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見習いの矜持
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「なんでも訊いてって言いよったのに」
「なんでも答えるとは言ってないけんね」
「でも教えてくれんと分からんです。俺、初心者やけん」
頬を紅潮させて不満を口にする藤澤の姿に、幼いときの颯太が重なった。ラグビーを始めたころの颯太も、壱弥になんでも教えてもらいたがっていた。そして教えてもらえないと、その場に座り込んで泣き喚く。
藤澤にも、そのときの颯太と同じような切実なものを感じた。
「コーチって、教えるためにおるんやないよ」
「どういう意味ですか?」
「コーチの仕事は、導くこと。だから、まずは康平のこと教えてよ。なんも知らんけん」
横に座るようにもう一度促すと、今度は素直に従った。だが、藤澤の表情には、まだ不満の色が見える。
吉永は、壱弥と話すほうがいいと言った。自分に求められているのは、藤澤に技術指導をすることではないのだろうと壱弥は思っていた。
「俺のことって、なんですか?」
「たとえば、好きな食べ物とか」
「それ、ラグビーと関係あるとですか?」
「ないよ」
「なんか、壱弥さんて変わってますね」
「よく言われる。ちなみに俺は、ばあちゃんが漬けたキュウリとナスの糠漬けが好きなんよ。あれだけで白米が何杯もいける」
壱弥が言うと、藤澤の表情が少し和らいだ。
「意外です。壱弥さんって、もうちょいスカした人なんかなって。颯太先輩が、壱弥さんはバリかっこいいってずっと言いよったし。試合の映像でも、トライ取ったとき以外はめっちゃクールやったけん」
意外という言葉は、嫌というほどよく言われる。しかし壱弥は、人が自分に対して抱くイメージにはあまり興味がなかった。
「食いもんも、もっとオシャレなもんを好いとうかと思いよった」
「オシャレなもんって?」
「うーん。カルパッチョ、みたいな。フランス料理っぽいやつ」
「なんでよ。しかもカルパッチョって、イタリア料理やし」
「え、マジっすか」
顔を見合わせ、ふたりで吹き出した。
「そういう康平の好きな食べ物はなんなん?」
「俺が好きなんは、来風軒の半チャーハンっす」
来風軒とは、学校の近くにある昔ながらのラーメン屋だ。早い、安い、美味いと三拍子そろっていて、壱弥も高校時代は頻繁に通っていた。
「単品やなくて、半チャーハン?」
「ラーメンセットの半チャーハンがいいんす」
「味、同じやん」
「違いますって。ラーメンと一緒やけん、いいんす」
もしかすると、藤澤は細かいこだわりがある男なのかもしれない。それはそれで面白いと、壱弥は思った。
「なんでも答えるとは言ってないけんね」
「でも教えてくれんと分からんです。俺、初心者やけん」
頬を紅潮させて不満を口にする藤澤の姿に、幼いときの颯太が重なった。ラグビーを始めたころの颯太も、壱弥になんでも教えてもらいたがっていた。そして教えてもらえないと、その場に座り込んで泣き喚く。
藤澤にも、そのときの颯太と同じような切実なものを感じた。
「コーチって、教えるためにおるんやないよ」
「どういう意味ですか?」
「コーチの仕事は、導くこと。だから、まずは康平のこと教えてよ。なんも知らんけん」
横に座るようにもう一度促すと、今度は素直に従った。だが、藤澤の表情には、まだ不満の色が見える。
吉永は、壱弥と話すほうがいいと言った。自分に求められているのは、藤澤に技術指導をすることではないのだろうと壱弥は思っていた。
「俺のことって、なんですか?」
「たとえば、好きな食べ物とか」
「それ、ラグビーと関係あるとですか?」
「ないよ」
「なんか、壱弥さんて変わってますね」
「よく言われる。ちなみに俺は、ばあちゃんが漬けたキュウリとナスの糠漬けが好きなんよ。あれだけで白米が何杯もいける」
壱弥が言うと、藤澤の表情が少し和らいだ。
「意外です。壱弥さんって、もうちょいスカした人なんかなって。颯太先輩が、壱弥さんはバリかっこいいってずっと言いよったし。試合の映像でも、トライ取ったとき以外はめっちゃクールやったけん」
意外という言葉は、嫌というほどよく言われる。しかし壱弥は、人が自分に対して抱くイメージにはあまり興味がなかった。
「食いもんも、もっとオシャレなもんを好いとうかと思いよった」
「オシャレなもんって?」
「うーん。カルパッチョ、みたいな。フランス料理っぽいやつ」
「なんでよ。しかもカルパッチョって、イタリア料理やし」
「え、マジっすか」
顔を見合わせ、ふたりで吹き出した。
「そういう康平の好きな食べ物はなんなん?」
「俺が好きなんは、来風軒の半チャーハンっす」
来風軒とは、学校の近くにある昔ながらのラーメン屋だ。早い、安い、美味いと三拍子そろっていて、壱弥も高校時代は頻繁に通っていた。
「単品やなくて、半チャーハン?」
「ラーメンセットの半チャーハンがいいんす」
「味、同じやん」
「違いますって。ラーメンと一緒やけん、いいんす」
もしかすると、藤澤は細かいこだわりがある男なのかもしれない。それはそれで面白いと、壱弥は思った。
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