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古い喫茶店にて
しおりを挟む帰り道、5人はその地域にある一軒の古い喫茶店でお茶を飲もうという事になった。
例の家から1キロ程離れた場所で、このあたりには古い家が数軒残っている。その奥には新しい単身者向けのアパートも2、3軒建っていた。ごく普通の田舎の街並みといったところ。数メートル先にはコンビニの看板も見える。
格子枠のすりガラスの扉を開けて入ると、カランコロンと心地いい音がして、中にいた初老の紳士が「いらっしゃい」と渋い声で迎えてくれる。
「5名さんですか?」
「はい」
答えると、「カウンターでもいいかな?」と聞かれ、テーブル席を見ると何やら物が乗っているので「はい、いいですよ」と佐伯が言った。
もしかして、もう店仕舞いをする時間だったのでは、と携帯で時間を確認する祐二。
「時間、大丈夫ですか?」と店主に訊ねると「ああ、別に何時でも開けているから。住居がこの奥だしね、気にせず楽しんでって下さい」と言われる。白髪をバックに流して、銀色の丸い眼鏡をかけた店主は、アニメに出てくるような穏やかな物言いで、なんとなく先程の異様さを忘れさせてくれる程安心出来た。
「何にする?」
「オレ、コーヒーで」
「じゃあ、私も」
「私は暖かいココアがいいな」
口々に注文をすると、ニコリと微笑んで店主は支度を始める。
祐二は店の中をぐるりと見渡すと、「落ち着いた装飾ですね」と声をかけた。壁に掛かった絵画の額縁は綺麗に模様を彫られていて、ヨーロッパの建築や城の絵があちらこちらに掛けられていた。テーブル席は4人掛けが3席。カウンターも5人座ればいっぱい。
「ここはもう40年ぐらいやってるからね。私の母親が始めて、自分は会社勤めを辞めてから継いだんでね」
サイフォンで淹れるコーヒーのいい香りを漂わせながら、店主は笑みを浮かべると祐二に話す。笑みを浮かべるたびに目元の皺が綺麗に現れて、節だった指先で静かにカップをソーサーに乗せるとコーヒーを注いだ。
カップに口をつけて一口飲んだ山里が、「美味しい」と息を吐きながら唸る。出された飲み物をそれぞれ味わうと、本当に心が落ち着いた。あのまま解散していたら、気分が鬱々としたままだったろう。この店に入って良かったと、祐二は思った。
それなのに、「あの家の周りって、昔から空き地だったのかしら。こっちの方は普通に家が建ち並んでいるのに」と言った水野の声で現実に引き戻されてしまう。そうだ、水野には情緒とかよりも、自分の好奇心の方が勝る事を祐二は思い出した。
佐伯も山里も、水野に顔を向けるとゲンナリした表情になる。
「マスターはずっとこの辺りに住んでいるんですか?」と、水野は店主に向かって訊ねる。
「ええ、住んでますよ。あ、大学生の時にちょっとだけ他に住んでたけど、就職してから戻ってきました」
店主はカウンター越しに水野を見ながら答えてくれる。その表情は特に違和感がなくて、笑みを浮かべたままだった。が、次の水野の問い掛けには額の皺がはっきりと分かるほど怪訝な顔付きになっていた。
水野は、「1キロ程向こうの河岸に空き地の中に建ってる家があるじゃないですか。あの辺りって訳ありの土地なんですか?」と聞いたのだ。
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