【第一章/王国離縁編】王太子に離縁されました?上等です。最強の皇帝陛下の【魔眼】と共に、世界攻略を致しますので!【R18・完結】

猫まんじゅう

文字の大きさ
3 / 58
第一章 王国、離縁篇

2.記憶喪失と、これから



「·······っ、」

 目を開ければ、見慣れない天井に、やっぱり慣れない高級感のある柔らかさと硬さが絶妙な寝心地の寝台。


「リリアーナお嬢さまぁ! やっとお目覚めになったのですねっ······すぐにお医者さまを連れて参りますっ」


 急に大きな声が横からして、驚いてそちらを見るとメイド、それとも侍女、というべきなのだろうか。 一人の女性が泣きながら部屋を飛び出していった。

 泣き腫らした真っ赤な目に疲れ切った顔をしていた。 寝ずに傍に居て世話をしてくれていたのだろう事は容易に想像できる。
 だが、申し訳ないことに彼女が誰なのかは全く分からなかった。

 本当にどうなってしまったのだろうか。
 自分、他人のこと含め記憶が一切ないのだ。かと言って前世とやらの記憶があるわけでもない。
 とにかく、今わかるのはこの世界が自分の知らない場所だということだけだった。


 そんなことを漠然と考えていれば、コンコンとドアをノックする音が部屋に響く。


「はい」

「王宮専属医師のファルスです」

「どうぞ、」

「失礼致しますぞ」


 扉から顔を覗かせたのは、声の通りの優しい見た目をした白髭のお爺さんだった。


「リリアーナ王太子妃殿下にご挨拶申し上げます。
 ご気分はいかがですかな?」

「ええと····その。わたくし、リリアーナというのですか? 自分の名前も場所も一切わからないのです。
 ······それに王太子妃殿下、とはどういうことなのですか? それから、ここは何処なのでしょう?」


 たくさんの疑問が不安という大きなものに押され一気に溢れて口から零れ落ちていく。
 そんなリリアーナに白髭医師ファルスは近寄り微笑みかけて手を握りしめた。

 

「まぁ一旦落ちついて下され。大丈夫ですぞい。
 儂が話を聞いて妃殿下の健康状態もしっかり調べさせてもらうのでな」



 ファルスは所々でメモをとりながら、笑うこともなく真剣に話を聞いてくれた。 それからリリアーナの身体を隅々まで検査しはじめる。
 
 ファルスの行う検査方法は手を直接身体に当てて、体内にある魔力を検出しながら詰まり等異常がないか細部まで確認するものらしい。

 自分に魔力があるような気配は感じないが、ファルスが魔力を当てるとポカポカした温かさが感じられたので、この感覚が魔力ということなんだろう。とリリアーナは心の中で一人納得した。


 でも、ファルスは何故かリリアーナの最初の疑問には答えてくれず、何度か核心に迫る疑問をぶつけても先程からのらりくらりと交わされている。

 自分が誰で、ここがどこか、そういった最も知りたい重要な事は未だひとつも分かっていないのだ。

 王太子妃殿下、と言われた気がするし、確かにお城と言われて納得できるくらい豪華な部屋ではあるのだけれど······。
 リリアーナは部屋の中を見渡して、溜め息をついた。



「成程、ではやはり一切の記憶がないのですな?」



 検査が一段落し、再度確認というように問いかけたファルスに、リリアーナは『さっきからそう言ってるじゃない!』と叫びたい気持ちをグッとこらえる。それから、昨夜の状況を事細かにファルスに告げた。


「─────はい。 あの男性がそう発言されて、私、意識が戻りましたので。 でもその前までの意識がどこにあったかは分かりかねます」

「そうですか。リリアーナ様は混乱されているようですしな。とりあえずこちらでゆっくりお休みくだされ。儂は殿下らに報告だけあげておきますのでな。 
 なに、心配はいりますまい、お体に問題はありませんでな」


 誰だってあんな、あけすけな夜着を着せられて知らない男に襲われそうになっていたら混乱するだろう。まあ、記憶がなくとも身体に異常がないのであれば良かったけれど······。

 コクリとリリアーナが無言で頷いたのを見て医師は部屋を退出していった。


 彼が出ていくと部屋にはまた静寂が訪れる。


 そして、その静寂を破ったのはずっと壁際に立って状況を見守っていた侍女であった。


「リリアーナお嬢様······いえ、王太子妃様。 本当に、本当に記憶がないのですか········。 なんてこと·····、」


 また涙ぐむ彼女にリリアーナは居ても立っても居られなくなって意を決して声をかける。


「あの······心配をかけて申し訳 「私めなどに敬語はお止めくださいっ!!」」

「あ、ごめんなさいね。えーと、、」

「ラナーでございます」

「ラナーさん」

「いえ、以前のようにラナーと」


「ラナー······、」


 すぐに会話が終わり、リリアーナは困惑した。
 記憶がない以上、相手との関係性も分からないし、ましてや“以前”と言われても、だ。


「ラナー、その、私やっぱり何も思い出せないの。
 この世界の環境や情報をイチからあなたに教えてもらいたいのだけれど。そうね、先ずはラナー、貴女の事から順に教えて貰えるかしら?」


 申し訳なさそうに微笑むと、ラナーは少し寂しそうな顔をしながらも力強く頷いた。


 "私が全てリリアーナにお教えしなければ"という強い使命感に駆られたようなラナーを、リリアーナは見て見ぬフリをした。

 うん、少しその熱意が怖かったからとは決して言わない。
感想 0

あなたにおすすめの小説

あっ、追放されちゃった…。

satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。 母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。 ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。 そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。 精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中