ゴブリンニンジャ大活躍

チリノ

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襲われた村

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     あんたの穀物の刈り入れは今日になるだろう

     おいらの穀物の刈り入れは明日さ

     今日、おいらがあんたの穀物の刈り入れを手伝って、
 
     明日、あんたがおいらの穀物の刈り入れを手伝うなら、
 
     どっちも多くの実りを得ることになる

     だけど、おいらはあんたを信じちゃいないし、

     あんたもおいらを信用しちゃいない事を知ってる

     おいらがあんたの仕事を手伝っても、

     骨折り損のくたびれ儲けになるだけかもしれない

     あんたもおいらの誠意なんか期待しちゃいないだろう

     だからおいらは一人で麦を刈るし、

     あんたも一人で麦を刈るんだ

     こうして、信用も保証もないまま、

     時間だけが過ぎていき、

     おいら達は互いの穀物を台無しにしてしまうんだ


 床の上で踊ったり、跳ねたりしていたマイヤーが歌い終えてから、チャンドスに一礼する。

 「中々面白い唄だな」

 「デヴィット・ヒュームって学者が作った小唄でさあ。農夫ですら、相手から一杯食わされないように用心するのが、

 このご時世で」

 チャンドスは鷹揚に頷いた。このゴブリンの言うことも一理あると。

 確かに何の保証も信頼もないままでは、人は誰も動こうとはしないだろう。

 「では、こうしてはどうだ、私はお前に金貨を百枚、前金として渡そう。

 残りの百枚とイダルゴ(下級貴族)の椅子は、暗殺を成功させた時に譲り渡す。

 流石に事が事だけに公正証書や契約書として残すのは無理だがな」

 「へえ、それでようござんす。あっしは旦那様を信じまやすんで」

  25

 鎧戸からするりと入り込み、覆面を被った侵入者がアパルトマン(集合住宅)の室内を見回す。

 部屋には粗末なベッドとタンスが置かれていた。どうやら寝室のようだ。

 侵入者が静かに扉を開けると、廊下から台所へと向かう。

 ここはモカと女房のマールが住んでいる賃貸アパートだ。

 寝室、それに台所と居間が繋がっているだけの小さなアパートだ。

 それでも二部屋あるだけ、まだ上等だ。

 中には四畳半の一部屋で、家族五人が暮らしている場合もあった。

 侵入者が、台所でうたた寝をしているマールを見つけると、

 耳元で怒鳴り上げた。

 「おいっ、金をよこせっ!」

 その怒鳴り声に驚いたマールが、椅子から転げ落ちる。

 床に尻餅をついているマールの首筋に侵入者がナイフを突き立てた。

 「な、なんだいっ、金なんてないよっ」

 「だったら酒と食物、それと金目の物をよこせっ、

 いいか、大人しくしろよっ、騒いだらこいつでブスリとやるぜっ」

 侵入者が怯えるマールを無理やり立たせ、手首を縄で縛りつけると猿轡を噛ませた。

 そしてマールを床に転がすと、テーブルに風呂敷を広げて、肉やチーズ、酒を詰め込んでいく。

 風呂敷を締めると、次に侵入者は、再び寝室へと入っていった。

 そこへタイミング良く、亭主のモカが帰ってくる。

 「んんんっ、んんんんっ」

 猿轡を噛まされたマールが、くぐもった悲鳴を上げて、亭主に助けを求めた。

 その悲鳴に慌てて台所に飛び込んだモカは、縛られて床に転がされているマールを見つけると、

 すぐに駆け寄って縄を解いた。

 「ご、強盗が入ってきたんだよ……まだ、寝室にいるよ……」

 恐怖に震えるマールに向かって、落ち着くように諭すと、モカは俺にまかせろと自分の胸を一つ叩いた。

 そして居間に置いてある三フィート(約九十センチ)ほどの棍棒を手に取り、寝室へと向かおうとする。

 すると、強盗とモカが廊下でばったりと鉢合わせした。

 「この泥棒めっ、さっさと盗んだ物を置いて失せろっ」

 「何をっ、この痩せっぽっちのチビがっ」

 それからマールのいる居間へとなだれ込むと、モカと強盗が棒とナイフを叩き合わせ、

 激しい格闘を演じ始める。

 モカは牢番をやっているだけあって、棍棒術の心得があった。

 だから構え方と受け流しはそこそこ様になっている。

 台所の隅で怯えているマールを尻目にモカと強盗は互いを罵りながら、

 ナイフを振り回し、棒を打ちつけ、野菜を放り投げ、椅子を蹴飛ばした。

 「これでも喰らえっ」

 気合とともにモカが、相手のナイフを握ったほうの手首をしたたかに打ち据える。

 この小手打ちにたまらず、強盗が刃物を床に落とした。

 そして「畜生……っ」と捨て台詞を残すとその場から逃げ出していく。

 モカは、まだ隅で震えている女房にもう大丈夫だと声をかけた。

 勿論、これはマイヤーとモカの仕組んだ芝居である。

 もしも、マールに正常な判断力が残されていれば、これらに何か違和感を覚えたはずだ。

 亭主が帰ってきたのも丁度良すぎるし、目の前での立ち回りも何か芝居がかっている。

 それでも突然の出来事と恐怖にマールは冷静さを失っていて、考えがそこにまで及ばなかった。

 モカが女房の背中を撫でさすってやると、マールが亭主に泣きながら抱きつく。

 マイヤーは路上で二人の借りている部屋の辺りを見上げると、うまくやれよと手を振った。

 26

 ザボーの村は荒れ果てていた。

 戦争が終結し、それまで雇われていた冒険者や傭兵達が、突然解雇されたせいで、

 食い詰めてしまったのが原因だった。

 ろくな給金も手渡されず、雇い主から放り出された傭兵達の多くは、戦場で生計を成り立たせてきた連中である。

 一時的にでも休戦に入れば、たちまち失業してしまう。

 これといった手職を持たない傭兵、冒険者達は戦う他に金を稼ぐ術を知らない。

 ゴブリンなどの亜人、モンスターを狩り立てて、奴隷として売り飛ばすという方法もあるにはあるが、

 苦労して探しても、見つからなければ骨折り損である。

 又、仮にゴブリンの集落を発見しても弱いモンスターなら大量に殺すか、捕獲するかして、

 売りさばかなければ、纏まった金は手に入らない。

 特に殺す場合、食えなかったり、工芸品や道具の材料にもならないモンスターは、殺すだけ無駄である。

 では、強いモンスターはどうか。

 強いモンスターほど、希少価値があるので一匹辺りの取引額は上がるが、

 生半な腕前では食い殺されるのがオチである。

 賞金を稼ぐにしても、賞金首となるモンスターの数は少ない。

 そして賞金をかけられるようなモンスターは総じて強力だ。

 腕の良い者なら、強い亜人やモンスターを捕まえて売り払い、あるいは賞金首を仕留められるだろうが、

 大部分の傭兵、冒険者といった連中は、それほどの腕を持たない。

 返り討ちに遭う危険を冒す可能性のあるモンスター狩りより、

 抵抗する手段を持たない農民を襲ったほうが割が良い。

 小鼻を掻きながら、マイヤーは街道沿いに建てられた風車小屋から、村を眺めていた。

 その後ろから、リズが村の様子を覗き込んでいる。

 こりゃまた酷いもんだと、道端に転がった村の子供の生首を指差し、同族の餓鬼まで殺すこたあねえだろうと、

 マイヤーが地面に唾を吐く。

 街を離れ、王都へ繋がる街道を進んでから四日目のことだった。

 「可哀想ですね……」

 リズが殺された子供に同情する。

 全ての人家は燃やされ、黒く焦げた家の梁が崩れかけている。

 村の右奥に置かれた作物庫は、茶色い土壁をハンマーで叩き壊されて無残な姿を晒しているだけだ。

 地面には、僅かばかりの小麦の粉が散らばっていた。
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