異世界に降り立った超人──アーヴィンの章

チリノ

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第四章

蘇った保安官その四

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死んだ親父がよく言っていたものだ。この世の中は、掃き溜めだと。
そんな親父が酒に酔った挙句、冬のドブ川にハマって溺死したのが、十五歳の時だったか。

トーマスはスラムを歩きながら、そんなことを思い出した。
トーマスが保安官見習いになったのが、一六歳の時だった。

それまではこのスラムで父親と二人で暮らしていた。

母親は流行病でトーマスが五つの時にこの世を去った。
十歳年上の兄はとっくに家を出て、一人暮らしを始めていた。

スラムでの父親とのふたり暮らしは、決して楽なものではなかった。
積荷の手伝いをして日銭を稼ぎ、その仕事もない時は生ゴミを漁ったりして食いつないでいた。

そして、あの頃から何一つ、このスラムは変わることはなかった。

サジャックの街の片隅に埋もれたゴミの掃き溜め。

このスラムは流れ者や浮浪者、それに悪事に手を染めて逃れて来た連中が、
勝手に住み着き始めたことで、徐々に形作られていった。

そして出来上がったのが、この毒虫と寄生虫の巣窟のような場所だ。
このスラムには街の警備兵も保安官も決して立ち入ることはない。

スラムは、この街唯一の治外法権といっても良い場所だ。
だからここに逃げ込んでくるお尋ね者は多い。

禁制品の売買に賭博、売春、強盗、殺人の依頼、スラムでは金さえあればなんでもできる。
そして、これらの商売をスラムで仕切っているのが、サジャックの街に巣食う犯罪組織の連中だった。

腕利きの保安官だったトーマスは、スラムの犯罪組織と対立していた。
犯罪組織の尻尾を掴むために盗賊に変装し、トーマスは潜入捜査をしていたのだ。

だが、何者かの密告によって潜入捜査がばれ、トーマスは犯罪組織の連中に囲まれた。
そして剣で切り刻まれた挙句に炎の魔法を浴びせられ、トーマスは業火に包まれてのたうち回りながら苦痛の中で息絶えた。

しかし、トーマスは蘇った。
とある錬金術師が、墓穴から掘り起こしたトーマスの遺体を実験室へと運び込んだ。

そして取り出した脳を人型のゴーレムへと移植したのだ。

錬金術師から魔法処理を施されたコロンバイトタンタライトの肉体を与えられ、トーマスは蘇った。
人間の頭脳とゴーレムの身体を持つ存在として。

今のトーマスの目的はただ一つ、犯罪組織の連中を叩き潰し、自分を陥れた密告者を見つけ出すことだ。

そして、トーマスはそれこそが蘇った自分の使命だと考えていた。
保安官としての誇りを取り戻すため、ゴーレムシェルフとなったトーマスは犯罪組織のメンバーを追い続ける。

自らの信念を掛けて。



「あの時殺されたふたりの男は、凶状持ちのお尋ね者で、犯罪組織の一員だったってことか」
アーヴィンに言葉に頷くジェシカ。

「それに、それだけじゃないのよ。あれから犯罪組織のメンバーが次々に何者かに襲われているらしいの。
連中、今じゃすっかり怯えてナリを潜めてるわ」

「クージョ、あのお尋ね者の賞金首を皮切りに次々と凶悪犯共が殺されてるようだな。
まあ、誰がやってるのかはジェシカ、君もとっくにわかってるだろうが」

「でも、トーマスおじさんは、確かに死んだはずなのよ……」
アーヴィンが、モンキーパイプの火口から揺蕩う紫煙を眺めながら言う。

「ジェシカのおじさん、よっぽど連中に恨みがあったと見えるな。それで墓から這い出てきたんだろう。
まさに保安官の鑑(かがみ)だね。街中のダニ掃除をしてくれてるんだから、放っておけばいいさ」

「そういうわけにはいかないわ。それに私もおじさんと会って話がしたいのよ」
ジェシカがテーブルから身を乗り出し、アーヴィンの瞳をジッと見つめた。

そんなジェシカにアーヴィンが頭を振って答える。
「君の気持ちはわかった。それで俺は何を手伝えばいいんだ?」

「ふふ、アーヴィン、貴方ならそう言ってくれると思ったわ」
「君みたいなチャーミングな子の頼みは放っておけないもんでね。自分でもたまに嫌になってくる」
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