【完結】君と恋を

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その後の二人

小話 1

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 どうしてこんなことに。

 そう一年前と全く同じ台詞を頭のなかに浮かべ項垂れる裕は、ロッカーの中に下げられている可愛らしいセーラー服を青白い顔で眺め、それから、バタン。と一度扉を閉めた。


 ……はぁ~~。

 深いため息が口から漏れるのも構わず隣をちらりと見れば、嬉々としてバニーガールの服に身を包み、ふんふんと音程の取れていない鼻歌を口ずさみながらノリノリで金髪ウェーブのカツラを被っている誠也が居て。裕はその禍々しさにオエッと吐き気を催してしまい、咄嗟に口を手で覆った。

「あらやだ、せいこ可愛いじゃなぁ~い」

 不意に後ろから気色の悪い裏返った声がする。
 それに裕も振り向けば、こちらもまたノリノリでタイトな婦警さんスタイルをしている石やんが居た。
 無駄にニセチチのクオリティが高い上半身と、ピチッとしたスカートは膝より上で、顔さえ見なければなかなかに色っぽいその姿がなんだか余計に気持ちが悪く、それにしてもガニ股すぎんだろ。と裕は心のなかで突っ込みを入れてしまった。

「わ~!石ちゃんもイケてるじゃなぁい!」
「うっそ~! や~んうれピーナッツ!」

 気色の悪い声を出し、謎のあだ名で呼び合う二人は何故かずっとくねくねしていて。けれどそんな地獄絵図が至る所で繰り広げられており、今日は月に一度開かれる変わった服を着て接客をする日故の惨劇に、裕は目元に指をあて、やはり項垂れた。


 月一のこのイベントは、普段も私服だったり和服だったりと、バラエティに富んでいる。

 しかし、なぜ今回は女装なんだ。と顔を青ざめさせる裕は、提案者であるくせにここには居ない蓮を心のなかで呪った。
 ていうかナンバーツーがこんな書き入れ時に休みってあるか普通! と蓮の運の強さ(最近お陰様で繁盛し、そのせいで皆連日働きづめだったので勝った奴は今度の月一企画の日に休んでもいいというじゃんけん大会がホスト全員で一週間前行われ、見事優勝した蓮は休みをもぎ取ったのだ)に謎の悔しさを抱えたまま、もう逃げられない。と裕が自身のロッカーを徐にもう一度開ける。
 そこにはやはり可愛らしい夏服のセーラーが掛けられており、その紺色の襟が特徴的な白いトップスと、それからプリーツが綺麗に広がるスカートを見つめては、裕はまたしても盛大な溜め息を吐いてしまった。


 ……ていうか内勤は別に女装しなくても良いだろ。

 そう未だぐちぐちと愚痴を溢しつつ、ちらりと壁に掛けてある時計を見やればオープンまでの時間はあと僅かで。
 はぁ。と今一度重苦しい息を吐いた裕はそれから、ええいもうヤケクソだ。とそのセーラー服に手を伸ばしたのだった。




 ***



「いらっしゃいませ」
「わ、あはは、ゆう君セーラー服なんだ!? 可愛い~!」

 常連のお客様を席へと案内しようとすればすぐさまそう笑われ、今日何度目か分からぬその言葉にピキッと青筋を立てながら、そうなんですよ。と愛想笑いをする裕。
 それから、こちらのお席です。と歩き出せばやはり股がスースーとする感覚がし、ご丁寧に置かれていた黒のハイソックスと焦げ茶色のローファーを纏いながら歩く裕は、けれどもヒールではなくて良かった。と心から感謝した。

 あちこちで、ヒールを履かされているスタッフからあがる、いってぇ! という野太い声。
 へっぴり腰でヨロヨロと歩きながら爪先が潰れる痛さに呻いたりゴキッと足を挫いたりしている姿が目に映り、南無。と心のなかで合掌する裕とは裏腹に、お客様は心底楽しそうに笑って見ていて、誰が喜ぶんだこんなの。と思っていた裕の予想は大いに裏切られる結果となっていた。




 きらびやかな照明が反射する床は美しく、しかし流れるBGMさえ掻き消すほど、

「やぁ~ん! ありがとう!」

 と一際歓声が沸くのは、勿論バニーガールの格好をしている誠也の席で、際どい水着のラインと網タイツの隙間にお札が捻り込まれている。
 それはさながら本物のバニーガールのようで、盛り上がる店内の賑やかで異質な空間を横目にそっと抜け出した裕は、深い溜め息を吐いてしまった。

「着替えたい……」

 ぼそりと呟きながらバックヤードにある酒の在庫を確認していれば、新人のスタッフが入ってきては裕に気がついたのか、ぺこりと頭を下げてくる。

「裕さん、お疲れ様っす」
「お~、お疲れ様」

 入れ替わりが激しいホスト業界で、しかしこの店は誠也のお陰なのかあまり人が辞めるという事はなく。けれども卒業していく人は勿論居て、その代わりにと、入ってまだ一ヶ月ほどの新人に軽い挨拶を返した裕は、手に持っているリストを見つめては足りない酒がないかチェックしていく。
 その横を通りすぎるかと思っていたが、なぜかその新人はただじっと後ろに立っており、

「ん? どうした?」

 なんて振り向き声を掛ければ、あ、いえ、なんて言葉を濁した自分よりも背が高い新人を見上げ、いや、なんかあんだろ。何だよ。と裕は促した裕。

「……いや、裕さんって、思ったより小さいんだなぁなんて思って、」

 裕の眼差しに、ポリポリと頬を掻きながら失礼すぎる言葉を吐く、新人。
 それに裕は、はぁ? と眉間に皺を寄せた。


 百七十は越えており小さいなどと言われるほど低い身長ではなく、嫌味かよ。と裕が不機嫌なオーラを出し始めたが、しかしそんな裕の態度に気付いていないのか、

「しかもセーラー服着てるとなんか、凄いエロくさいっす。俺今まで裕さんの事ちょっと怖そうな人って思って近付かないようにしてたんすけど、良く見たら顔も綺麗なんすね」

 なんてベラベラと喋り出す新人に、裕は顔をしかめたまま、ふざけんなよ。と腹にパンチを入れた。


「くだらねぇ事言ってねぇで早く一つでも良いから酒の銘柄覚える努力ぐらいしろ、ボケ」

 そう放たれた辛辣な台詞と、中々の強さでめり込んだ拳に体を折り、ケホッとよろけた新人。
 そのせいで目線が下になり、す、すみません……。と涙目で謝るその新人にふんと鼻を鳴らし、しかしそれから裕は笑った。

「それにしてもお前、まじで女装似合わねぇなぁ。それでナースのつもりかよ。そりゃあまだ俺の方が綺麗に見えるわな、ははっ」

 先程までのつっけんどんな態度とはうって変わって屈託のない笑顔を見せる裕に一瞬呆け、新人がゴクンと唾を飲み込んだ、その瞬間。

「何やってんの二人とも! こんなとこで油売ってないでホール出て!」

 だなんてやってきた女教師こと有人にドヤされ、裕はその似合わなさにぶはっと吹き出しつつ、はいはい。とフロアに出ていった。


 そして、残された新人も慌てて戻ろうとしたが、

「裕はだめだぞ~。裕に関してならなんでもしちゃうようなクソ重い恋人が居るからな~」

 と有人が釘を刺す。
 それから、まぁいずれそれが誰なのかすぐ分かると思うけど。と怪しく笑うので、新人はその言葉に背筋を凍らせ、「い、いや、別に俺は……」なんてしどろもどろになりながら、フロアに出ていった。

 その後ろ姿を見つめ、最近の裕のフェロモンの駄々漏れ具合はなんとかならないもんか。と頭を悩ませた有人は、蓮が女装を提案したのは絶対裕のこの姿が見たかったからだというのに強運というかこの時ばかりは悪運だとでも言うのかじゃんけん大会で優勝してしまった、今ここに居ない蓮に、もう少し色々と抑えてくれんかねあのバカップルは。と心のなかで毒づいたのだった。




 
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