ナナシの神様

えむら若奈

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平和の象徴

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 翌日の夕方。花火大会へ向かう支度をしているところに、浴衣姿の希穂が現れた。

「はい、お披露目!」

 希穂は壱弥の前でくるりと一回転して、両手を横に広げてみせた。

 白地に大きなひまわりがあしらわれた、華やかな浴衣だ。昨日着ていたワンピースもそうだったし、希穂はひまわりの柄が好きだった。
 髪は綺麗にまとめ、飴玉のような玉かんざしを挿している。

「どう、かわいい?」
「うん、かわいい。よく似合っとうよ」
「ときめいた?」
「ときめいた、ときめいた」
「棒読み!」

 希穂は口をとがらせながら、壱弥の肩を小突く。こういうやり取りも昔から変わらず、心を和ませてくれる。
 相変わらずニヤニヤと様子を眺めているナナシの姿が目に入り、昨日の言葉が一瞬頭をよぎったが、壱弥はすぐに振り払った。

「ケンは、何時に来るって?」
香菜かなちゃんを拾ってからやけん、あと十分ぐらいやない?」

 幼なじみの浅倉健二と、その彼女の大石香菜が壱弥の家に迎えに来ることになっている。
 筑後川に向かいながら道中で三人拾い、計七人で会場へ向かう予定だった。

 ほどなくして、健二のミニバンが家の前に到着した。運転席から健二が、助手席からは香菜が降りてくる。

「うわぁ」

 壱弥の姿を見るなり、健二が声をあげた。普段通りの少しゆるいストリート系の洋服を着ていて、以前会ったときより髪の色が明るくなっているようだ。

「なんだよ、うわぁって」
「いや、壱弥は相変わらずやなって。浴衣、着こなしすぎやん」
「相変わらずバリかっこよかね、壱弥くん。写真撮っていい?」

 優美な藍染の浴衣を纏っている香菜が、目を輝かせながらスマートフォンのカメラを向けてくる。
 スマートフォンの画像フォルダがスカスカな自分からすると、なぜこうも写真を撮りたがるのかが、いまいち理解できない。

「撮ってどうすんの?」
「思い出と目の保養よ。壱弥くんの浴衣姿なんてレアやんか。大丈夫、インスタには上げんけん」
「ねぇねぇ香菜ちゃん。こん浴衣、私が作ったとよ」
「さすが、きぃちゃん。壱弥くんの似合うもの、よう分かっとうね。てか、きぃちゃんもかわいい!」
「香菜ちゃんの浴衣姿も、めっちゃ綺麗!」

 互いに褒め合いながら撮影会を始める女子ふたりに苦笑いを浮かべていると、呆れた表情でその様子を眺める健二と目が合った。

 健二とは幼稚園から高校までずっと同じクラスで、希穂と同様に、勉強をするのも遊びに行くのも常に一緒だった。
 互いの性格をよく理解しているので、多くを語らずとも、なんとなく意思の疎通ができる。

樹里じゅりたちが待っとうけん、はよ行こうぜ」

 壱弥の心中を察して、健二が助け舟を出してくれた。

 ミニバンは七人乗りのもので、壱弥と希穂は最後方の三列目のシートに座った。そしてその間に、当然のような顔をしてナナシが座る。
 もちろん希穂にもナナシは見えていないので、壱弥は素知らぬ顔をして前を向いた。
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