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やさしい道しるべ
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「帰ってくるよ。ばあちゃんのお茶も、飲みたいし」
壱弥が言うと、颯太は嬉しそうに頷き、またラグビーの話をしはじめた。
翌十三日。佐賀の叔母家族、長崎の叔父家族が昼過ぎに到着した。叔母には二十五歳の息子と二十一歳の娘、叔父には十七歳と十五歳の娘がいて、全員が揃って香月家を訪れるのは盆だけだ。
希穂もそうだったが、女性はしばらく会わないと見た目がガラリと変わる。少し前までランドセルを背負っていた従妹が、しっかりと化粧をしてめかしこんでいるのを見て、壱弥はなんとなく複雑な気持ちになった。
「なにをしておるのじゃ?」
日が傾きかけてきたころ、玄関前でしゃがみこんでいると、ナナシが壱弥の手元を覗き込んできた。
盆の十三日夕方は、玄関先に迎え火を焚く。毎年、それをやるのは壱弥の役目だった。
「オガラが長いと、火の勢いが強くなりすぎるんだよ。だからこうやって、短く折ってんの」
迎え火は、先祖や故人の霊が帰るための目印だ。焙烙という素焼きの平皿にオガラを積み重ねて燃やす。オガラだけでは火がつきにくいので、壱弥は折ったオガラの下に丸めた新聞紙を置いていた。
「手際がいいのう」
「ひいじいちゃんに仕込まれたけんね」
「ふむ。お主の曾祖父は信仰心も厚く、皆の手本になるような人間だったのじゃな」
「うん。いろいろ教えてくれたよ」
新聞紙に火をつけ、炎が立ちのぼると、壱弥は合掌して「この火を目印に帰ってきてください」と念じた。これも、曾祖父から教わったことだった。
「迎え火か。厳かな気分になるのう」
「神様もそんな気分になるんだ? これ、仏教の慣習だけど」
「神仏習合と言うてな。神道と仏教が融合し、ひとつの信仰体系となった時代があったのじゃ。神と仏はなかよしこよし、ということである」
「ふぅん」
ナナシの瞳が炎に照らされ、まるで猫の目のように光った。
神様と一緒に迎え火を眺める。なんとも不思議な体験だと壱弥は思った。
「お、いい匂いがしてきたのう」
「ご馳走だからね」
今日は久しぶりに、賑やかな食卓になりそうだ。壱弥は腰を上げて、家に入った。
総勢十五人での食事なので、ダイニングとリビングのテーブルをくっつけて、そこに大皿の料理が並べてある。
女性陣は少食なのだが、壱弥と颯太が健啖家なので、毎度大量の料理が用意される。
誰が決めたわけでもなく、座る場所は自然と成人組、未成年組でいつも固まっていた。壱弥は今年から成人組だが、もともとあまり酒を飲まないので、なんとなく両者の真ん中に座った。
「壱弥、学校はどげんね」
従兄の恭介が、壱弥のコップにビールを注ぎながら言った。叔母の長男で、佐賀市内で公務員をしている。昔から老け顔で、まだ二十五歳なのに、あまり若々しさがなかった。
「東京行っても変わらんよね、壱弥は。誘惑が多いやろうに」
「まぁ、遊ぶ場所は多いね。でも学校がない日もバイトがあるけん、そんなに遊ぶ時間ないんよ」
「スカウトとかされんと?」
「されんよ」
恭介は、酒を飲むと毎回この質問をしてくる。彼の中では、東京といえば芸能界にスカウトされる、というイメージがあるようだ。
壱弥が言うと、颯太は嬉しそうに頷き、またラグビーの話をしはじめた。
翌十三日。佐賀の叔母家族、長崎の叔父家族が昼過ぎに到着した。叔母には二十五歳の息子と二十一歳の娘、叔父には十七歳と十五歳の娘がいて、全員が揃って香月家を訪れるのは盆だけだ。
希穂もそうだったが、女性はしばらく会わないと見た目がガラリと変わる。少し前までランドセルを背負っていた従妹が、しっかりと化粧をしてめかしこんでいるのを見て、壱弥はなんとなく複雑な気持ちになった。
「なにをしておるのじゃ?」
日が傾きかけてきたころ、玄関前でしゃがみこんでいると、ナナシが壱弥の手元を覗き込んできた。
盆の十三日夕方は、玄関先に迎え火を焚く。毎年、それをやるのは壱弥の役目だった。
「オガラが長いと、火の勢いが強くなりすぎるんだよ。だからこうやって、短く折ってんの」
迎え火は、先祖や故人の霊が帰るための目印だ。焙烙という素焼きの平皿にオガラを積み重ねて燃やす。オガラだけでは火がつきにくいので、壱弥は折ったオガラの下に丸めた新聞紙を置いていた。
「手際がいいのう」
「ひいじいちゃんに仕込まれたけんね」
「ふむ。お主の曾祖父は信仰心も厚く、皆の手本になるような人間だったのじゃな」
「うん。いろいろ教えてくれたよ」
新聞紙に火をつけ、炎が立ちのぼると、壱弥は合掌して「この火を目印に帰ってきてください」と念じた。これも、曾祖父から教わったことだった。
「迎え火か。厳かな気分になるのう」
「神様もそんな気分になるんだ? これ、仏教の慣習だけど」
「神仏習合と言うてな。神道と仏教が融合し、ひとつの信仰体系となった時代があったのじゃ。神と仏はなかよしこよし、ということである」
「ふぅん」
ナナシの瞳が炎に照らされ、まるで猫の目のように光った。
神様と一緒に迎え火を眺める。なんとも不思議な体験だと壱弥は思った。
「お、いい匂いがしてきたのう」
「ご馳走だからね」
今日は久しぶりに、賑やかな食卓になりそうだ。壱弥は腰を上げて、家に入った。
総勢十五人での食事なので、ダイニングとリビングのテーブルをくっつけて、そこに大皿の料理が並べてある。
女性陣は少食なのだが、壱弥と颯太が健啖家なので、毎度大量の料理が用意される。
誰が決めたわけでもなく、座る場所は自然と成人組、未成年組でいつも固まっていた。壱弥は今年から成人組だが、もともとあまり酒を飲まないので、なんとなく両者の真ん中に座った。
「壱弥、学校はどげんね」
従兄の恭介が、壱弥のコップにビールを注ぎながら言った。叔母の長男で、佐賀市内で公務員をしている。昔から老け顔で、まだ二十五歳なのに、あまり若々しさがなかった。
「東京行っても変わらんよね、壱弥は。誘惑が多いやろうに」
「まぁ、遊ぶ場所は多いね。でも学校がない日もバイトがあるけん、そんなに遊ぶ時間ないんよ」
「スカウトとかされんと?」
「されんよ」
恭介は、酒を飲むと毎回この質問をしてくる。彼の中では、東京といえば芸能界にスカウトされる、というイメージがあるようだ。
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