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第一章 王国、離縁篇
4.王太子との、三者面談
"離縁"といえば確かに大事のように聞こえるかもしれないが、リリアーナからすれば単純な話であった。
自分は確実にあの王太子に嫌われているのだから、きっと簡単に離縁できるだろう。
あの男は自分に面と向かって「愛せない」とはっきりと告げたし、それを前提に妻の役目は果たせと言ったのだから。
とにかく、思い立ったが吉日、である。
いますぐ離縁をあの男に提案するべきだ。
リリアーナは一人心の中でそう結論づけて深く頷くと、侍女のラナーに声をかけた。
「ラナー、あの王太子に会いに行くわ。 案内を頼めるかしら?」
「リリアーナ様、殿下に会いに行くのでしたらまずお召替えと···あとはこちらで殿下の侍従の方にいまから伺う旨をお伝えするようにしましょうか?」
リリアーナは、意識が戻って以降は明け透けな目を見張るような夜着と、この国で一般的に着るらしい寝間着しか着ていないことに気付いて頬を染める。
確かに一応、あれでも、この国の王太子。
あんな男に合うために服を着替えるのは癪ではあるが、流石に寝間着で会いに行くわけにはいかない。着替えるしかない、と決心するのに時間はかからなかった。
そう、離縁する許可を取るという謂わば戦いの場にいくのだ。戦闘服は必須である。
「わかりました。服は替えましょう。でもあの人に知らせをだす必要はないわ。礼がなってなくてもいいの。離縁をしてくださいというだけだし、万が一知らせをだして断られたら大変よ、」
「承知致しました」
ラナーは"離縁"と聞いて一度驚いて目を見開いたが、すぐに何事もなかったかのようにテキパキと仕事をこなす。
意識が戻ってから初めてリリアーナはシンプルなドレスに見を包み、鏡の前で化粧を施されていた。
要するに鏡越しにリリアーナは初めて自分自身を見ることになったのである。
「憎いくらい美しいわね············」
白に近い白銀の髪、睫毛は長く、大きいが切れ長の目には鮮やかながらも儚い印象の薄紫色の瞳。
深く赤い色のレースのドレスの胸元から覗くのは、大きすぎず小さくもない弾力のある上向きの胸。
リリアーナが立ち上がれば、はっきりとしたくびれとそこから腰にかけて綺麗な曲線を描くようにある尻が隠れきれずにいる。
控えめに言って、スタイルが良い。
太ももには適度な筋肉もあり、そこからすらっとのびる長い脚はヒールの高い靴によって更に色めき立つようだ。くびれから下のそれらはドレスに隠されてはいるものの、年齢を全く感じさせない色気が溢れていた。
末恐ろしいわね。と、リリアーナは身震いする。こんな美貌、これから先どうなってしまうのか。自分には手に余るほどで御せる気がしない。
まあ、離縁して優しい旦那様と再婚し平凡な人並みの生活ができればそれで本望なのだけれど······。
優秀なラナーの補佐もあり、あっという間に支度が整い、リリアーナとラナーは王太子の執務室前に到着した。 執務室の部屋の前に立っていた護衛がリリアーナの存在に気付き慌てて敬礼をとる。
「王太子妃殿下にご挨拶申し上げます!!」
「王太子はここかしら? 重要な話があるのだけれど」
「はっ、確認致しますので。 少々お待ち下さい」
護衛は扉を開けてそそくさと中に消えていった。
「王太子殿下、執務中申し訳ございません。王太子妃様が重要な話があるとの事でこちらにおいでになっております。お通ししてもよろしいでしょうか?」
「は? リリアーナ、が? 僕のことはいないとでも伝えておけ、あんな生気のない女、間違っても通すなよ」
扉の中に消えていった護衛は入ってすぐのところでリリアーナがきたことを伝えているのだろう。
───── だって、全て聞こえているのだから。
これが本当に来客だった場合、まる聞こえなのではないだろうか。
もっと厳重に対応することを強くお勧めしたほうがいいかしら? それにしても、やっぱり問題はこの王太子の態度だ。本当に性格が悪い。
心の中で悪態をついていると、扉が開き先程の護衛が部屋からでてきた。 そして、その瞬間に開いた隙間を狙ってリリアーナはドアを掴む。
「お、王太子妃殿下っ! こ、こまります···殿下は今、こちらには······「居るじゃない。 居留守なんて使って、嘘までついて。 本当に性格悪いのね、貴方、」」
雪崩のように一気に押し入ったため護衛はリリアーナに触れることもできずあたふたしている。
そしてリリアーナの目線の先、部屋の最奥窓側にはその男、この国の王太子である(らしい)男がいた。
確かに金髪碧眼といった整った見た目は美男子といわれる部類なのかもしれない。 何も知らない女性達は黄色い声をあげそうだ。
確かにそうみえる。けれど。この性格の悪さ、断じてリリアーナの好みではない。
「おい、不敬だぞオマエ。 入ってくるな、でていけ」
「私には用があるのですよ、時間は取らせないわ」
「僕に用はない」
「離縁して頂きたいの、」
「────! っな、な、なんて?」
王太子も流石に"離縁"という言葉には驚いたのだろうか。魚のように口をパクパクさせて空気を食べている姿、非常に滑稽だ。
隣にいた護衛からも、その“離縁”という言葉に、はっと息を呑んだ音が聞こえた。
「り、離縁だ、と?」
「はい、離縁です」
決意を固く決めてきたリリアーナは即答する。
「お前が?!僕に、離縁しろと ─── 「王太子妃様、いえ、リリアーナ様。お久しぶりでございます。 そのご要件きちんとお話させていただければと思います。 まずは立ち話もなんですのでこちらにお掛け頂ければと」」
激昂しかけた王太子の間に扉をあけて入室し会話に割り込んできたのはこれまた美男子だ。ピンとした背筋も綺麗で一々所作も美しい。
「あ、申し遅れました。 私、殿下の側近で宰相見習いのアレクセイ・コンラッドと申します。 アレクとお呼びください。 昔もリリアーナ様にはアレクと呼んで頂いておりましたので」
キャラメル色の髪を靡かせながら、黒縁の眼鏡をクイッと指で直したアレクセイはリリアーナにそういって微笑んだ。
彼の切れ長の目には冷たい印象は全くない。 理知的で穏やか、とても優しそうな方。
しかし、そう思ったのも一瞬で、アレクセイは直ぐ様リリアーナの後ろに目線を変え、冷めた声で言い放った。
「おっと。 殿下とリリアーナ様、私以外は部外者です。 今すぐ退出してくださいね。 先程までのことは全て記憶から消してください?」
リリアーナ達三人が執務室内の長テーブルに着席し、ラナーが茶を出した後、部屋を退出したことで執務室内には静寂が訪れる。
そしてこの深く重々しい沈黙を破ったのはまたしてもアレクセイだった。
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