【完結】君と恋を

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君と恋を~誠也とカイの話~

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「っ、なに、やってんだよお前は! 死にてぇのか馬鹿やろう!」

 息をあげながらそう怒鳴り、寝そべっている誠也にバサリと手にしていたコートを投げつけるカイ。
 そうすれば、へぁっ!? なんて間抜けな声が上がり、モゾモゾと蠢いたあと絡まるコートから顔を出した誠也が、ゆっくりと上体を起こし、カイを見た。


「……カイさんだぁ」

 寝ぼけ眼な誠也の瞳が、初めて出会ったあの日と同じよう、ふにゃりと弛む。

 それから弾んだ声で呟き本当に嬉しそうに誠也が笑ったので、カイは思わず、ぐしゃりと唇をひしゃげてしまった。


 ずっとずっと、もう長いこと真正面から見たことがなかった、誠也の笑顔。
 その笑顔が眩しくて優しくて、どうしようもなく愛しくなったカイはへたりと座り込み、ひくっと喉を鳴らした。

「……なん、で、……」

 絞り出した声はひどく掠れていて、なんとも情けなく。年甲斐にもなく泣きそうになるのを必死に堪え、項垂れるカイ。
 そんなカイに体調が悪いのかと思ったのか、

「カイさん? どうしたの?」

 と心配げに誠也がカイの腕を掴み、覗き込む。
 その声もその眼差しも触れてくれる指の強さも優しくて、ヒュッヒュッと喉を鳴らしながら、……ああ、もうだめだ。とカイはとうとう堪えきれず、ボタボタと涙を流してしまった。


「カ、カイさん!? え、え!? あ、う、カ、カイさ、」

 突然火の如く泣き出したカイに、ナンバーワンホストらしからぬ本気の戸惑いで、何一つ上手い言葉を掛けられないまま、誠也がおろおろとしだす。
 そんな姿ですら優しくて愛しくて、自身の奥底に必死に沈め絶対に開かないようにと何重にも鎖を巻き鍵を掛け続けていた想いが、鍵穴自体からぶっ壊され溢れてしまった。とカイは情けなさと誠也への恋心と、もう良く分からない感情でいっぱいいっぱいのまま、ズズズッと鼻を啜った。

「……ごめ、ん、せいや、ごめ、ひっく、おれ、ぅ、……ごめ、」

 そうみっともなくしゃくりあげながら、カイが言葉を必死に紡ぐ。
 そんなカイにやはりおろおろとしたまま、誠也もなぜか泣きそうな顔をした。

「なんでごめんなの? カイさん、泣かないで……」

 カイの肩や腕を擦り、泣かないで。と慰めてくる誠也の、ずっと外に居たせいで未だに冷たい指先の感触が服越しからでも伝わり、カイはやはりボロボロと泣きながら、ただひたすらにごめんと繰り返した。



 ──寒空の、早朝。
 大の男二人がゴミ捨て場に踞り、一人は泣いて一人は頼りなげにおろおろとしているという、どこからどう見てもカオスでしかない空間が広がっている。
 しかしそんな事などもう気にしていられないカイはひたすらにごめんと謝りながら、涙で濡れた瞳で誠也を見た。


「おれ、お前にひどいことたくさんしてきた……。ゆうにも、みんなにも、あやまる資格すらねぇのに、でも、ごめんしか言えなくて、ごめん……」

 大分落ち着いてきたのか、ひっくひっくと喉を鳴らしながらも、カイがそう溢す。
 ……謝って済む問題ではない事も分かっている。ましてや謝るだなんて、許してほしいなんていうただの加害者のエゴだ。そう頭では分かっているというのに、それ以外の言葉が出る筈もない。と俯きずびずびと鼻を啜るカイに、誠也は一度ぱちりと瞬きをしては、破顔した。

「……なんだぁ……、びっくりした……。そんな事で泣かないでよカイさん。最初から誰も、裕も蓮も、皆もカイさんの事恨んですらないよ。そりゃあ蓮はあの時物凄い剣幕で怒ってたけど、あいつだってやり過ぎたって反省してたし。だからねカイさん、謝る必要なんてないの。それに、謝るのに資格だとかなんだとか、そんなの要らないよ」

 その困ったような笑顔がどこまでも優しくて、……こいつは本当にどこまで……。とカイがきつく拳を握り締め、またしても小さく鼻を啜る。
 そんなカイにふっと柔らかく笑ったかと思うと、

「……でもやっぱりカイさん変わってないなぁ。優しくて、変な所不器用で考えすぎちゃう、俺が好きになったカイさんのまんまだ」

 なんて、誠也はひどく嬉しそうに、へへっと歯を見せた。



 その誠也の言葉に俯いたまま、……は? と固まったカイ。
 しかしそんなカイの様子など気付かない誠也は一度腕を上にあげ、体が痛い。と伸びをし、それからまたしても笑った。

「でも、久しぶりにちゃんと顔見て話せて良かったぁ。カイさんが普通に俺と会ってはくれなさそうだなって始めから長期戦覚悟してたから、こんな早く話せてラッキー」
「っ、」
「……突然来てごめんねカイさん。迷惑だって分かってるから、もう追いかけるのやめようと思ってたけど、でもカイさんがホスト辞めたって有さんから聞いて、居ても経ってもいられなくなっちゃって。……それにまだ俺、カイさんに好きだって、大好きなんですって伝えてなかったから、どうしても気持ちだけは伝えたくて。今このタイミング逃すと一生会えなさそうだと思ってさ」

 そう言いながら、カイさん何考えてるかちょっと良く分かんないから、ふらっとどっか消えちゃいそうだし。と頬を掻いた誠也が、

「……ねぇカイさん。ごめんは要らないけど、どうして俺を避けるようになったのかだけ教えてくれませんか? 」

 だなんてカイに詰め寄ったので、カイはヒュッと息を飲み、突然の事ばかりでオーバーヒートしてしまった頭のまま、ぼんやりと誠也の顔を見つめ返した。




 
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