Girls×Basket〇

遠野そと

文字の大きさ
5 / 51
第1章

5. 1on1

しおりを挟む
 
 先輩二人に案内され、体育館横の出入口から中に入った。

 横扉は二重の引戸で、内側は格子戸になっている。換気をしながらもボールが外に出ていかない仕様になっている。
 館内はバスケットボールのオールコートが二面取れる広さがある。中央には防球ネットが張られており、片面をバレー部が使用していた。
 バスケ部には舞台側のコートに使用権があった。

 3ポイントラインの外側に立つ遥とつかさ。
 その後ろ、センターライン付近では環奈、杏、もなかが勝負の行方を見守る。

「じゃあ私が先にディフェンスで」

 遥が言うと、つかさはボールを抱えたままリングと正対する。
 つかさから遥にボールが投げられる。遥はそれを受けてつかさに返す。

 1on1が始まる。

 遥はつかさから腕一本分離れた位置でディフェンスの構えを取った。
 つかさを見る。
 腰元でボールを保持し、お尻を突き出すように上体を倒した。軽く曲げられた膝は、曲げたというより力が入っていないから自然と曲がっているというほうが正しい。
 その佇まいに遥は気を引き締める。

 つかさが、体勢はそのままに足を半歩前に出した。遥もその動きに合わせる。
 出方を窺っただけでまだ攻めてこない。
 こなれた感といい落ちつきといい、手を抜いてどうにかなる相手ではない気がした。

 遥にはブランクもある。今のこの腕一本分離れた間合では抜かれる未来が脳裏に浮かんだ。咄嗟につかさとの距離をもう少しだけ離していた。
 それを見て、つかさがゆったりとドリブルを開始した。なめらかかつ軽快。ぎこちなさや窮屈さがまるでない。

 予感が確信に変わる。

 瞬間、目が合った。
 一本目は小手調べとばかりに、つかさは何気ないふうに股を通し後ろを通ししてボールの持ち手を変える。
 直後

「……」

 右側すれすれをつかさがかすめた。
 遥は目を見張る。体はつかさの動きに反応することさえできなかった。

 予備動作なし。ともすればいつ動き出したのかもわからない身のこなしと、一歩目からトップスピードに乗るような爆発的な踏み出し。鋭いけれど柔らかく、豪快なのに音がしない。それはまるで、真空を切り裂いていくようなドライブだった。

 背後からネットの揺れる音が聞こえた。
 ついさっきまでつかさがいた場所の向こうでは、杏が口をあんぐり開けたまま突っ立っている。その隣ではもなかが目を白黒させていて、そのまた隣では環奈がぽかんとした顔のまま硬直していた。

 遥は振り向く。つかさが床にバウンドしたボールを拾って戻ってきた。
 シュートが成功したので攻守交替はない。
 立ち尽くしたままボールを受け取り、遥は我に返る。一刻も早くこの場から離れたいと思った。

「ごめんなさい。帰ります」

 つかさにボールを返し、勝負を見守っていた三人に「失礼します」と頭を下げた。

「ま、また来てくださいね!」
「ま、またおいでね」

 体育館を立ち去ろうとすると背後から環奈ともなかの声が聞こえた。
 遥は振り返り、もう一度頭を下げた。

 今度こそ体育館を後にするため横扉へと歩き出すと、格子の隙間から誰かが慌てて去っていく姿がちらりと見えた。遥は特に気にすることなくその場を後にした。


                〇


 遥が立ち去った体育館では勝負を見守っていた三人がつかさのもとに集まっていた。

「すごいよつかさちゃん! 一瞬つかさちゃん以外の時間が止まったのかと思ったよ」
「なんだよ、なんだよあれ。やっぱり只者じゃなかったんだな」
「すごいですつかささん。もはや芸術的でした。感動しました。でも結城さんもすごいんですよ」

 どれだけ褒めちぎられようがつかさは誇った様子を見せない。

「そういえば環奈ちゃん」
「なんですか、もなか先輩」
「結城さんのことは知ってたのに、つかさちゃんのことは知らなかったの」
「はい、恥ずかしながら。でもつかささんほどの実力の持ち主を見たことも噂で聞いたこともないというのは不思議な話です。つかささん、もしかして中学は県外ですか」
「そうよ」
「お、つかさは県外出身か。あたしは、そうだな。神奈川とみた!」
「うーん、東京!」

 続いてもなかが解答し、

「じゃ、じゃあわたしは、えーと、フランス!」

 環奈は投げやり気味に答えた。

「いや、ないない」

 その答えを杏ともなかが手の動きを交えて茶化す。

「わかんないじゃないですか。まあ当てずっぽうだからいいですけど」
「で、つかさ。正解は」
「アメリカ」

 ぽかんとする三人。
 環奈、杏、もなかの順に、

「U」・「S」・「A?」
「そうよ」
「アメリカ村じゃなくてですか」
「合衆国よ」
「つかさ。県外には違いないけど、そういうのは海外って言うんだよ」
「勉強になるわ」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...