異世界に降り立った超人──アーヴィンの章

チリノ

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第一章

生贄の村その二

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キタイ村は、三百人ほどの村人たちが住まう鬱蒼とした森に囲まれた村落だ。
ロザリーの暮らす村家は、この村の一番端っこにあった。
アーヴィンは、ロザリーと一緒にその家に向かう途中で、何人かの村人達と顔を見合わせた。
そんな村人達がギョッとした表情を浮かべ、肩に担がれている魔物の亡骸とアーヴィンを交互に見やった。


狭い道を横切り、村のはずれに建てられた一軒家につく。
藁葺き(わらぶき)屋根の小さな平屋だ。
アーヴィンは肩に担いでいた魔物を地面に下ろした。
「ここがロザリーの家か」
「そうよ、狭い家だし、ロクなおもてなしも出来ないけど、とりあえず入ってちょうだいな」
「それじゃあ、遠慮なく上がらせてもらうよ」

戸口を開けて二人は家の中へと入った。
アーヴィンが居間に置かれた木の椅子に腰掛ける。
「それじゃあ、少し待ってて、いま、夕食を作るから」

土間に置かれた竈に火を入れて、ロザリーが水を張った鍋を沸かしていく。
そして切り分けた野菜を鍋に入れて、塩とハーブで味付けをしながらグツグツと煮詰めていった。
「スープができるまでもう少し掛かりそうだから、ちょっとお婆ちゃんのお世話をしてくるわ」

「病気かい?」
頬杖を付きながらアーヴィンは尋ねた。
「ええ……山菜を取りに行ってる最中に倒れて、それからずっとベッドで寝たきりよ……」
椅子から立ち上がるとアーヴィンはロザリーに言った。

「わかったわ、じゃあ、こっちに来て……」
ロザリーが部屋の隅を仕切っているカーテンを開けると、そこには粗末なベッドに横たわった老婆の姿があった。
黙ったまま、アーヴィンは老婆の額に手を当てた。
「お婆さんが倒れたのは二年くらい前だね」

「え、どうしてわかったのっ?」
アーヴィンの言葉にロザリーが驚きの声を上げた。
「俺は医者の真似事もするんでね」
アーヴィンが答える。

ベッドで仰向けになっている老婆には、脳梗塞の痕跡が見られた。
脳神経もいくつか壊死しているのがわかる。
特に運動機能を司る脳部位である一次運動野にもダメージがある所から、半身の手足が麻痺しているのだ。

「ロザリー、お婆さんの病気を治したいかい?」
「何か治療方法があるの?」
そのアーヴィンに一言にロザリーの表情が明るくなった。

「少しだけ時間をくれるならね。君が料理を終えた頃には、お婆さんはすっかり良くなっているよ」



苦々しい顔を浮かべていた村長のカインが、唸るような声を出した。

「男の余所者が訪れたのはおあつらえ向きだが、あんなデカイ灰色狼の魔物を一人で仕留めたとなると、
相当な腕利きじゃな。
無理に捕らえようとすれば、大勢の村人が死ぬことになりそうじゃ……」

そこで村役人のパンジャが横から口を挟む。
「何も力づくで捕まえるだけが能じゃないだろう、村長殿。
村でもてなして、気持ちよくさせてから酒に眠り薬を混ぜて飲ませるとか、
やり方はいくらでもある」

「そうじゃな……出来ればその旅人の男とロザリーが、自分達から蛇神様の所に行くように仕向けたいもんじゃが」
「この前やった方法か。あの時は冒険者の娘をかどわかされた風に装って、蛇神様のいる木の洞(うろ)に向かわせたんだったな」
白髭をさすりながら村長が笑った。

「そうじゃ、そうじゃ。あの時は本当にうまく行ったわい。妹を盗賊にさらわれたと血相変えて、
飛び出していったからのう」

「だが、あの時は上手くいったが、今回はもうまくいくかはわからんぞ。
なんせ、あれは血の繋がった兄妹だったから上手くことが運んだんであって」

「そこが悩むところじゃな。男と女の仲からともかく。
だが、金で釣ればなんとかなるじゃろう。ロザリーが森のオークに捕まったから助けてくれ、
報酬なら払うからとのう。大分昔にそれで蛇神様の生贄になった冒険者がおったわい」

村長も村役人も余所者の命などよりも村の繁栄のほうがずっと大事だった。

むしろ、冒険者などの根無し草の流れ者に対しては心の底から軽蔑していた。
だから生贄に捧げても心など傷まない。
それにもう、流れ者を生贄に捧げることなど、とっくに慣れていた。

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