【第一章/王国離縁編】王太子に離縁されました?上等です。最強の皇帝陛下の【魔眼】と共に、世界攻略を致しますので!【R18・完結】

猫まんじゅう

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第一章 王国、離縁篇

18.舞踏会(離縁)まで5日 - 運命の出会いは、城下町で -



 リリアーナは男に捕まる事を覚悟し目を伏せる。



 刹那━━━━━ゾクッ━━━━━━━、
 一瞬で全身に鳥肌が立ち、周りの空気がズズンッと深く沈む感覚がする。



 でも腕に痛みは感じないし、掴まれてもいない。
 リリアーナはゆっくりと呼吸を整えてから先程の主犯格の男がいるであろう自分の頭上を見上げた。
 そして次の瞬間、映った光景に目を見張る。


 そこにはその男が、時が止まったかのように固まっていて、その隣には一人の凛とした青年が剣を男に向けて立っていたからだ。

 変装している今のリリアーナと同じような茶髪に茶色い瞳、細身で高身長の凛とした青年。剣を片手に持ちながらも隙はなく、すっと直立した佇まいはただ者ではないオーラを纏っている。

 この国の騎士服とは違う軽装備の服、腰に鞘を携えているその青年の剣先は、男の首筋ギリギリに触れるか触れないかの位置で止まっていた。 



「彼女に指一本でも触れてみろ、殺してやる」



 低いテノールの声に、先程とはまた違う鳥肌がリリアーナの背中を駆け抜ける。


 先程感じたのは青年の殺気だったのだろう。既に仲間の男達五人は泡をふいて卒倒している。剣を突きつけられた主犯格の男もそれにあてられて立ったまま気を失っているようだ。青年はそれを一瞥し、気怠そうに剣先を振り払い鞘に納めた。

 リリアーナは周りを見渡して“大事が起きた”と人が集まってくるのを確認し、ほっと胸を撫で下ろす。幸運な事にリリアーナやラナー、少女の三人と周囲の人々は気を失ってはいなかったからだ。


「これ以上は自警団か騎士団かどこかが対処するだろう。お怪我ないようで何よりだ。では、」


 青年はリリアーナ達に軽く挨拶をするとそそくさとその場から離れようと歩き出した。

「ちょ、ちょっと待って下さい!まだお礼もしていないのに、」

「いや、これ以上人が集まると、困る」
 
「では、私も着いていきます。助けて頂いたお礼を。ラナー、あなたはこの子を頼んだわよ。それから、必ずマルコと合流してね。私の居場所はその後に、お兄様がくれた石で調べて追いかけて頂戴」

「かしこまりました」


 ラナーは隣で蹲る少女の手を握ると渋々頷いた。
 リリアーナが案外、頑固なのをラナーは知っている。どちらにせよ、レイアードからこっぴどく叱られるであろう事は既に確定しているのだ。

 それに、彼が一緒であれば大丈夫だろう、とラナーは青年を見た。







「ちょっと待て、本当に、どこまで着いてくるんだ? 自分が殺されるとは思わないのか、」


 目の前を足早に歩いていた命の恩人である青年が急に立ち止まって振り返る。


「はい。だって、貴方が私を殺したいならば、先程の時点でできたのでしょう? それに貴方、私に手を出したら殺すって男に仰っていたではないですか」

「······危機感が全くないのは問題だが。まあ、正論ではある、な」

「では! お願い致します。本当に、助けて頂いたお礼をしたいだけなのです!」


 青年の目には先程、男達に向けていたような威圧感は一切ない。むしろリリアーナを心配しているのだろう彼の優しさが滲み出ていた。


「お礼、とは?」

「紅茶でも、一杯出させて頂きたいの」
「どこで、」


 そう言われて、リリアーナは今の状況に気付く。城下町にいるのだ。茶を出すためだけに彼を王城に招き入れるわけにもいかない······。
 そんなあたふたした様子のリリアーナをみた青年は、大きく溜め息をついた。


「はぁ、分かった·······。
では、そこの喫茶店で茶をご馳走してくれるか」

「はいっ!是非!」


 城下町の知識が一切ないリリアーナには、青年の提案は渡りに船だった。
 喫茶店に入った二人は大通りに面したテラス席の端に座る。ここならば会話もしやすく、ラナーやマルコとも合流しやすくなるだろうと考えてのことだ。


 それに、街の喫茶店!なんて素敵な場所なの!
 街の喫茶店という夢のような空間に来た事で少し浮かれていたリリアーナだったが、目の前に無言で座り茶を啜る青年の存在に意識を戻した。


「こほんっ、私はリリアと申します。お名前、教えては頂けますか?」

「名前は······そうだな。······レイ。 いや、ルドルフだ。」

「ルドルフ様······(きっと本名ではなさそうね。まあ、斯くいう私もだけれど)。ルドルフ様、先程は助けて頂いて本当にありがとうございました」

「礼には及ばない。ただ、貴女がいたから助けた、それだけだ」


 リリアーナが深々とお辞儀する中、ルドルフと名乗った青年は、そう、どうでも良さそうに答えた。
 "リリアーナだから助けた" とも取れる返答に一気に顔に熱が集まりリリアーナは、俯く。

「さて、礼は受け取った。失礼しよう。高貴なご令嬢があまり護衛や侍女と離れてフラフラするのは感心しないぞ?」

 そして、続いた彼の思わぬその発言に勢いよく顔をあげた。



「·······え?! ちょっと! 高貴なご令嬢ですって?」

「·······隠してるつもりだったのか? 所作や話し方でダダ漏れだったのだが」

「そ、そんな········。······でもそれなら貴方だって! 貴族なのでしょう? 話し方も凄く偉そうですしっ?」

「貴族、? 貴族ではない、······が、まあそうか。それは忠告として受け取っておこう······「あっ!ラナー!マルコ!こちらよ!」


 目の前で青年がぶつぶつと呟いていた時、ふと大通りに二人の姿が見えて声を張り上げる。リリアーナの声に振り返った二人は、息を切らして走ってきた。


「リリアー······、リリアおじょう、さま。すみません。遅くなりました! お怪我はありませんか?!」


 急いで探してくれたのだろう。汗をかいたマルコが青年の前で必死にリリアーナと呼ぶのを隠しているのが分かり、リリアーナは笑う。


「ふふっ、マルコ、大丈夫よ。こちらはルドルフ様。先程の一件で助けて下さった方よ。それに、私が "貴族の令嬢" だとバレバレだったみたいだわ」

「そうですか······こちらが。話はラナーから聞いております。リリアお嬢様の護衛でマルコといいます。私の不在中にお嬢様を助けて下さり、本当にありがとうございました」


 マルコが話を合わせてくれたのでリリアーナは胸を撫で下ろす。


「いや、礼には及ばない。それでは俺はこれで」

 急いで席を立とうとした青年に頭を下げていたマルコは、サッと姿勢を直すと鋭い眼差しを向けた。

「それにしてもかなりの体格の男を六人も気絶させるとは。貴方、何者ですか?」


 少し探るようなマルコにリリアーナは少し焦る。
 ルドルフが貴族なのは確かだろう。でも、マルコも知らない、となるとこの国の方ではないのだろうか?


「いや、俺は冒険者でな。この国はただ立ち寄っただけなんだが」

 徐ろに彼が証明書のようなカードを出し、それを見たマルコは息をのんだ。

「リドゥレラ中立国のSランク冒険者?!」

「リドゥレラ中立国?」

「はい、お嬢様はご存知なかったですね。ここからずっと南、国の境にある小さな国です。六カ国と隣接しており、絶対に戦争介入をしない中立国ですよ。だから、各国の冒険者と呼ばれる様々な依頼をこなす者はそこに属しているのです」

「まあ、そんな国が」

「はい。Sは冒険者最上位ランクです。難易度の高い魔物の討伐等は彼らが行います。ルドルフ様、疑ってしまい申し訳ございませんでした」

「ああ、別に気にしていない」


 そして、マルコは改まってリリアーナの方を向く。


「お嬢様。今回の件で私が事後処理に同行せねばならなくなりました。申し訳ありませんが、明日以降の予定は取り消しになるかと思います」

「そう······、今日まだ出来てない事もたくさんあるのに。残念だわ······」

 俯いたリリアーナは、先程のマルコの言葉を思い出す。冒険者は依頼をこなす、ということは······とルドルフに向き直ると頭を下げた。

 「あの、ルドルフ様。きちんと対価はお支払いします。その上で、私の護衛を二日間程頼めないでしょうか?冒険者としての貴方にお願いしたいのです」


「は?」


 リリアーナにとっては名案だったこの依頼は、ヴィクトールルドルフにとってみれば想定外の事態だった。

 こうして、ルドルフという青年に変装していたヴィクトールにとって、リリアーナとの距離を縮めるまたとない機会が巡って来たわけなのだが······。

 そのことをリリアーナが知るのはまだずっと先の話である。
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