物言わぬ家

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堂々巡り

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「そもそも、菅沼さんがあの家の子供だったって事、山里さんは知らなかったじゃない。岬さんの撮影した動画を再生して、私たちの話で知っただけ。私たちが次の日に彼女と会って話をすると言ったら、ボイスレコーダーを貸してくれた」
 コーヒーを飲み干すと、水野は言った。

「ボイスレコーダー、そういえば、どうした?」
 ふいに水野が祐二を見ると訊いてきた。

「録音し忘れてましたよ。...今朝、山里さんにも聞かれましたけど、明日返さなきゃ」
「やだ、電話あったの?」
「ええ、菅沼さんの事を警察になんと話したのかって、聞かれましたけど、そのついでに」
「..........」

 水野は黙ってしまうと、暫くしてハッと目を見開き立ち上がった。
「え、ど、どうしたんですか?」
 祐二が焦って、立ち上がった水野に手を伸ばす。

「山里さん、岬さんにもボイスレコーダーを貸そうとしてたよね」
「ああ、でも、岬さんは持っていると...ぁ」
 そこまで言って、祐二も何か違和感を覚えた。

「奥村くん、会社に戻るよ」
 そう言うと水野はレジに向かった。祐二は水野の後を慌てて付いて行くと、財布から小銭を出して渡す。
 戻る途中で、祐二はもう一度記憶を遡っていた。菅沼の家の事件とあの祭壇の印象が強くて、どんどん偏った方向に気持ちが向いていたかもしれない。そして、岬の性格から、絶対に菅沼に詰め寄ったはずだと。
 もしも、山里が菅沼の事を岬から聞いて知っていたとしたら?
 岬が菅沼の話をボイスレコーダーに録音すると聞いたから、山里はボイスレコーダーを貸そうと言ったのではないか?でも、彼女は自分で持っていると。
 それなら、どうして菅沼の事を初めて聞いたような態度だったのか。自分たちに隠した理由は?
 折角大詰めに来たと思ったのに、また振り出しに戻ったみたいで、今までの疲れが増すばかり。重い足取りで事務所に戻った祐二は、続きの仕事をこなす事にした。



 山里に連絡を取って、待ち合わせをしたのは翌日。
 最初に美乃利たちと待ち合わせたカフェで、奥の席に座ると山里を待つ。今日は祐二がひとりで、水野は他に行くところがあると言っていた。

「あ、ここです」と、手を上げると正面からやって来た山里が気づくように背伸びをした。
 祐二の顔を見た山里は、軽く会釈をするとテーブルに近付いて来て椅子に腰を下ろす。

「就活はどうですか、上手くいってますか?」
 山里に向き合うと、祐二は尋ねる。昨日は面接があると言っていたし、自分の大学生の時を思い出すと気になった。祐二が就活をしていた頃は、景気があまり良くなくて、企業も新人を育てるというよりは、中途採用でも直ぐに使える人材を欲していた様に思う。

「企業も外からじゃ分かりませんからね。面接では結構細かく聞かれましたよ。まあ、他にも何社か当たりは付けているんで、夏ぐらいには決めたいですよね」
 そう云うと、山里は注文を取りにきた店員にアイスコーヒーを注文した。

「あ、これ、どうも有難うございました。結局使えなくて、やっぱり慣れないとダメですね。いざという時にすっかり持っている事を忘れちゃう」
 ボイスレコーダーをテーブルに置くと、祐二は苦笑いしながら言う。
「俺はメモを取る代わりに使う事もあるんで」

「ああ、岬さんも自分のを持っているって、、、仕事で使ってたんでしょうかね?常に持ち歩いていたとか?」
「..........さあ、仕事の時は知りませんが。俺もあの日、岬さんに貸しましょうかって、聞く迄は持ってるなんて思って無くて」
「そうでしたね。.....どうして貸そうと言ったんです?誰かの話を聞くって事が分かってたとか?」
 祐二が山里の顔をチラッと見ると聞いた。
 山里は何かを言いかけたが、すぐに真顔になると言葉を飲み込む様に黙る。
それから、アイスコーヒーにくちを付けて、一瞬、フッと笑みを浮かべると、俺、まだ用事があるんで、と云いながらコーヒーをゴクゴクと飲み干した。
 



 
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