物言わぬ家

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祭壇

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 みんなの視線を一身に集め、肩に力が入った菅沼。グッと拳を握りしめて項垂れる。
その様子を見ている祐二は、なんとなく居心地が悪くなった。みんなで菅沼を詰問している様で、このまま続けていいものかと迷う。

「あの、言いたくなければ別にいいんですよ、言わなくても。ただ、僕たちは岬さんも同じ様な質問を菅沼さんにしたんじゃないかって思ってて。そのテディベアの事をもし、岬さんが知っていたとしたら、あそこで同じ物を見て気になったはずです」
 静かな口調で話す祐二の顔を見上げた菅沼は、悲しそうな表情になった。

「あの祭壇に祀られているのは、あの男の先祖が始めた宗教みたいで、私には訳が分からないままお祈りをさせられていました。あの辺りの霊を鎮めるとか云ってたけど、母も私も毎日の様に酷くぶたれてましたよ」

「え、、、どうしてそんな事を」
 祐二が訊ねるが、それを聞いていた佐伯や水野たちも同様に驚く。

「気に障る事があると、私たちに悪霊が憑いているとか云って............。あの家で暮らし始めて4年ぐらいは、ずっとそんな感じでした」

「何処かに相談とかする事は出来なかったの?」と、水野が訊くと「出来る訳がない。そもそも、あそこに住んでいる住人は周りから孤立してたし、小学校でも私に話しかける子は居ませんでしたよ」
 悟った様に、眉も動かさずに話す菅沼に、みんなは声が出なくなる。あそこに住むという事が、どんな状況をもたらすのか、なんとなく想像出来てしまった。

「母は、本当の父が亡くなってから、ずっと精神を病んでいたのに、あの男のせいで身体まで病んでしまって。生きるのに疲れたんですよ、きっと。だから心中なんて馬鹿な事を.......」

「.......心中、しようとしたのかな?」
「え?」

 ふいに、水野がそんな問いかけをして、一瞬だったが菅沼の眼が大きく見開かれた。

「どういう事ですか?」と祐二が訊ねると、水野は腕組みをしたまま顔を天井に向けて「旦那を殺したかった、とか」と云った。

「..........」
 水野の言葉に、祐二も佐伯も美乃利も、菅沼さえも絶句したまま固まってしまう。

「あ~、ごめんなさい。お母さんも亡くなっているのに、こんな話。それに菅沼さんだって死にそうになったんだよね、ごめんなさい」
 そう云うと、水野は頭を深々と下げて謝った。

 確かに、もし子供を守る為なら、水野の云う事もあり得ると思ったが、流石に子供まで死なせる事はしないだろうと、祐二は思った。自分の母を思い出しても、困難にあっても自分を護ってくれる存在だったので、菅沼の母親が精神を病んでいた為に一家心中を試みたのだと、悲しい話だがそう思うしかなかった。

「祭壇の事は分かったし、ぬいぐるみの事も。......結局、岬さんは菅沼さんになんと云ったのかしら?あの家の、一家心中の事件の子供があなただったと知って、動画を回す為に話して欲しいとか?」
 水野が更に訊ねると、菅沼も水野に向き合って「確かに、そんな事を云われた気がします。でも、断わりましたよ。もう古い話だし、忘れたかったから」と云った。
その言葉に嘘はなさそうで、菅沼に話を聞く前に断られているのなら、岬も諦めるのではないかと思った。

 暫く無言のまま、それぞれに浮かない顔をして座り込んでいると、「結局、振り出しに戻ったわね」と水野が呟いた。ため息交じりの声は弱々しくて、美乃利の方に顔を向けると眉根を下げる。

「すみませんでした。菅沼さんには嫌な話をさせてしまって。岬さんを辿った先があそこの家だったので、こんな問い詰めるみたいな事をしてしまいました」
 美乃利は菅沼に向かって頭を下げた。

「それじゃあ、私たちは帰ります。長い時間をとってもらってごめんなさい」
 水野が菅沼に云うと、祐二たちも立ち上がって帰る為に部屋を出た。
菅沼は何も云わずに、ただ4人の後ろについて部屋を出るまで見送ろうと、玄関まで歩いて行く。
ドアを開けて、先ず佐伯が美乃利と共に廊下に出ると、次に祐二が後に付いた。そして、水野が身体を半分廊下に出したところで、後ろに居た菅沼に振り向くと「岬さんの部屋で何か探し物をしてます?」と訊ねる。

「.........は?」
「いえ、.....元々岬さんは部屋の整理整頓が出来ない方だったのかもしれないけど、机まわりとかクローゼットなんかが散らかっていたのが気になって。聞いていた性格とは違ったので、ちょっと気になりました。変な事聞いてすみませんね」

 それだけを云うと、丁寧に腰を折って菅沼にお辞儀をする水野だった。
菅沼の顔を見る間もなく、ドアが閉められて祐二たちは廊下に立ったまま。
「じゃあ、帰りましょうか」
 水野が声を掛けると、それぞれに渋々と歩き出す。水野は何を言いたかったのか、後で聞いてみようと思う祐二だった。



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