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第一章 王国、離縁篇
8.円満離縁は、無理そうですね
「まあ、綺麗ね」
「ぁ、この白薔薇です? えーと、殿下と私は花を交換しあっていて、こうして花摘みの許可まで頂いているんですっ。殿下は花言葉にも精通されていて······この白薔薇も気に入ってくれるといいなぁ!」
ルリナは白薔薇を見つめてうっとりとした表情を見せた。王太子にあげる時の状況でも考えているのだろうか。脳内のお花畑が完全に露見し駄々洩れである。
「あぁ、確かにその薔薇もですけれどね?
貴女が、とても綺麗だと思ったの。うーん、何故殿下は貴女を正室ではなく側室なんかにしたがるのかしら?」
「なっ、、」
「貴女のことを本当に愛されているのなら、貴女が望むことは全て叶えてくれそうなものですけれどね?
例えば······そうね、『王太子妃と離縁して私を選んでくださいませ!』とかはどうでしょうか······?」
リリアーナは手を顎におき、少し首を傾げてイマイチ分からないとでも言うような表情をみせる。
その煽るような表情と言葉にルリナの魔力が怒りで揺らいだのが分かった。未だ魔力や魔法の知識が乏しいリリアーナにも分かったのだから多分かなり大きな物だと推測できる。
「あんたさぁ、こっちが黙ってればいい気になってっ! あんたみたいな泥棒猫、邪魔なのよっ! 居なくなればいいの! そうすれば殿下だって·····きっと私だけを愛してくださるのにっ!!! 私が手に入れられないものなんて、ないのにッ!!!」
大きな魔力の揺らぎは未だに感じるが、ここで彼女が攻撃魔法をリリアーナに使用するとは思えなかった。
何故なら聞いた話によると、レベロン王国では王城内で攻撃魔法を使用することは禁じられていて侵入者等の緊急以外で使用した場合は最悪極刑となるからである。
であれば、リリアーナがとる行動は"もう一押し!"一択だ。少し性格が悪いやり方だが、ここでルリナが黙ってリリアーナを見過ごしてくれるとは思えなかった。
「そうね、でしたら奪って頂いて結構なのですよ。本当は私も王太子妃の義務とやら、嫌なのです。貴女に変わって頂けたらどんなに嬉しいか······」
「このクソ女ぁッ!!!」
次の瞬間、ルリナは園芸用ハサミを握り締め切っ先を向けて飛んできた。
そう文字通り飛んできたのだ。
きっと風魔法を使っているのだろう彼女は、もうリリアーナの目前まで到達していて、大きくハサミを振り上げた。
あぁ、もう絶対痛いやつじゃない·····。リリアーナは痛みを覚悟して身構える。
────── が、事態はその直後に急変した。
リリアーナが覚悟していた痛みの代わりに、何故かルリナがリリアーナの手を思いきり掴んで目の前で「キャー」とか「イヤー」とか喚きながら、すったもんだ自作自演を繰り広げた挙げ句、自身の腕をハサミで斬りつけたのだ。
ポタポタと目の前で垂れる鮮血にリリアーナは息を呑む。
何故、こうなったの?自分が刺される筈だったのに······。
何故ルリナ嬢が自分自身を斬りつけているの······。
そしてリリアーナはあまりの衝撃にルリナが痛みに涙を流しながら、崩れ落ちるのをただ呆然と見ていることしかできなかった。
「誰か、助けて!!痛いわっ!!ひどいぃっ、ひどいですっ。リリアーナ様!王太子妃殿下が嫉妬して私にこんなことをするなんてっ!」
ルリナはへたりと座りながらも大きな声をあげる。
そして間髪入れずに、リリアーナと彼女の間に一人の騎士が到着した。
「リリアーナ様っ!! ルリナ嬢! ご無事ですか? お怪我はありませんか!?」
「マルコ様ぁ、痛いですぅ······」
マルコと呼ばれた騎士はルリナ嬢の下に落ちて溜まった鮮血に目を見張った。
「ルリナ嬢、お怪我をされているのですか?!」
なるほど、嵌められたわけですね。とリリアーナは直ぐに状況を理解した。ルリナ嬢は確かに最初リリアーナを刺そうとしていたが、ふりかざす直前にこの騎士の姿を視界に捉えたのだろう。
そして彼女はリリアーナを刺すのを止めて、二人が揉み合いになった挙げ句、リリアーナに斬りつけられた。というストーリーを創り上げたのだ。
本当によく悪知恵がまわるご令嬢だこと。でも、相手がその気なら、この際私も全面的に彼女に便乗しましょう。それで離縁になれば本望だわ。
そして、決意を新たにしたリリアーナはルリナ嬢に優しく声をかける。
「ルリナ嬢、申し訳ございませんわ···。あなたを傷つけるつもりはありませんでしたの」
嘘は言っていない。本当にルリナ嬢が怪我をするなんて思わなかったのだから。
「そんなっ! 善良なフリはやめてくださいっ! リリアーナ様が私を斬りつけたのにぃっ!」
「一先ず、誰か! 彼女を医務室へ運んでくれないか?!」
マルコが庭園の傍を通る騎士達に声をかけたことで続々と人が集まり、ルリナ嬢は騎士二人に支えられ医務室に連れていかれる。
「これではいずれすぐに噂が広まるでしょうね。大事になるまえに王太子妃を辞するなどして責任をとらなくてはいけないわね」
リリアーナは集まってきた周りの人達に聞こえる声でそう呟き、深くため息をつく。
まあ、心の中では『離縁、万歳!』なのだけれど。
「リリアーナ様、追い付くのが遅くなり申し訳ございません。普段は殿下付きの護衛騎士でマルコと申します。お部屋までお送りいたしますね。」
「よろしくお願い致します」
リリアーナはマルコとラナーに付き添われながら部屋まで戻る。部屋までの道中、ラナーがずっと泣きながら謝っていたが、それは仕方がないことだった。
立場上リリアーナとルリナ嬢の会話を聞くような距離には入れなかったのだから。
それにあの風魔法·········
「私も魔法が使えれば良いのだけど」
リリアーナはそう呟いて再度深いため息をついた。
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