78 / 132
男女の本懐
7
しおりを挟む
アウトドア用のテーブルや椅子は、普段あまり使わないので、蔵一階の奥のほうにしまい込んである。たどり着くまでにいくつか物をどけないといけないのだが、その間ナナシは二階を物色していた。
「お、これは日記かのう」
頭上からナナシの声が聞こえた。
ひとまずテーブルや椅子を蔵の外に出してから、ナナシのいる二階へ上がる。
「何冊もあるようじゃ。こちらの小さな手帖は、戦地でも携帯していたもののようであるな」
日記帳の背表紙には、それぞれ綺麗な字で年代が書いてある。中をめくると、毎日ではないものの、定期的に日々の記録がつづられていた。
「そういや、マメに日記を書いとるって、言っとった気がする」
「なかなかに几帳面な御仁だったようじゃのう。イチヤと似ておるのは、顔だけということか」
ナナシがひとりで、けらけらと笑っている。
確かに壱弥には、マメに日記を書くことなど絶対にできない。小学校の夏休みの宿題に出ていた「ひと言日記」も飛び飛びでしか書けず、開き直ってそのまま提出したら、先生に怒られた記憶がある。ちなみに健二は、毎日きっちり天気を記録していた樹里のものを写して出していた。
「壱弥、探し物ね?」
曾祖父の日記帳を何冊か持って下に降りると、祖父が入口から顔を覗かせてきた。
「うん。きぃたちとバーベキューするけん、テーブルとか出しとった」
「そうね」
「あのさ、じいちゃん。これ、ひいじいちゃんの日記だよね?」
日記帳を手渡すと、祖父は中身をパラパラとめくり、頷いた。
「そういや、いろいろ書いて遺しとったね。きちんとした人やったけん」
「読んでもいいかいな?」
「ああ、よかよ。親父様も、壱弥が読んでくれっとは喜ぶやろう」
祖父が微笑んだ。くしゃっと笑うその顔は、やはり曾祖父によく似ている。
もともとは母親似だったようだが、不思議と歳を重ねるごとに曾祖父にも顔が似てきたらしい。いまでも畑仕事で体を動かしているので、七十五歳とは思えないほど、見た目は若々しかった。
「イチヤの家系は、物静かで穏やかな人間が多いようじゃのう」
離れに帰っていく祖父の背中を見ながら、ナナシが言った。
「父親の家系は、そうかもね」
「正反対だからこそ、コウイチロウはミサキのように、明るくよく喋る人間に惹かれたのかもしれぬな」
ミサキとは、母の美咲のことだ。
確かに父と母は正反対の性格をしている。若いころ、母が農業体験に来たときにふたりは知り合ったらしく、どちらかというと母のほうが父を気に入ってアプローチしていたそうだ。
もしかすると、父は母の押しに負けたのかもしれない。壱弥は密かに、そう思っていた。
「お、これは日記かのう」
頭上からナナシの声が聞こえた。
ひとまずテーブルや椅子を蔵の外に出してから、ナナシのいる二階へ上がる。
「何冊もあるようじゃ。こちらの小さな手帖は、戦地でも携帯していたもののようであるな」
日記帳の背表紙には、それぞれ綺麗な字で年代が書いてある。中をめくると、毎日ではないものの、定期的に日々の記録がつづられていた。
「そういや、マメに日記を書いとるって、言っとった気がする」
「なかなかに几帳面な御仁だったようじゃのう。イチヤと似ておるのは、顔だけということか」
ナナシがひとりで、けらけらと笑っている。
確かに壱弥には、マメに日記を書くことなど絶対にできない。小学校の夏休みの宿題に出ていた「ひと言日記」も飛び飛びでしか書けず、開き直ってそのまま提出したら、先生に怒られた記憶がある。ちなみに健二は、毎日きっちり天気を記録していた樹里のものを写して出していた。
「壱弥、探し物ね?」
曾祖父の日記帳を何冊か持って下に降りると、祖父が入口から顔を覗かせてきた。
「うん。きぃたちとバーベキューするけん、テーブルとか出しとった」
「そうね」
「あのさ、じいちゃん。これ、ひいじいちゃんの日記だよね?」
日記帳を手渡すと、祖父は中身をパラパラとめくり、頷いた。
「そういや、いろいろ書いて遺しとったね。きちんとした人やったけん」
「読んでもいいかいな?」
「ああ、よかよ。親父様も、壱弥が読んでくれっとは喜ぶやろう」
祖父が微笑んだ。くしゃっと笑うその顔は、やはり曾祖父によく似ている。
もともとは母親似だったようだが、不思議と歳を重ねるごとに曾祖父にも顔が似てきたらしい。いまでも畑仕事で体を動かしているので、七十五歳とは思えないほど、見た目は若々しかった。
「イチヤの家系は、物静かで穏やかな人間が多いようじゃのう」
離れに帰っていく祖父の背中を見ながら、ナナシが言った。
「父親の家系は、そうかもね」
「正反対だからこそ、コウイチロウはミサキのように、明るくよく喋る人間に惹かれたのかもしれぬな」
ミサキとは、母の美咲のことだ。
確かに父と母は正反対の性格をしている。若いころ、母が農業体験に来たときにふたりは知り合ったらしく、どちらかというと母のほうが父を気に入ってアプローチしていたそうだ。
もしかすると、父は母の押しに負けたのかもしれない。壱弥は密かに、そう思っていた。
0
あなたにおすすめの小説
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様
あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。
死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。
「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」
だが、その世界はダークファンタジーばりばり。
人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。
こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。
あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。
ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。
死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ!
タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。
様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。
世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。
地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。
無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!
飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。
貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。
だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。
なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。
その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。
通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~
日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!
斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。
偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。
「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」
選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる