ナナシの神様

えむら若奈

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男女の本懐

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 アウトドア用のテーブルや椅子は、普段あまり使わないので、蔵一階の奥のほうにしまい込んである。たどり着くまでにいくつか物をどけないといけないのだが、その間ナナシは二階を物色していた。

「お、これは日記かのう」

 頭上からナナシの声が聞こえた。
 ひとまずテーブルや椅子を蔵の外に出してから、ナナシのいる二階へ上がる。

「何冊もあるようじゃ。こちらの小さな手帖は、戦地でも携帯していたもののようであるな」

 日記帳の背表紙には、それぞれ綺麗な字で年代が書いてある。中をめくると、毎日ではないものの、定期的に日々の記録がつづられていた。

「そういや、マメに日記を書いとるって、言っとった気がする」
「なかなかに几帳面な御仁だったようじゃのう。イチヤと似ておるのは、顔だけということか」

 ナナシがひとりで、けらけらと笑っている。
 確かに壱弥には、マメに日記を書くことなど絶対にできない。小学校の夏休みの宿題に出ていた「ひと言日記」も飛び飛びでしか書けず、開き直ってそのまま提出したら、先生に怒られた記憶がある。ちなみに健二は、毎日きっちり天気を記録していた樹里のものを写して出していた。

「壱弥、探し物ね?」

 曾祖父の日記帳を何冊か持って下に降りると、祖父が入口から顔を覗かせてきた。

「うん。きぃたちとバーベキューするけん、テーブルとか出しとった」
「そうね」
「あのさ、じいちゃん。これ、ひいじいちゃんの日記だよね?」

 日記帳を手渡すと、祖父は中身をパラパラとめくり、頷いた。

「そういや、いろいろ書いて遺しとったね。きちんとした人やったけん」
「読んでもいいかいな?」
「ああ、よかよ。親父様も、壱弥が読んでくれっとは喜ぶやろう」

 祖父が微笑んだ。くしゃっと笑うその顔は、やはり曾祖父によく似ている。
 もともとは母親似だったようだが、不思議と歳を重ねるごとに曾祖父にも顔が似てきたらしい。いまでも畑仕事で体を動かしているので、七十五歳とは思えないほど、見た目は若々しかった。

「イチヤの家系は、物静かで穏やかな人間が多いようじゃのう」

 離れに帰っていく祖父の背中を見ながら、ナナシが言った。

「父親の家系は、そうかもね」
「正反対だからこそ、コウイチロウはミサキのように、明るくよく喋る人間に惹かれたのかもしれぬな」

 ミサキとは、母の美咲のことだ。
 確かに父と母は正反対の性格をしている。若いころ、母が農業体験に来たときにふたりは知り合ったらしく、どちらかというと母のほうが父を気に入ってアプローチしていたそうだ。

 もしかすると、父は母の押しに負けたのかもしれない。壱弥は密かに、そう思っていた。
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