ホウセンカ

えむら若奈

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母へと贈るエーデルワイス

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 愛茉の大学が冬休みに入った24日。羽田空港は、早朝にも関わらず大きな荷物を持つ人で混雑していた。

 保安検査場も長蛇の列だったが、かなり早めに着いたので余裕はある。とりあえず座ることはできたので、愛茉が作ってきたサンドイッチを頬張りながら搭乗開始を待った。

「旅館のチェックインは15時からだから」
「うん」
「先に荷物預けて」
「うん」
「それから一旦札幌に出て」
「うん」
「聞いてる?」
「うん」
「……今日の東京の天気は?」
「うん」

 愛茉に脇腹を小突かれた。
 最近はほとんど夜更かしをしなくなったし、よく眠れている。それでも相変わらず朝起きるのは苦手だし、午前中は頭が働かない。

「もう。多分言っても覚えないだろうから、これ見て」

 愛茉がLINEで何かの画像を送ってきた。
 
「なんこれ」
「今回の旅程」
「……なんか、こまけぇな」

 目的地までの交通手段や所要時間だけでなく、料金や滞在予定時間まで、きっちり書いてある。しかも状況に応じてプランAからプランDまで用意されていた。

 愛茉は何事も、事前にきちんと決めたがる。良く言えば几帳面、悪く言えば神経質で融通が利かなくてマニュアル人間。オレとは真逆だ。

 オレが旅をする時は、絶対に行きたい目的の場所以外は、すべて行き当たりばったりで動く。泊まる場所も決めていない。

 海外ではタクシーの運転手が目的地を間違えて知らない場所に降ろされたことが何度もあるが、そういう時こそ面白い出会いがある。予定外や偶然を楽しむのも旅の醍醐味だと思っていた。

「桔平くんと行きたいところ、たくさんあって。ゆっくりしつつも、できるだけいろいろ行けるスケジュールを組んでみました」

 満面の笑みでそんなことを言われると、人目もはばからず抱きしめたい衝動に駆られる。仕方ない。この細かいスケジュール通りに動いてやるか。

「クリスマスだから、小樽運河でもイベントやってるみたいだよ。絶対ロマンチックだよね。楽しみだな」

 言ったあと、愛茉は口元を手で覆った。それを見て、オレにも欠伸がうつる。

 昨夜、愛茉はひとりでとっととベッドへ入っていたが、結局なかなか寝つけなかったらしい。余程楽しみにしていたのだろう。

 飛行機が離陸するまでは喋りまくっていたものの、飛び立ってから新千歳空港に着くまでの1時間半、オレに寄りかかってぐっすり眠っていた。最近、どんどん子供になっている気がする。

 愛茉はもともと、かなり子供っぽい性格だ。ワガママだしすぐ拗ねるし、拗ねた理由を聞いても口を尖らせて黙るだけ。

 かと言って放置すればまた怒るから、とりあえず構ってやらないといけない。抱きしめたり頭を撫でたりキスをしたりしているうちに機嫌が良くなるものの、何が原因なのかは分からないまま。そんなことが、頻繁にある。

 ただ、子供っぽいのは感情表現が豊かということだ。しかもそれはオレに対してだけで、七海ちゃんや周りの人間には、相変わらず綺麗に外面を貼りつけている。こんなの、可愛くないわけがないだろ。
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