ナナシの神様

えむら若奈

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我の名は――

3

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「心のつながりに、距離は関係ないぞ。我とお主の絆は、永久とこしえのものなのである。離れていても、常に心はともにあるのじゃ。辛いとき、苦しいとき、なにかにつまずいて立ち上がれそうにないとき。我を思い出して、己の手のひらを見るがよい。お主が我を感じるとき、我もお主を感じておる。決して、それを忘れるでないぞ」

 手のひらから、体の中へと力が流れ込んでくる。
 常に感謝を胸に抱いていれば、遠い場所にいたとしても、ナナシとの縁が遠ざかることはない。そのことを、心に刻みつけられているようだった。

 しばらくして、ナナシがゆっくりと手を離した。

「ところで、ミオを連れてくるのは、いつなのじゃ?」
「来年の春だな。澪が帰国して、ご両親に挨拶しに行って……それから、こっちに連れてくる」

 澪は、母親と弟には同棲のことを話したらしい。味方がふたりできたと、嬉しそうに報告してきた。

「楽しみじゃのう。ミオは料理上手なのであろう」
「……ここには持ってこられんよ」
「なんじゃとぉ? 工夫すれば持ってこられるであろう!」

 その工夫をするために、家族へどのように説明しろと言うのか。相変わらず、ナナシの食に対する執念は強いようだ。
 神様にも、いろいろな性格がある。しかしナナシがこのような性格だからこそ、今年の夏休みは充実したものになった。

 帰省してきてからのことを思い返して、思わず頬が緩む。壱弥の顔を見て、ナナシも笑った。

「よし。ジョギングの途中やけん、そろそろ行くよ。年末、また会いに来る」
「イチヤ」

 きびすを返した壱弥を、ナナシが呼び止める。

「冬に来るときの供物は『あまおうじぇらあと』で頼むぞ」
「覚えとったらね」

 それだけ言って、階段を駆け下りた。

 出会った日のように、ナナシがついてくることはない。それでも壱弥は、胸の中にナナシの存在を確かに感じていた。

 夏は終わり、秋が訪れ、じき冬になる。今度この町へ帰ってきたときには、雪化粧が見られるだろうか。春はあの高台から、満開の桜を澪と一緒に眺めたい。そしてまた夏になれば、力強く輝く緑の下で汗を流そう。

 そうやって、この町とともに生きていく。そばにはいつも、いてくれるはずだ。小生意気で恋愛話が大好きで食い意地が張っている、小さな小さな神様が。
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