オリンピック選手金メダリストが転生後、最高の武器屋のマスターになった

【第3話】──その刃、従順につきて猛る

鍛冶場にこだまするのは、火花とハンマーの音。
リリィの要望は明確だった。

「軽くて、でも芯があって、速く振れる剣。
剛力よりも技術に応える“従順な刃”がいい」

隼人の脳内では、十種競技の分析力がフル回転していた。

（体格は小柄、足運びが軽快、上半身の力は平均以下……だが、目の動きと反応速度が異常に速い。これは“カウンター剣士”向きだ）

素材は、炉の片隅にあった“銀鋼（ぎんこう）”という異世界金属。
鉄より軽く、魔力の通りも良いが、折れやすく扱いが難しい。だが――

「制御できれば、間違いなく最高の素材だ」

隼人は、ナイフでは使わなかった《スイングハンマー》を取り出した。
試作の段階で作った、バネ式反動吸収付きハンマー。

「跳ね返りを制御すれば、力を逃がさずに一点集中できる。
　武器づくりも、投擲と同じ“反動制御”なんだよな……！」

呼吸を整え、第一打。

カァン！

銀鋼が震えた。金属が生き物のように鳴き始める。
素材の癖を読み、熱の入りを見極め、精密に叩く。

1時間、2時間、3時間……。

リリィが静かに見守る中、隼人はただ無心に鉄と向き合った。

そして、完成の瞬間。

「……よし。名は“エアリィブレード”。風のように軽く、空気のようにしなやかな刃だ」

鞘から抜かれたその剣は、薄いが芯が通っていた。銀色に輝く刃には、魔力の流れる筋が細く刻まれている。

【武器作成：エアリィブレード（★3）】
【スキル付与：空間斬Lv1（間合い拡張）】
【称号獲得：「職人の目覚め」】

「……私のために、本当に作ってくれたんだね」

リリィが手に取り、腰を落とす。

「じゃあ……試すよ。あなたの“初めての剣”」

鍛冶場の裏にある訓練用の木人に向かって、リリィが一歩踏み込んだ。

スッ――

一瞬、風が通った。
次の瞬間、木人が五つに斬り裂かれていた。

「……斬れた……？」

「いや、間合いからして届いてなかったはず――まさか！」

リリィがステータスを確認し、驚愕する。

【スキル発動：空間斬Lv1】
【攻撃範囲が物理的距離を一瞬だけ拡張します】

「これ……この剣、私の動きに“合わせて”くれる」

「それが“従順な刃”ってやつさ。振りのタイミング、重心、呼吸……全部、剣に覚え込ませてある」

「……っ！　これが“金メダリスト鍛冶屋”の実力……！」

リリィの目が輝いた。
剣士の魂と鍛冶師の魂が、一つの剣を通して通じ合った瞬間だった。

そしてリリィは言う。

「私、あなたの最初の顧客になれて誇りに思う。……この剣と一緒に、強くなるよ」

隼人は無言で頷いた。

これはまだ始まりにすぎない。
世界は広い。素材も、戦士も、技術も、まだ未知数。

（次は、もっとすごいのを作ってみせる――！）

火は、消えない。
炎の中で、また一つ、未来の武器が生まれようとしていた。