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みをつくし
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このぬくもりも、いずれは忘れてしまうのだろうか。
大切だと思っていたものでも、その手から離れてしまえば、次第に心も離れていく。人間とは、そんなものなのだろうとも思った。
翌日。午前中の便なので、早朝に家を出て一緒に羽田空港へと向かった。
見送りは、壱弥だけだった。友人たちは全員、壱弥と澪が別れることを知っているので、気を利かせてくれたらしい。
チェックインを済ませたあとはベンチに座り、手をつないだまま他愛ない話をして過ごした。
澪が乗る便の搭乗手続きがはじまる。そのアナウンスは聞こえていたはずだが、澪はギリギリまで立とうとしなかった。
「行かなくちゃ」
腕時計を見て、澪が言った。誕生日に壱弥が贈った、ローズゴールドの腕時計だ。
「じゃあ、いってきます」
「うん、気をつけて」
「体に気をつけて、頑張ってね」
「澪もね」
「うん。頑張ってくる」
そう言ったあと、澪は一瞬俯いたが、すぐに顔を上げて壱弥の目をまっすぐに見つめた。
「ありがとう、壱弥くん」
壱弥の両手をしっかりと握って、そう言った。このぬくもりが感じられるのも、これで最後だ。
キャリーバッグを引きながら、澪が保安検査場へと向かう。その姿を、壱弥はじっと見つめた。
無事に保安検査を通ったあと、澪が振り返る。目が合うと満面の笑みで手を振り、口を動かした。「またね」と言っているように見えて、壱弥は頷きながら手を振り返した。
澪の姿が見えなくなる。壱弥は、自分の顔に貼りついていた笑顔が剥がれていくのを感じた。
同時に、心にはなんの感情も湧いていないことに気がつく。寂しさも悲しさも、なんの痛みもない。
澪への気持ちは、恋なんかではなかったのかもしれない。ただ自分が、心地いい空間にいたかっただけ。そう思った。
また、元の日々に戻るだけ。澪と出会う、あの日までの生活に。独りだけの食卓に。
ただそれだけだと、壱弥は思った。
大切だと思っていたものでも、その手から離れてしまえば、次第に心も離れていく。人間とは、そんなものなのだろうとも思った。
翌日。午前中の便なので、早朝に家を出て一緒に羽田空港へと向かった。
見送りは、壱弥だけだった。友人たちは全員、壱弥と澪が別れることを知っているので、気を利かせてくれたらしい。
チェックインを済ませたあとはベンチに座り、手をつないだまま他愛ない話をして過ごした。
澪が乗る便の搭乗手続きがはじまる。そのアナウンスは聞こえていたはずだが、澪はギリギリまで立とうとしなかった。
「行かなくちゃ」
腕時計を見て、澪が言った。誕生日に壱弥が贈った、ローズゴールドの腕時計だ。
「じゃあ、いってきます」
「うん、気をつけて」
「体に気をつけて、頑張ってね」
「澪もね」
「うん。頑張ってくる」
そう言ったあと、澪は一瞬俯いたが、すぐに顔を上げて壱弥の目をまっすぐに見つめた。
「ありがとう、壱弥くん」
壱弥の両手をしっかりと握って、そう言った。このぬくもりが感じられるのも、これで最後だ。
キャリーバッグを引きながら、澪が保安検査場へと向かう。その姿を、壱弥はじっと見つめた。
無事に保安検査を通ったあと、澪が振り返る。目が合うと満面の笑みで手を振り、口を動かした。「またね」と言っているように見えて、壱弥は頷きながら手を振り返した。
澪の姿が見えなくなる。壱弥は、自分の顔に貼りついていた笑顔が剥がれていくのを感じた。
同時に、心にはなんの感情も湧いていないことに気がつく。寂しさも悲しさも、なんの痛みもない。
澪への気持ちは、恋なんかではなかったのかもしれない。ただ自分が、心地いい空間にいたかっただけ。そう思った。
また、元の日々に戻るだけ。澪と出会う、あの日までの生活に。独りだけの食卓に。
ただそれだけだと、壱弥は思った。
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