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第1章2 無名の怪物
26. 出番再び
しおりを挟む第二クォーター、開始早々つかさがシュートを沈めた。
東陽のディフェンスは引き続きハーフコートマンツー。選手も同じ。ただ、違う点もあった。
戦意喪失していたはずのつかさと杏のマークマン二人が第一クォーター開始当初のような強気の姿勢に戻っている。インターバルのわずか二分間で息を吹き返したようだった。
試合はそれから御崎が五点前後の点差を追いかける形で進んでいった。
なんとか追いすがることができていたのは一概につかさの活躍のおかげであった。
東陽も調子を取り戻したとはいえつかさを止めるのは至難のようだった。途中相手チームで最もディフェンスが得意と見られる選手がつかさにつくも結果はやはり変わらなかった。
敵に流れが傾きかけるとつかさが確実にシュートを沈め、決して相手を乗せさせない。乗り切れない相手は点数上は勝っていても精神的な余裕は中々生まれないようだった。
残り時間はまもなく六分になろうとしていた。
つかさのシュートが決まったところで東陽高校タイムアウト。
「なーんか仕掛けてきそうだな」
岩平が相手ベンチを見た。
時間をかけた攻撃から得点し、つかさが決め返した直後のタイムアウト。御崎が一気に流れをもっていくような場面でも傾きそうな場面でもなかった。
「たぶんディフェンス変えてくるだろうな。あっちからしたらオフェンスはうまくいってるから、どうにかディフェンスを修正して流れを引き込みたいだろうからな」
「それってうちにも同じことが言えますよね」
頷いた岩平と目があった。早琴はついにきたかと鼓動が速まる。
「さっこ。もうちょっとしたら出てもらうぞ」
「は、はい」
「相手は前の試合より強いけど、どんなミスしたって構わないから思いっきりやってこい」
自信のない返事をした。
岩平が苦笑した。
「なんて言われても難しいか。慣れるまではコートに入ったら敵味方でぐちゃぐちゃーっとした感じにしか見えないし相手には好きなようにさせてもらえない」
「まさにそれです」
「とはいえせっかくの練習試合なんだから、ただ出るだけじゃなくてなんか一つでもやって帰ろうか」
何か一つでも……。
「さっこ。今のさっこには何ができる」
「え。えっと」
つまりそれは、これまでの練習の成果をこの場で試せるもの。
やってみたいのはやっぱりシュートを決めること。ジャンプシュートを決められれば気持ちいいだろうが前の試合で思い知らされた。ディフェンスとの実力差が大きぎて、今のぎこちなく遅いシュートモーションではとても打たせてなんてもらえない。ドライブで相手を抜くのはもっと無理だ。あんな相手の前ではドリブルなんてできないレベルに等しい。
答えは一つしかなかった。
残念ながら成功こそしなかったが前の試合で手応えはあった。今日の試合でもっとチャレンジしたいと思った。
私にできること。
「走ることくらいです」
「そうだな。普通の初心者がこんなところに放り込まれたらできることなんてせいぜい人数合わせになるくらい。でもさっこには武器がある。さっこの足、試してみようぜ」
早琴は溌剌に返事をした。
〇
タイムアウト明け。
はたして東陽は前に三人後ろに二人の3-2ゾーンディフェンスに切り替えてきた。
遥たちはゾーンディフェンスを敷かれることを想定してタイムアウト中にどうやってゾーンを崩すかの簡単な打ち合わせをしていた。
最終的には、チームでゾーンを崩す前にまずはつかさ一人でどこまでやれるか見たいと満場一致で決定した。
「お願い、つかさちゃん」
遥はパスを送る。
つかさは対峙したディフェンスの隣の選手が寄ってくるより先に前列の一人を抜き、後列二人の間もするするっと抜けて得点した。
さすがだな。
遥は感動しながら興奮する。
以降はつかさ一人に頼らずチームでオフェンスの組み立てを試みた。
ゲーム終盤に差し掛かると東陽はオールコートプレスに切り替えてきた。激しいプレッシャーディフェンスにより御崎側のミスが続き、
25-33
この試合最大得点差をつけられたところで岩平がタイムアウトを要求した。
〇
「よしさっこ。そろそろいこうか」
残り三分五十秒。
点差は八点。
敵に流れを持っていかれた場面で早琴は呼ばれた。
「え。こんな場面でいいんですか」
バスケ経験の浅い早琴でも今がすごく大事な局面なことくらいはわかった。
「だからこそだよ」
頭の中がはてなマークで埋め尽くされる。
残り時間と点差を考えるとミスをしたくないはず。そこに一番ミスをする可能性の高い早琴を投入してもメリットは欠片もなさそうだった。
「バスケにもビギナーズラックてのがあるんだよ」
ぴんとこない。
「さっこにとってこれは練習試合だろ?」
「はい」
「それは俺も一緒で監督としての練習試合なんだよ。さっこが思いきって挑戦しようとしてるように、ここはひとつ、俺にも思いきったことやれせてくれよ」
全員で戦っているんだと早琴は思った。
理屈ではわかっていたつもりだった。監督の存在は大きくても、共に戦っているという面では希薄になりがちだった。
「でもこんな大事な場面でそんなオカルト、みんなは納得するんですか」
「鋭いな。後押しになるかもと思ったんだけどな」
岩平はたじたじとしながら苦笑した。
「もちろんオカルトな理由だけじゃない。大会とかなら否応なくこんな場面で出ないといけなくなるかもしれないんだぜ。ベンチメンバーが一人ってことは誰か一人でもアクシデントが起きたら作戦とか関係なく出ないといけなくなる」
ひどく現実的で説得力があった。
「納得してくれたか」
「行ってきます」
「おう。行ってこい」
もなかと交代し早琴はコートに入る。
「ファイト、さっこちゃん」
「かましてきます」
「どえっ!?」
チャンスは早々に訪れた。
遥のところから敵がドリブル突破を試みた。逆をつかれた遥は並走してついていく。ヘルプに寄ったつかさが横からすっと手を出し、ボールに触れた。敵だけが一歩前に進んでいた。スティールに成功した。
早速舞い込んだチャンス。しかしあまりにもいきなりで早琴は反応が遅れた。そのせいでスタートを切るのが守りに戻る敵より少し遅れた。
右サイドを駆け上がる早琴はたちまち加速していく。あっという間にディフェンスを追い抜き、前方へターゲットハンドを出そうとした瞬間だった。
身構えてしまうほど凄まじい矢のようなパスが斜め後ろから飛んできていた。キャッチしようとするがボールの勢いを受け止め切れず弾いてしまいコート外へ。
「ごめん早琴。強すぎた」とつかさ。
「ううん。今のは私のキャッチミス」
「さっこちゃん、いいよいいよ」
「ナイスランです。切り替えましょう」
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