オリンピック選手金メダリストが転生後、最高の武器屋のマスターになった

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第6章:鋼竜と忘却の工房 第15話「灰と鋼の再生」

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 夜が明けた。だが、地下の工房に陽光は届かない。代わりに、隼人の《打音》が工房全体を照らしていた。

 《カン……カン……カァン……》

 炎が炉の奥でゆらめき、熱気が工房の空気を揺らす。その中で隼人は黙々と打ち続けた。打撃の一つ一つに、己の経験、誇り、そして――この世界で受け取った「願い」を宿らせるように。

 破砕したレクイエムの断片。
 鋼竜の“核”。
 そして古代工房に眠っていた鍛造魂・ヴァルカの“遺志”。

 すべてが混じり合い、新たな刃として再構築されていく。

 隼人の額には玉のような汗が浮かび、両腕の筋が浮き上がっていた。だが、彼の目には一切の迷いがなかった。打ち続ける。生まれ変わるまで。

 「――ッ、あと少し……!」

 最後の一打を振り下ろす。

 炉の火が爆ぜた瞬間、銀白の光が炉から放たれ、工房全体を照らし出した。

 そして。

 隼人の前に、一本の刃が静かに横たわった。

 それは既に《武器》ではなかった。

 ――それは“祈り”の具現。

 刃身には“古鋼文字”が自然と浮かび上がっており、それは「契」と「継」の二文字を刻んでいた。

 「……こいつが、俺の“答え”だ」

 隼人は静かにそれを鞘に収めた。かつてのレクイエムとは異なる佇まい。だが、宿る想いは一つとして変わっていなかった。

 工房の奥で見守っていたイラリアが、深く頭を下げた。

 「……これで、“炉”は救われました。あなたの打音が、この工房を目覚めさせ、ヴァルカの想いを昇華させたのです」

 リセルもミィナも、言葉を飲み込んだまま、ただ静かに頷いた。

 「ようやく、一区切りってところか……」

 そう隼人が言いかけたときだった。

 ――ギィィ……。

 工房の入り口の扉が軋みを上げて開いた。

 現れたのは、一人の少女だった。
 ぼろ布をまとい、肩に錆びた金属のパーツを背負い、瞳は夜のような深い紺。彼女は一歩、また一歩と慎重に進みながら、隼人たちの前に姿を現した。

 「……あなたが、《炉の継承者》?」

 その声は、鈴のように透き通っていたが、どこか古めかしく、機械の軋みのような不思議な響きを帯びていた。

 隼人は思わず眉をひそめる。

 「……誰だ、あんた?」

 少女は胸に手を当てて名乗った。

 「わたしの名前は――《カスミ》。わたしは、“記録保守機構”に属する最後の観測者です」

 「記録保守機構……?」

 「忘却の工房に残された記憶、思想、設計、そして――《継承されなかった技術》を管理するための存在。かつて、この工房が封じられたとき、わたしはここに“置かれた”の」

 その姿は人間に見えたが、近づいて見れば、耳の裏や鎖骨には小さな魔導刻印が走っている。
 完全な人間ではない。だが、目に宿る光はまぎれもなく“想い”を知る者のものだった。

 イラリアがそっと囁く。

 「……伝承にあったわ。《忘却炉の番人》。彼女は……人工記憶媒体を核にした、“思考型人造体”。いわば、生きたアーカイブ」

 カスミはゆっくりと隼人の前に跪いた。

 「あなたの“打音”が、炉を蘇らせました。だから、わたしは目覚めたのです。――お願いします。わたしを、あなたの武器作りに加えてください」

 「……加わる?」

 「設計、記録、失われた鋼の性質、精錬条件。すべて記憶しています。あなたの《打音》に、それらを提供したい」

 そう言って、カスミは錆びた背中のパーツを外し、中から淡い光を帯びた設計板を差し出した。

 そこには、「未完成武器設計図」と記されていた。

 「これは、“未来にしか打てない刃”――すなわち《祈刃(きとう)》です。……あなたなら、きっとこの刃を完成させられる」

 隼人はその設計図を見つめた。そして――静かに頷いた。

 「……なら、頼むぜ。カスミ。お前の記憶、俺の“打音”で形にしてやるよ」

 新たな仲間が加わり、忘却の工房は新たな“再生”へと歩み出す。

 かつての鋼竜の怒りは鎮まり、炉には静かな火が灯り続けていた。

 それは、未来を打ち出す者たちのための“灯火”だった。
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