ウッカリしてて。ちょっと手だけ合わせてもいいですか?」
「もちろん。お花は気持ちだけでいいから」
そう言うと、立ち上がって母の部屋を案内する。6畳間に木目調の箪笥があり、その上に写真とお香、母の好きな刺繍の敷物が敷かれていた。その前に立つと、美乃利は両手を合わせて目を閉じる。
横顔に掛かる髪の毛がハラリと落ちると、美乃利の鼻から口元にかけたラインに、祐二は母の面影を重ねた。心の中で、血の繋がりを感じると複雑な心境になった。真壁の女性だけに与えられた特別な能力。母の過去を知って以来、同じ様に美乃利も苦悩の道を歩まなければいいが、と思っていた。
「それで、凛華さんのお兄さんとは何時に?」
「えっと、夜の7時に。たまたまですけど、住んでいるアパートがここと近くて。この近くに大きなドラッグストアがあるでしょ?あそこの裏に住んでいるんですよ。だから店の入り口で待ち合わせしました」
「そうなんだ?奇遇だよね、それって。凛華さんのお兄さんっていくつ?」
「えーっと、26歳かな?四つ上って言ってたから。写真だけ見せてもらったんだけど、背が高くてカッコイイ感じでした」
「あ、そうなんだ。凛華さんもそういえば背の高い子だったね」
「ええ、そうですね」
祐二は北海道で会った凛華の姿を思い浮かべた。彼女の兄ならきっとイケメンだろうな、と納得する。
「でも、美乃利さんの先輩と凛華さんのお兄さんが同じ会社だったってのも凄い偶然だよね」
祐二はそう言うと、ペットボトルの蓋を開けてお茶を一口飲んだ。
「志保先輩と凛華のお兄さん、学部は違うけど同じ大学だったらしくて、もちろん年齢が離れているから同時期に通っていた訳じゃないけど。でも、会社では話した事があるって言ってました」
不思議な縁があるものだと思った。しかし、考えれば自分の様に東京で暮らしていたら、同じ大学出身で同じ会社に勤めることは多々あるのかもしれない。遠く北海道出身の人たちだから稀な事の様に感じてしまうのか。
「その、志保先輩の失踪は警察は何て?」
「今のところ事件性が無いって。会社の寮に住んでいたんだけど、出かける支度をして暫く留守にするって同部屋の人には話したらしくて。仕事が嫌になって消えたんじゃないかって言ってて…..」
「うーん、4月って年度初めだし新入社員も入ってくるから、色々気を使う事はあるだろうけども…..」
成人女性の失踪は、家出とか色々考えられるのか、目に見えて事件性がないと警察も本気で探してくれないのだろう。でも、何かの事件に巻き込まれた可能性もあるのに。
祐二は時計を見ると、「少し時間があるけど、夕飯はどうする?それと、泊まるところは?ホテルはもう取ってあるのかな」と訊ねた。
凛華の兄と出会って、話が終われば美乃利はひとりホテルに行くのかと思っていた。
「え、私、ここに泊めてもらうつもりで来たんですけど。祐二さんも一緒に出会ってくれると思ってて。ホテルは高いし、5日間居るつもりなんで、部屋の片隅に寝させて貰えば十分です」
美乃利が平然と言うので、祐二は目を見開いて言葉を失う。
いくら従妹とはいえ、若い女性を泊める訳にはいかない。30手前でも、男は男だ。いや、30手前だからこそ、変な気を起こさないとも限らない。
「美乃利さん、それはちょっと….。いくらなんでも男一人の部屋に泊める訳にはいかないよ」
祐二は思わず立ち上がると言った。
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
【短編集】こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる