オリンピック選手金メダリストが転生後、最高の武器屋のマスターになった

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第6章:鋼竜と忘却の工房 第17話「願いの刃、黒影と交わるとき」

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 空気が裂けた。

 《灰刻の刃(アッシュブランド)》が振るった双剣が、虚空を裂き、隼人の眼前に迫る。両の剣はまるで命を持つ獣のようにねじれ、唸り、鋼の風を巻き起こしていた。

 「……こいつ、剣が……うねってやがる……!」

 隼人は咄嗟に後退しながら、背中の《新生レクイエム》を引き抜いた。霊銀の刃身に、工房の炉から湧き上がる熱が宿り、燐光のように淡く輝く。

 「カスミ! こいつ、なんの技術だ?」

 「解明不可能。断片的に失われた時代の《混合炉式》。霊機、魂素、そして機械魔術の混合。今じゃ再現不能よ!」

 「やっぱり、厄介なモンばっか使ってやがるな……!」

 ――衝突。

 新生レクイエムがアッシュブランドの双剣を弾く。だが、弾いた瞬間、双剣の一振りが不規則に“曲がり”、真横から刃が襲い掛かった。

 「っ……!? ――重力、歪めてやがるのか!」

 鋼が悲鳴を上げ、隼人の脇腹を浅く裂いた。

 アッシュブランドは、感情を一切含まない声で言った。

 「願いでは技術に勝てないと……まだ理解しないのか?」

 「うるせぇな……理解する気もねぇよ」

 隼人は血をぬぐい、口元を引き締めた。

 「願いで出来た武器が、どれだけ強いか教えてやる。俺はな……この世界で、“誰かのために打つ”って決めたんだよ」

 その言葉に、工房の奥で祈刃の設計板が共鳴するように光を放つ。

 その光を浴びながら、隼人は再び踏み込んだ。

 ――全力の一撃。

 新生レクイエムの刃が、アッシュブランドの右手を狙う。その軌道を見切っていたように、男の左手の剣が逆方向から迫るが――

 「……読んでたよ、そっちもな!」

 隼人は一瞬の踏み込みをキャンセルし、逆に後方宙返りするように跳ねた。虚を突かれたアッシュブランドが初めて眉をひそめた。

 「剣戟の間合いの外へ? ……それでは勝てない」

 「そうでもねぇよ」

 隼人の背後で、祈刃の設計板が音を立て、空中に魔術式の円環を展開した。

 カスミが叫ぶ。

 「今、レクイエムに祈刃の《想いの因子》を流し込む! 受け止めて、隼人!」

 「任せた、カスミ!」

 円環がレクイエムへと注がれ、刃が鈍く共鳴した。

 ――変化が始まる。

 新生レクイエムの刃身が淡く光を帯び、まるで精霊のような紋様が浮かび上がる。鉄と祈りが融合する刹那、隼人はその“新しい刃”を振るった。

 「――これが、《願いを宿した刃》だッ!!」

 爆ぜる斬撃。地を割り、空気を切り裂き、アッシュブランドの双剣を吹き飛ばすほどの力。

 男は一瞬だけ身体をひねり、斬撃をいなしつつ距離を取ったが、その顔にかすかな驚愕が浮かんでいた。

 「……これは……魂の共鳴……? いや、“炉”を通して、刃に宿した……想いの具現化……? ありえない、これは旧時代の理論だ。存在しないはずの鍛造法だ……!」

 「存在してるさ。俺の“ここ”にな!」

 隼人が胸を叩く。

 「お前が否定した“感情”や“願い”が、今こうして形になってる。それを壊すってんなら――俺は、全身で否定してやるよ!」

 アッシュブランドは、沈黙のまま構え直す。

 「……ならば、次は少し本気で行こう」

 そう言って、男の背中の双剣が形を変える。《双剣》から《鎌》へ。そして――《斧剣》へ。まるで武器自体が“変形”していく。

 「……可変武装!? 一つの核を中心に、四種の戦闘形態に変化するって……」

 「こいつ……まだ“本気”じゃなかったのかよ……!」

 緊張が再び工房を包む。

 そのとき。

 「待って!」

 鋭い声が飛んだ。

 工房の崩れた壁の向こうから、ひとりの少女が飛び込んでくる。白銀の髪、淡い蒼の瞳。小柄な体に軽装の旅装束。背中には、錬金印が刻まれた道具箱を背負っている。

 「その刃は――《神代図録》に記録された“古の兵装”……お願い、壊さないで!」

 アッシュブランドが目を細めた。

 「……“遺失技術探索者”か」

 少女は隼人の側に走り寄り、名乗った。

 「わたしは《フィリア・エルトリーネ》。忘却技術の研究をしている探究者。あなたが隼人さんですね……」

 隼人は呆気に取られながら頷いた。

 「なんでお前が……」

 「“あなたの工房に、失われた技術の火が灯った”って、噂を聞いたんです! わたし……祈刃の技術を、この時代に残したい!」

 新たなる火が、忘却の工房に灯る。

 そして、戦いは次の段階へ――。
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