オリンピック選手金メダリストが転生後、最高の武器屋のマスターになった

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【第6章:鋼竜と忘却の工房】 第12話「第零の炉と、鋼竜の心臓」

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 《忘却の工房》の奥深く、かつて誰も足を踏み入れたことのない禁域へと続く階段が、機械仕掛けの音と共に現れた。空気は重く、どこか鉛のような気配をまとっている。

 「ここが……《第零の炉》へ向かう道か」

 隼人は《レクイエム》を背に収め、静かに足を踏み出す。その後ろを、ミィナとリセル、そしてイラリアがついていく。階段は石造りではなく、黒鉄と蒼金で組まれた鋼の回廊だった。

 「この階層は、本来なら私ですら立ち入ることはできなかった……。けれど、あなたが炉を再起動させた今、すべての制御は解放されたのです」

 イラリアは語る。まるでその記憶をなぞるように、慎重に、しかし迷いなく。

 「《第零の炉》には、“鋼竜”を造った技術が遺されています。それはかつて、神々に等しい力を持つ存在を“人の手”で模倣しようとした禁術。その核――“竜の心臓”が、いまだ眠っているのです」

 「つまり、そいつが……本物の鋼竜ってことか?」

 ミィナの問いに、イラリアは小さく首を振った。

 「いいえ、“本物”ではありません。けれど、願いと祈りが形を成し、金属の竜が自我を持ったのです。心臓に宿された想いは……いまだ生きている」

 やがて階段の先に、巨大な扉が姿を現した。まるで要塞の一部のような、幾重にも重なった鋼の障壁。中心には詩文具の記号と、禍々しい刻印が浮かび上がっている。

 「これが……」

 リセルが呟く。

 「第零の炉の封印。誰かの“命”でしか開けられない……ってことはないよね?」

 「命ではなく、“願い”です」
 イラリアが扉へと歩み寄る。そして、手のひらをそっと添えると、柔らかな声で詩を紡ぎ始めた。

 「――いかなる鋼も、心なきものに熱を与えず。
   されど願いに火が宿るとき、鋼は魂を持つ」

 詩が終わると共に、封印が軋みをあげて解かれ、扉がゆっくりと開いた。

 その先に広がっていたのは、巨大な球体炉――《第零の炉》と呼ばれる超高密度の機構空間。中心には脈動する心臓のような赤黒い塊が浮かび、重厚な鎖で天井と床に繋がれている。

 「これが……鋼竜の心臓……」

 隼人は無意識に《レクイエム》を手に取った。刃が震えている。まるで目の前にある存在に共鳴しているかのように。

 「近づいちゃダメ!」

 突然、イラリアが叫んだ。

 「その心臓は、感情を喰らいます。強すぎる意志、激しすぎる願い……それを糧に、再起動する可能性があるのです!」

 だが、遅かった。
 隼人の胸にあるもの――それは、ただの鍛冶への執着ではなかった。
 彼は、命を刃に変える男。死を超えて尚、鍛冶という願いを貫こうとする“金メダリストの執念”そのものだった。

 赤黒い心臓が、動いた。
 ボン、と脈動し、そこから鋼の鱗がこぼれ落ちる。

 「来るぞ――!!」

 工房が揺れた。
 炉の中心から、巨大な竜の姿が形成されていく。鱗は刃のように鋭く、翼は鋼鉄の羽ばたきで風を切り裂く。
 そしてその眼が、隼人たちを映した瞬間――咆哮が轟いた。

 「この地は……かつて私が守った“技術”の楽園。だが、願いはねじれ、希望は災厄と化した。
 問おう、人よ――貴様らの刃に、“願い”はあるか?」

 言葉を放つ竜。その存在はもはや生物ではなかった。人の技術と感情、そして破滅の集合体。

 「……あるさ」

 隼人が一歩前へ出た。

 「俺の刃は、誰かの命を守るためにある。破壊のためじゃない。
 お前が滅びを刻んだというなら――その歴史ごと、俺が超えてみせる」

 鋼竜の赤い目が細められる。次の瞬間、咆哮と共に鋼の爪が飛来した。

 「リセル!ミィナ!下がってろ!」

 隼人は跳躍し、《レクイエム》を抜く。その刃が空気を裂き、鋼の爪を受け止め――火花が散る。

 「これが……俺の答えだ!!」

 再び、刃と鋼が交錯する。
 炉に響くのは、古き誓いの詩と、新たな鍛冶師の鼓動。

 そして戦いは、ついに始まった。
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