オリンピック選手金メダリストが転生後、最高の武器屋のマスターになった

【第7章：黎明の大地と神代の決戦】 第4話「虚空機関、侵蝕されし中枢」

　鋼と魔法が融合した街――浮島〈ヴァル・ノクス〉の最深部へ、隼人たちは突き進んでいた。

　その足元を駆け抜けるのは、かつて神代の魔導士たちが設計した空間転移のためのレール網――だが今、それは侵食され、禍々しい黒い蔦のような“異質の魔素”に覆われていた。

　

　「……この魔力……間違いない、“灰の楽園”の魔道因子よ！」

　フィリアが叫んだ。

　「この空の上にまで、奴らは手を伸ばしていたのか……！」

　隼人の剣先がきらめき、通路を塞いでいた魔導障壁を一閃で破壊する。

　

　するとその先、広大な円形ホールが姿を現した。

　中央には、浮遊する巨大な魔法球――それがこの浮島を維持する動力核、《虚空機関》である。

　だがその核の一部が、紫黒の瘴気に包まれていた。根を張るように広がる魔力の結晶、そして――

　

　「……人？」

　カスミが一歩前へ出た。

　虚空機関の前に浮かぶ、透明な魔法球体の中――そこに、眠るように横たわる“少女”の姿があった。

　銀の髪に、白い衣。額には神代紋が刻まれ、その身からは微弱ながらも膨大な魔力が放出されている。

　

　「これは……“神の器”！」

　リリシアが呻くように言った。

　「神代末期、空を統御するために創られた存在……。浮島を支える“意志そのもの”よ。まさか、まだ生きているなんて……！」

　

　そのとき、周囲の空間が揺れた。

　浮島の機関部全体が悲鳴を上げるように振動し、闇の中から重く響く声がこだました。

　

　《――目覚めろ、白き器よ。我らは“終焉”を望む》

　

　虚空から現れたのは、長身で黒衣をまとった異形の男。
　顔を覆う仮面の奥には、瘴気に濁った瞳が輝いていた。

　

　「貴様は……“灰の楽園”幹部か！」

　隼人が剣を構えると同時に、リリシアの表情が凍りつく。

　

　「その姿……まさか……《オルト・エグゼア》……！」

　

　《オルト・エグゼア》――かつてヴァル・ノクスで魔導機構の研究主任を務めていた科学者にして、神代の技術を悪用し“終末兵器”を目論んだ男。その男が、今もこうして生きていたのだ。

　

　「器を奪い、虚空機関を暴走させ、浮島ごと世界に墜とす……それが、貴様らの狙いか！」

　

　隼人の問いに、オルトはただ一言、こう告げた。

　「“選ばれし者”だけが、この世界を再構築する資格を持つ。不要な地上も、歴史も、全て滅ぶがいい――」

　

　その瞬間、魔法球が脈動し、白き器の少女がうっすらと目を開けた。

　

　「やめて……わたしは……落としたくない……空を……」

　

　その声は、祈りにも似た響きだった。
　だが同時に、虚空機関は臨界に近づき、浮島全体が震え始める。

　

　「隼人さん！　器と機関を分離しないと、島ごと爆発します！」

　「だったら――斬るしかねぇ！」

　

　隼人は《蒼宙の祈刃》を抜いた。

　リリシアとフィリアが魔力の封印陣を構築し、カスミが周囲の敵性因子を斬り払いながら進む。

　

　「俺は――この空を守る。鍛冶師だろうが、戦士だろうが関係ねぇ。これは、俺の意志だ！！」

　

　そして、刃が振り下ろされた。

　蒼き祈りが、空の悲鳴を断ち切った。