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R15(前半)
7.お嬢様、心の準備はよろしいですか?
「アンリエッタお嬢様、拉致、ではありませんよ」
心の中を読まれた。と杏里は運転するセバスを横目で見た。
「心、読まないでよね」
「お嬢様の事ならなんでも分かります。馬の遠乗りへお連れした際も、”拉致ですわ!”などと言って私を困らせていたではないですか」
杏里はその時の事を思い出して笑う。
「ッふはは!あれは面白かったわよね!周りの人たちが貴方を誘拐犯だと思ったのだっけ?」
「楽しくないですよ、私は職を失う所でした」
ムスッとした顔でそう言ったセバスに、杏里は思い出した事を口に出す。
「そういえば、執事喫茶、辞めたの?」
「ええ。もう用はありません。私はお嬢様を探していたので……本当に苦労しました」
着きましたよ、と連れて来られたのは都心部は都心。
超が付くほどの高層マンションの駐車場で、杏里は背筋をピンと伸ばした。
「え”、こ、ここ?に住んでいるの?」
「ええ、そうです。ここの最上階ですね。住んでいるというか住み始めたというか。アンリエッタ様は美しい景色が好きだったでしょう?」
「いや、それはもう慣れたんだけど。っていうか……セバス……何者?」
その答えを聞く前に、杏里は最上階で開いたエレベーターから降りるとその光景に息を呑んだ。
「っちょっと待って、もう此処、家の中なの?!」
「ええ、ワンフロア丸々使っておりますので、そうですね。二階はまだ少し散らかっておりますので見ないで頂けますと嬉しいです」
苦笑したセバスは杏里をだだっ広いリビングに招いた。
「今お茶をお出ししますね。座っていて下さい」
座ってと言われても、何処に!!?と杏里は部屋を見渡す。
あまりに異次元なその空間に落ち着かず、全面窓になっている所に置かれた大きすぎるL字ソファの端に腰掛けて、杏里はキッチンに立つセバスを見た。
全てが新品のようにピカピカだ。
キッチンも広いし家具も一つ一つセンスがいい。無駄な物も一切ないし。
そんな事を考えていればセバスが隣に腰掛けた。
「こんな端に座らなくても……まあ、そうですね。先程の疑問にお答えしたいのですが、どこから話せばいいか……」
ポツリポツリとセバスが話始めた事はあの、昔の私が死んだあとの話。
命を犠牲に転生したセバスは、魔女の禁忌の魔術によって、此方の世界の大企業の社長と秘書の両親の元に生まれた次男で、事故により危篤状態だった身体を得た。父親は異国出身でハーフであり、見た目だけでなくセバスという名前もこの世界で引き継いだ理由も魔術によるものらしかった。
「まあ、でもできれば歳を近づけてくれとは言ったのですが。あの魔女も色々と初めてだからどこまで出来るか分からないとは言っていたのです……。だから、私とアンリエッタ様も歳の差も前以上に少し開いてしまっていたのを……今まで知らなかったのです」
苦笑したセバスを見て杏里は笑う。
確かに、今のセバスは32歳。だから、昔より更に3歳も年上になってしまった。
「それは禁忌の魔術を行った代償なのでしょうね……。でも、そんな年の差は誤差よ!前世の貴方には何も違いないわ」
「確かに、そうですね。でも、出来ればもう貴女との少し歳の差を縮めたかった……縮まっていると思っていた・・・だから貴女を見つけるのに本当に時間がかかりました」
そうして此方の世界に来たはいいが、セバスには肝心のアンリエッタとの会い方も分からなかったのだ
魔女が告げたのは、運命ならばまた巡り合うという漠然としたアドバイスだけだったのだから。
「そんなの、もうイカガワシイ、マジナイ師ね」
杏里がそう言って笑えば、彼も同意して笑った。
「本当に、そうですね。まあ、でも禁忌の魔術等、そうそう行うものではないでしょう。それで最終的にはこうやって貴女に会えたのですが……本当に時間が掛かってしまったな」
セバスに手を握りしめられ、杏里は恥ずかしくなって赤面する。
そして、魔女の助言に従って自分の心の赴くままに、家族の反対を押し切って執事喫茶で働き始めたそう。
「執事喫茶しか考えられなかった。だけど、2年が過ぎ、5年が過ぎ、貴女が現れなくて本当に不安で……」
ぎゅっと握られた手が震えていて、杏里はその手に自分のもう片方の手を重ねる。
「追ってきてくれて、見つけ出してくれて……ありがとう、セバス」
その言葉を聞いたセバスは柔らかい笑顔を浮かべた。
「お見合いも何度もしろと急かされていたのです。本当に良かった……貴女と会えて……」
「結婚もしていないの?」
「は?するわけがないでしょう。ずっと、ずっと、貴女だけを探していたんだから」
「そ、そうなの……」
綺麗な青色の瞳に見つめられて、杏里が顔を逸らそうとして、セバスはそっと彼女の顎に手を添えた。
「杏里……。俺と、結婚を前提に付き合ってくれないか?こんな急にという事は分かっている……だが、諦めきれなくて……といってももう離してやれないと思うんだけど……」
杏里はその誠実な真っすぐな想いに頷く。
「セバスチャン、あんな、無責任な別れ方してごめんね。私もセバスにこの前言われて、あれは酷かったなって思った。それに、私もまだ、貴方の事が好きなの……忘れようとしたのだけど……全然忘れられないのよ……だから」
その言葉の先は紡がれる事は無かった。
だってセバスが私の唇を塞いでいたから。
転生して19年の春。
私は前世も入れた本当に長い間想いを寄せていた初恋の人と漸く想いを通じ合わせた。
これをハッピーエンドと呼ばなくて何がハッピーエンドなのでしょう?
と私、アンリエッタは思うのだけれど、これは”エンド”ではないのでしょうね。
セバスチャンは一度目の人生で私を失ったことで少しヤンデレ化しているみたいだし?
私の長年守られてきた処女もいよいよ失われるかもしれない……と言う事なのかしら?
「お嬢様、夕飯の準備が整いましたよ」
流石私の専属執事セバスチャンというべきか……見た目も美しい料理の数々が高級皿と共に机に並べられて杏里は目を疑った。
「え?これ全部セバスが……?!完璧すぎない?!」
「えぇ。全て私の手作りでございます。でも良かった。お嬢様の食事の準備を完璧にこなすスキルを身に着ける為に2ヵ月間XYZクッキングに通った甲斐がありましたね」
にっこりと嬉しそうに微笑んだセバスを見て、杏里はあんぐりと口を開ける。
この……セバスが……XYZクッキングに……。
そんな杏里に目の前からフォークに刺さった肉が近づいてくる。
「お嬢様、食べさせてさしあげましょうか?あ~ん」
「ちょっ、と、セバスッ?!私、もう大人なんだから一人で食事くらい取れるわよ」
私と若干ヤンデレ化してしまった執事セバスチャンの結婚を前提とした彼氏・彼女としての日々はこれからが本番。
今後どうなるのか知りたいような、知りたくないような気もするけれど。
朋美や友人のアドバイスとか聞きながら、ゆっくりと大人の階段、登っていけばいいわよね!
そんな決意を決めた直後、私の顔を覗き込みながら、ウットリするような笑みを浮かべたセバスは耳元で囁いた。
「お嬢様、今日は泊まっていかれるのですよね?」
『へ?』その言葉の意味を私の脳が理解するよりも早く、彼は私を抱えて二階へと繋がる階段をのぼっていく。
「えっ?もう?そういう感じなのっ?しかも階段……のぼって」
「ええ、寝室は二階ですので……上りますよ?というか、お嬢様、私が此処まで連れてきて帰すと思っておられた……のですか?貴女の為に2ヵ月もかけて準備していたこの家に……?」
「……え、私の為?ちょ、ちょっと……待って……セバス、待って、お姫様だっこ……、待って!待ってってば、心の準備がああああ」
そして必死の抵抗をする私を待つ気もなく、彼は妖艶な笑みで微笑んでこう言うのだ。
「アンリお嬢様、お時間でございますよ。ご準備はよろしいですか?」
───── 完 ─────
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