桃太郎

そーた

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桃太郎の仲間達

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「ほ、本当に一人だッ。」
「本当にたった一人で乗り込んできやがった!」

親玉の後ろには沢山の鬼達が控えており、桃太郎の圧倒的な強さにざわめき立っています。

「おいおい。四人なんだけどなぁ…。」

桃太郎がやれやれと首を振ると他の三匹は、
まあ、実際桃太郎さんが一人で暴れてるようなもんだしと言って半ば諦めています。


「……間違うはずもない。
やはり、太郎だったか。」


親玉はそう小さく呟くと、
どこか嬉しそうな、悲しそうな、申し訳なさそうな…
その表情は何とも形容し難く…

「太郎?ま、まさかあなたは…」

目の前で腰を抜かした鬼が、何故だか目を丸くしました。

「…いや、太郎よ。まずはどうかその刀を下ろしてはくれぬか!」



「………。」



親玉の言葉を受けて、桃太郎は振りかざしたままだった刀を…

下ろしました。

そのまま。


鬼の頭に。


「………ッ!?」


その場にいる全員が言葉を失い、
静寂の中、そんな中をーーー

鬼の頭から咲く華の音だけが
やけにはっきりと聞こえました。

吹き出す返り血を全身に浴びた桃太郎は、
平然と、こう言い放ちます。

「言われた通り、刀を下ろした。
あと、太郎ではない。〝桃〟太郎だ。間違えるな。」

桃太郎のその行動に、恐怖を感じる者、怒りに震える者、その場にいる全ての鬼達がそれぞれの反応を示します。

「………。」

親玉はそんな鬼達を制し、桃太郎の方へ一歩近づきました。

桃太郎がこちらに向ける敵意を受けて、
やはり…覚えてないか。と諦めた様子で呟くと、
静かに一言。

その表情には…


「お前は…私を殺しにきたんだな。」


親玉の表情には悲壮な色が浮かびました。


「ああ、もちろん。
お前が憎い。僕はお前のような鬼が憎い!」


桃太郎は激昂します。


「そうだろうな。憎いだろうな。
お前から見れば、確かに私は鬼かもしれん。」


親玉の表情には自傷の色が浮かびました。


「そして返してもらう!お前達が村の人たちから奪った財宝を!」


桃太郎は激昂します。


「……財宝?………村の人達から奪った?」


親玉の表情には何故か困惑の色が浮かびました。


「ああ、そうだ!そしておじいさんに返すんだ!
僕は桃から生まれた桃太郎だが、おじいさんに拾われて今まで育ててきてもらったんだ!」


桃太郎が激昂します。


「……それは、何かの諺ことわざなのか?」


親玉の表情にはまた、困惑の色が浮かびました。


「お前達は僕たちの村に攻めてきて財宝を奪っていったんだ!今まで大切に育ててくれたおじいさんを苦しめる奴は俺が許さない!
覚悟しろ!!」


桃太郎が激昂します。


「………。」


親玉の表情には…


「犬、猿、キジ!この親玉の後ろにはまだたくさんの鬼どもが控えている!今こそ仲間を信じる時だ!
俺たち全員で戦うぞ!」


「ワンワン!分かりました。奴らの首筋に噛み付いてやります!」

「おう!頼もしいぞ犬!お前の牙の鋭さを見せてやれ!」

「ウキウキ!承知しました!私がこやつらを引っ掻き回してやりましょう!」

「ああ、そうだな猿!お前の素早さで奴を翻弄してやれ!」

「ケーンケーン!私は上空から襲ってやります!」

「いくら鬼でも空は飛べまい!キジ!お前の役目は重要だぞ!」



「………。」



親玉の表情は…何故かーーー




………マヌケな顔をしていました。


桃太郎一行がそれぞれ最後の戦いを挑もうと覚悟を決め、各々が身構えました。

その様子にーーー

それまでポカーンとしていた親玉でしたが、ハッと何かに気がつくと少し慌てた様子で制止を求めました。

「……ちょ、ちょっと待て!」

「何を待つものかッ!」

「一つ頼みがあるッ!!」

「ハッ!この期に及んで命乞いか!?
誰が貴様の頼みなど聞くものか!」

桃太郎は鼻で笑って一蹴しようとしますが、
そんな態度とは裏腹に、
その頼みは桃太郎達が思ってもみない内容でした。



「聞いてくれ!いいか…!
……俺の命と財宝は差し出そう。

だ、だから…!

他の者の命は助けてやってくれないか。」


「………なんだと?」


たしかに悪くない話でした。
もちろん財宝が返ってくれば、おじいさんや村のみんなが喜んでくれるでしょう。
それで目的は十分に果たせます。
しかし…

しかし、桃太郎からすれば、おじいさんを苦しめた鬼達を許したくはありません。

桃太郎は迷います。

そして桃太郎が決断しかねた時……


「ワンワン!財宝を受け取ってしまうのがいいのでは無いですか?」


桃太郎の頼れる仲間たちの声が聞こえました。


「犬…お前…。で、でも…こいつらはおじいさんを苦しめた奴らなんだぞ?」


「ウキウキ!私らの目的は財宝を奪い返す事です!」


「た、確かにそうだが…。」


「ケーンケーン!そうですそうです。降参している敵を殺すのはあんまりでしょう。
おじいさんもそんな事は望んでないはずです!」


「そ、そうかな…?
おじいさんはそんな事…望んでないのか?」


桃太郎は迷います。
しかし。
しばらくの後、小さく息を吸い込むと、
親玉に向き直って高らかに声を張り上げました。


「良し!お前の頼みを聞いてやろう!」


そう。
桃太郎は、鬼達を許すことに決めたのです。


「………。
…そうか。」


しかし、何故でしょう?


頼みを聞いてくれたはずの親玉は、なんとも言えない顔をしておりーーー

桃太郎が続けてーーー

「ああ、あとついでに、お前の命も助…。」



そう、言いかけた時でした。




「ちょっと待ってくれ…。」



親玉が桃太郎の言葉を遮ると、
この鬼は、何かを言おうか言うまいか…
そんな曖昧な顔をしておりーーー



やっと決心がついたかのような素振りを見せたかと思うと、


この少年にーーー




何とも不可解な顔を向けました。




まるで…気味が悪いものでも見るかのように。




「なあ、桃太郎よ。どうしても…一つ…
聞きたいことがある。」



「……なん、だ?」


あまりにもおかしな親玉の様子に、
桃太郎のその反応は、かなりキョトンとしたものでーーー

それよりも……

この親玉の表情には、
見覚えがあります。


この目の前の鬼が向けてくる、怪訝な表情。


それは、旅の道中ーーー

道行く人々が鬼退治に行く桃太郎達に向けていた時のものと同じだったのです。


桃太郎は、あの時、こう思っていました。

ーーー自分達が危険な旅をしようとしている為に、道行く人々は、まるで珍奇なものを見るかのような視線を、自分達に向けていたーーー
と。

………自分〝達〟に?


……いや、違っていた。


巡らせていた桃太郎の思考は、
次の親玉の一言で完全に停止しました。


「お前、さっきからーーー



……いったい、誰と話してるんだ?」




人々が向けていた視線は、
桃太郎に対してのみでした。



まるでその場に、
桃太郎しか存在しないみたいに。




かつて桃太郎とその仲間達が初めて出会った
あの場所には、

三つのきびだんごがーーー



誰に食べられることもなく、
虚しい姿を晒していました。
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