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第1章2 無名の怪物
20. 昼休憩
しおりを挟む第一クォーター終了。
遥は肩で息をしていた。ただでさえ久しぶりの試合で辛いというのに高校の試合は中学より一クォーターあたり二分も長かった。
「さっこちゃん大丈夫?」
自分よりもずっと辛そうにしていたので思わず声をかけた。
「……なんとか」
二分間のインターバルはあっという間に終わった。再びコートに出る。
二クォーター制で行われた試合は31-48で御崎高校が敗れた。
以下、個人得点
PTS
舞 14
杏 6
もなか 6
つかさ 3
遥 2
早琴 0
予定通りここで昼休憩が挟まれた。
「さあつかさ、お待ちかねのお昼ごはんだぞ。頼むから次は食べ過ぎて動けないとかやめてくれよ」
岩平が冗談めかして言った。
「それは大丈夫」
言い切ったつかさだったが、次の瞬間固まって青ざめた。膝から崩れてへたり込んだ。
「おいどうした。今度はなんだ」
つかさは床に肘をついた体勢で消え入りそうな声を出した。
「おひるごはんもってきてない」
岩平はほっとした顔をした。
「なんだそんなことかよ。それならどうとでもなるから安心しろ」
「近くにコンビニもあったしね」ともなか。「なんなら私たちのお昼ごはん分けてあげるよ」
荷物を取りに更衣室へ向かう。どこで食べようかとなり、とりあえず外に出ようとなった。つかさはみんなから昼食を分けてもらうことになっていた。
部員全員で体育館を出て校内を歩いていると中庭にたどり着いた。テーブルベンチが置かれている。その内のいくつかは桜の木陰に入っていた。
「お、ここいいじゃん。ここで食べようよ」
昼食後、「そういえばさ」と杏が環奈に話しかけた。「前に遥のパスがすごいって言ってたよね」
「すごいですよ目のさめるようなと言うか普通の人には見えてないところを通す感じですよね」
「どうなんだろう」
遥は返答に困った。パスがうまいとか得意といった自覚があまりなかった。ただ、パスをするのは昔から好きだった。
「私はすごいと思いますよ。中学の大会で遥さんの試合観てて、それもボールのあるところだけじゃなくてしっかり全体を見てたのにそんなとこにパス通るんだって何回も驚いた記憶があります」
「でもそれは味方がパスコースを作ってくれたからそこを通しただけで、あれって私がすごいことになるのかな」
「普通は見落としますし、気づいてもタイミング合わないですよ」
「普通のパスの精度もすごかったんだよ」
もなかが、いかに遥のパスが受けやすく、そしてシュートに繋げやすかったかを伝える。
「でもそういう派手なのも見てみたいな。うちではやっぱりまだみんなの動きが噛み合ってないからそういうパスって出せない?」
「みんなの動きがというより高校のほうがディフェンスのプレッシャーが強いせいでまだ余裕がなくて視野も広く持てないので難しいです」
「そっか。ブランクもあるし今日の相手は強いもんね」
「まあ通ると思ったらそういうパスも含めてどんどん出してよ」杏が言った。
「わかりました」
中庭に風が吹き抜けた。桜の枝がなびいた。遥はテーブル上で揺れる陰を眺める。
「気持ちいいー」
ベンチに腰掛けたまま杏が伸びをする。
「休憩終わったらうちと東陽で試合だったよね」
「そうだよ」
もなかは答え、遥の頭に手を伸ばした。すぐに手を引くと桜の花びらをつまんで見せた。宙空で指先を離し花びらは風にのって流されていった。
体育館へ戻った遥たちは試合に備えて御崎ベンチ側のハーフコートで体を動かす。反対側のコートには東陽が入っている。
ほどなく岩平がやってきた。シューティングの途中で集合がかかった。
「食べすぎなかったか」
岩平がつかさに聞いた。
「大丈夫」
「調子はどうだ」
「絶好調よ。今なら五点くらい取れそうだわ」
「お、おう。ワンプレーでってことか?」
「もちろん」
「もちろん?」
「これなら初見の相手は一歩も動けないね」もなかが嬉々として言う。
「ああそれからさっこにも出てもらうからそのつもりでな」
試合開始まであと三分。
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