オリンピック選手金メダリストが転生後、最高の武器屋のマスターになった

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【第4章:ゼィレア編】 第3話「開戦――灰と刃の交差点」

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東方自由都市ゼィレア。
世界武術大会、その初日。
陽が昇ると同時に、街全体が“戦い”そのものへと姿を変えた。

 

中央闘技場――《熾天の環》は、観客十万を収容する円形競技場。
白い石造りの構造物に陽光が反射し、さながら聖域のような輝きを放っている。
だが、その聖域に刻まれるのは勝者の栄光と、敗者の血だ。

 

隼人は、技術部門の控室にいた。
彼が立つのは、戦場ではない。“工房”としてのリングだ。

鋼材。炉。風送りの機構。工具。
限られた時間、限られた条件の中で、「一本の刃を鍛える」――
それが、彼に課された初戦の課題だった。

 

「ルールは単純だ。30分以内に一本の武器を完成させろ。
ただし、使用する素材は“相手と共有”され、審査員が提示する制限下で鍛えること。
今回は……**“灰鉄鋼(グレイ・スチール)”だ」」

 

――ざわっ、と観客席が揺れた。

 

「……“灰の技術”の材料、だと?」

隼人が手にした灰鉄鋼は、かつて禁忌とされた合金だった。
魂の共鳴を歪める特性があり、刃に宿った“意志”をねじ曲げる恐れがあるという。

 

「この素材は、灰の楽園が使っていた兵器群の心臓部に用いられていた。
君たち鍛冶師には、これを“どう使うか”、いや、“どう乗り越えるか”が試される」

 

隼人の対戦相手は、一人の老鍛冶師だった。
名をセラム・クライアス。
元王国工廠の長であり、灰の技術復興を掲げる“灰識派”の中心人物。

 

「我が灰鉄鋼は、人の限界を超える。
意思や感情など不要。理想の武器とは、完璧な機能を持つ“機械”だ」

 

対して、隼人は炉に火を入れながら呟いた。

「違ぇよ。刃ってのは、“誰か”のためにある。
“何のために作るのか”――そいつを忘れたら、どんな名工でもクズ鉄しか作れねぇ」

 

火は、応えるように唸りを上げた。

 

審査官の号令と共に、試合が始まる。

カン……カン……カン!

二つの工房に、それぞれ異なる音が響く。

セラムは無駄のない動きで灰鉄鋼を鍛え、刃を高速形成していく。
その手法は美しく、効率的。だが、どこか冷たい。

 

一方の隼人は、灰鉄鋼を直接火に入れず、まず周囲の不純物を研ぎ出した。
魂の波長を“受け止める器”を作るため、灰の金属に“隙”を与える処理から始めたのだ。

 

「この素材は確かに癖がある。だが、癖があるからこそ、対話ができる。
てめぇがどんなに歪んでたってな……“使う奴”がまっすぐなら、刃は正しくなる」

 

ハンマーが叫ぶ。鉄が応える。
火がうねる。風が唸る。

やがて、二人の前には一本ずつの武器が完成した。

 

セラムの武器は、まさに精密機械のような“灰の短剣”。
冷たい光を放ち、その刃は高周波振動を帯びていた。

 

対する隼人の刃は、形こそ粗いが、芯が通っていた。
鍛えたというより、“育てた”とすら言える仕上がり。
刀身は少し波打ち、刃文が柔らかく呼吸するように揺れている。

 

審査官が言う。

「それぞれ、ダミーターゲットでの実演を行う」

 

セラムの刃は、ターゲットに触れた瞬間、爆ぜるように斬り裂いた。
一瞬のうちに対象は粉砕。鋭さ、威力、すべてが完璧。

 

だが――

ターゲットの背後に立っていた助手が、衝撃波で倒れた。

 

隼人はその光景を見て、静かに首を振る。

「……それじゃあ、守れねぇんだよ」

 

隼人の番が来た。

彼は深く息を吸い、作った刃をゆっくりと振るった。
ターゲットを斬る刃筋は――まるで“風”だった。

斬られた人形は音もなく崩れ、破片も飛ばず、周囲の誰一人傷つかなかった。

 

「これは……」

「対象を傷つけ、他者を守る……理想的な斬撃だ」

審査官の顔が驚きに染まった瞬間、観客席からも拍手が起きた。

 

結果は――隼人の勝利。

 

しかし、その直後、控室に戻った隼人の前に、あの仮面の男が現れる。

「“灰鉄鋼を制した鍛冶師”か。面白ぇ。
次は、俺の“灰剣”を受けてみな――鍛冶屋」

男の瞳は、まるで剣そのものだった。

 

その名は、殺刃のヴァルト。
“灰の右腕”、そして“人を殺すためだけに鍛えられた刃”の使い手。

 

――戦いは、さらに深くなる。
技術の闘争は、やがて“魂の戦争”へと変わるのだった。
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