56 / 117
【第5章:聖都リュヴァーン編】第21話「再会と旅立ち、次なる鍛冶へ」
しおりを挟む
聖堂の鐘が、静かに、しかし確かに響き渡っていた。
それは祝福の音色。呪いの消えた聖都リュヴァーンが、新たな朝を迎えたことを告げる鐘。
朝陽が高く昇り、街路に影を伸ばす頃、聖堂前には人々が集い始めていた。
人々は目を疑った。数年にわたり封鎖されていたはずの聖域から、三人の旅人がゆっくりと歩いてきたのだ。
隼人、ヴァルト、そしてエリィ――
戦いを終えた彼らは疲弊していたが、誰もがその背に、確かな誇りを背負っていた。
「……おい、本当に呪いが……」
「見てみろ、あの空! 瘴気が消えてる……! 青空だ!」
「聖堂の灯が……戻ってる……!」
民衆の間にどよめきが起こる。安堵の声、歓喜の叫び、そして涙――。
その波が彼ら三人を包んだ瞬間、エリィの瞳からも、ひとすじの涙が零れ落ちた。
「……やっと、終わったんだね」
「ああ」ヴァルトがうなずく。「バルザの魂も、ようやく救われた」
「そして、呪いを絶ったこの剣も――俺の役目も、ひとまず終わりだ」
隼人は腰に差した“魂の剣”に触れながら呟いた。
その刀身は今やただの鋼のように沈黙している。
だが、そこに込められた魂の熱は、消えたわけではない。むしろ――これからを照らす灯火だった。
◆
王城へと招かれた隼人たちは、聖王レグニアより正式に感謝と褒賞を受けた。
隼人には「聖都鍛冶師」としての名誉称号が与えられ、特別な許可証まで授けられる。
「これがあれば、王国各地の工房に自由に立ち入り、素材収集や武器研究が許される。君には、それだけの価値がある」
レグニアの言葉に、隼人は丁重に頭を下げた。
だが、その表情に慢心はない。
「俺はただ――“本当に使える武器”を打ちたかっただけです」
「ふむ。だが、君の打った剣は、聖都すら救った。それが事実だ」
そう言って笑う王の目は、政治家ではなく、一人の剣士としての敬意を帯びていた。
◆
王城を後にし、隼人たちは、再び旅の荷を整える。
だが今回は、前とは違う。
彼らの武器袋には、戦いの痕跡と共に、希望と再起の象徴である“魂の剣”が収められている。
旅立ちを前にして、聖都の武器職人たちが隼人の元に集まった。
「マスター隼人! 俺たちの鍛冶場、あんたの手本で全部見直すことにしたよ!」
「魂を込めるって、言葉だけじゃないんですね……。あんたの剣を見て、初めてわかりました」
「次に戻ってくる時は、俺たちも“本物”を打てる職人になってますから!」
彼らの目には炎が宿っていた。
ただの職人から、何かを“継ごうとする者”へ。
それは隼人が無意識に蒔いた、鍛冶の火種だった。
エリィが微笑む。
「ねえ、少しずつだけど……変わっていってるね、この世界」
「そうだな。武器ってのは、壊すためじゃない。誰かを守るためにある」
隼人は空を仰ぐ。
そして、自らの歩む道を定めるように、ゆっくりと頷いた。
「だから俺は……次の地でも、ちゃんと武器を打つよ。“誰かのための剣”をな」
◆
翌朝。
まだ朝霧の残る街道を、三人の旅人が歩く。
隼人は背負った荷に、いくつかの素材を入れていた。
灰喰いの爪、氷精の結晶、芯鉄の塊、そして――新たに得た《聖銀鉱石》。
「この素材、次はもっと強い武器に活かせそうだな」
「……また素材集め、ですか」ヴァルトが苦笑した。
「当然。武器屋のマスターたるもの、現地調達が基本だろ?」
エリィが楽しそうに笑い、隼人の背に背負われた武器袋を撫でる。
「次は、どんな伝説が生まれるのかしらね」
その言葉に、隼人は小さく応えた。
「――まだまだ、これからだよ」
彼の旅は続く。
世界のどこかに、未だ知られぬ素材がある限り。
戦う誰かが武器を必要としている限り。
魂の鍛冶師・隼人の刃は、今日もどこかで火を噴く。
それは祝福の音色。呪いの消えた聖都リュヴァーンが、新たな朝を迎えたことを告げる鐘。
朝陽が高く昇り、街路に影を伸ばす頃、聖堂前には人々が集い始めていた。
人々は目を疑った。数年にわたり封鎖されていたはずの聖域から、三人の旅人がゆっくりと歩いてきたのだ。
隼人、ヴァルト、そしてエリィ――
戦いを終えた彼らは疲弊していたが、誰もがその背に、確かな誇りを背負っていた。
「……おい、本当に呪いが……」
「見てみろ、あの空! 瘴気が消えてる……! 青空だ!」
「聖堂の灯が……戻ってる……!」
民衆の間にどよめきが起こる。安堵の声、歓喜の叫び、そして涙――。
その波が彼ら三人を包んだ瞬間、エリィの瞳からも、ひとすじの涙が零れ落ちた。
「……やっと、終わったんだね」
「ああ」ヴァルトがうなずく。「バルザの魂も、ようやく救われた」
「そして、呪いを絶ったこの剣も――俺の役目も、ひとまず終わりだ」
隼人は腰に差した“魂の剣”に触れながら呟いた。
その刀身は今やただの鋼のように沈黙している。
だが、そこに込められた魂の熱は、消えたわけではない。むしろ――これからを照らす灯火だった。
◆
王城へと招かれた隼人たちは、聖王レグニアより正式に感謝と褒賞を受けた。
隼人には「聖都鍛冶師」としての名誉称号が与えられ、特別な許可証まで授けられる。
「これがあれば、王国各地の工房に自由に立ち入り、素材収集や武器研究が許される。君には、それだけの価値がある」
レグニアの言葉に、隼人は丁重に頭を下げた。
だが、その表情に慢心はない。
「俺はただ――“本当に使える武器”を打ちたかっただけです」
「ふむ。だが、君の打った剣は、聖都すら救った。それが事実だ」
そう言って笑う王の目は、政治家ではなく、一人の剣士としての敬意を帯びていた。
◆
王城を後にし、隼人たちは、再び旅の荷を整える。
だが今回は、前とは違う。
彼らの武器袋には、戦いの痕跡と共に、希望と再起の象徴である“魂の剣”が収められている。
旅立ちを前にして、聖都の武器職人たちが隼人の元に集まった。
「マスター隼人! 俺たちの鍛冶場、あんたの手本で全部見直すことにしたよ!」
「魂を込めるって、言葉だけじゃないんですね……。あんたの剣を見て、初めてわかりました」
「次に戻ってくる時は、俺たちも“本物”を打てる職人になってますから!」
彼らの目には炎が宿っていた。
ただの職人から、何かを“継ごうとする者”へ。
それは隼人が無意識に蒔いた、鍛冶の火種だった。
エリィが微笑む。
「ねえ、少しずつだけど……変わっていってるね、この世界」
「そうだな。武器ってのは、壊すためじゃない。誰かを守るためにある」
隼人は空を仰ぐ。
そして、自らの歩む道を定めるように、ゆっくりと頷いた。
「だから俺は……次の地でも、ちゃんと武器を打つよ。“誰かのための剣”をな」
◆
翌朝。
まだ朝霧の残る街道を、三人の旅人が歩く。
隼人は背負った荷に、いくつかの素材を入れていた。
灰喰いの爪、氷精の結晶、芯鉄の塊、そして――新たに得た《聖銀鉱石》。
「この素材、次はもっと強い武器に活かせそうだな」
「……また素材集め、ですか」ヴァルトが苦笑した。
「当然。武器屋のマスターたるもの、現地調達が基本だろ?」
エリィが楽しそうに笑い、隼人の背に背負われた武器袋を撫でる。
「次は、どんな伝説が生まれるのかしらね」
その言葉に、隼人は小さく応えた。
「――まだまだ、これからだよ」
彼の旅は続く。
世界のどこかに、未だ知られぬ素材がある限り。
戦う誰かが武器を必要としている限り。
魂の鍛冶師・隼人の刃は、今日もどこかで火を噴く。
0
あなたにおすすめの小説
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。
大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。
そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。
しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。
戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。
「面白いじゃん?」
アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった
黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった!
辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。
一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。
追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる