オリンピック選手金メダリストが転生後、最高の武器屋のマスターになった

第9章：光なき剣、暁の終わり 第4話「焔の塔、揺らぐ刻」

鋼鉄の咆哮が響く焔の塔の最上階。炎の渦が天を焦がし、地上に災厄の予兆を投げかけるなか、メルは剣を握り締めて一歩ずつ進んでいた。彼の心臓は激しく鼓動し、喉の奥は乾ききっていたが、その目には決して揺るがぬ意志が宿っていた。

「ここが、あの“願いと呪い”が交錯する場所か……」

隼人が背後から声をかける。彼の肩にはメルの命を守るために作られた新型の軽鎧が光を反射し、戦士の覚悟を示していた。

「油断するな。敵は見えないところから襲ってくる。ここは黒の鍛冶師の要塞、罠と魔法があふれている」

リリスも冷静な視線で周囲を警戒しながら呪文の詠唱を始める。彼女の手のひらから淡い青光が放たれ、魔法陣が地面に浮かび上がった。

「魔力の反応はまだ収まっていない。塔の炉が完成するまで時間はあとわずかよ」

メルは剣の柄を強く握り、深く息をついた。彼の中にはかつてオリンピックで鍛えた強靭な精神があり、何度も困難を乗り越えてきた自負があった。だが、この異世界での戦いは、その比ではなかった。

「再生の刃が完成したら、世界はどうなる？願いが叶うなら……俺は何を望む？」

彼の頭にふと幼い頃の夢がよぎった。誰かのために強くなりたい。自分の手で未来を切り開きたい。その思いが今ここで試されている。

「願いは強く、呪いは深い。君が抱える葛藤も同じだろう」

リェンが静かに隣に立った。彼女の瞳は揺らめく火の光を映しながら、メルの心を見透かすようだった。

「でも、それでも君は選ばなければならない。願いの刃か、呪いの鎖か――どちらに導くかは君次第だ」

突然、足元の石板が崩れ、鋼の鎧をまとった幻影が現れた。その姿は黒き鍛冶師の象徴、かつての宿敵を彷彿とさせた。無数の刀剣が彼の周囲に浮かび、炎の如く煌めいている。

「覚悟はできているか、鍛冶師の後継者よ」

メルは剣を抜き、心の底から叫んだ。

「俺はこの世界を、そしてこの刃を鍛え直す！どんな呪いも、俺の手で断ち切ってみせる！」

二人の刃が交わり、焔の塔はさらなる激動の渦へと巻き込まれていった。だが、その戦いの果てに見えるものは、誰にもまだわからなかった。