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第一章 王国、離縁篇
21.舞踏会(離縁)まで4日 - リリアーナは、冒険者の彼が気になる -
「リリアーナ様、本日もお疲れ様でございました。ゆっくりお休みください。」
「うん、ラナーもありがとう。おかげで素敵な服が手に入ったわ。おやすみなさい」
レベロン王国、王城にある私室から侍女のラナーが退出したのを確認し、リリアーナはベッドに身を放り投げる。
意識が戻ってから、既に一週間と少しが経った。
今日まで色々な事があったけれど、やはりどれだけ考えても、自分が王太子の妻で、この国の王太子妃であることに未だ納得がいかない。
出来る事ならば、自分の好きな男性と幸せになりたい。というのはこの世界の貴族には夢物語なのかしら。
リリアーナは両手を広げ身を投げると、ベッドの天蓋を見つめる。
「ルドルフさま·······」
ポツリと呟いた彼の名前と共に、リリアーナは今日の一日を思い返した。
城下町散策、二日目は仕立屋を中心に周る事にしたのだった。離縁し、すぐに平民となって追放されたとしても、それ相応の服があればなにかと便利だからだ。
そして同行してくれたのは侍女ラナーと、マルコの代わりに護衛を依頼したルドルフだ。マルコは、昨日の噴水広場での乱闘の事後処理に追われているらしい。
危ない所を助けて貰った挙げ句、冒険者である彼に護衛を頼んでしまったのは図々しかったかしら。と、リリアーナは今更ながら反省した。
「レイって呼んでと、言ってたわ、よね······」
別れ際に「二人のときは “レイ” で良い」と言い放って帰っていった彼を思い出し、顔が熱くなる。
出会ったばかりなのに、あんなにミステリアスな男性に胸を踊らせるなんて。店で黄色い声をあげていた女の子達となんら変わらない·····。なんて単純なんだろう。
でも、あの優しく紳士的な対応も。一見、平凡そうな見た目なのにオーラがあるというギャップも。その全てが、彼をミステリアスにする魅力なのだ。流れるように美しい一つ一つの所作もいちいち素敵でじっと見つめてしまうのだから。もう仕方ない。
ルドルフ様はただ冒険者として依頼をこなしてくれているだけなのに。
そう思った瞬間、ズキリと胸に棘がささったような痛みが走る。その痛みを消し去るように、リリアーナはルドルフとの会話を思い出した。
◆
「ルドルフ様、昨日は申し訳ありませんでした。
一流の冒険者だなんて知らなくて······。今日は、私の護衛という依頼を受けてくださり、感謝します」
「いや、問題ない。仲間に恵まれているだけだ」
「冒険者の仲間の方ですか? ルドルフ様も大変お強いと思いますが······。私を助けて下さいましたし」
「まあ、そこそこ、な。で、今日はどこに?」
「えぇと、本日は仕立て屋に行きたいのです。王都街で流行っているような服が、何着か欲しくて」
「貴族令嬢なのに、か? ドレスではなく?」
「···えぇ···と、訳がありまして平民になる予定でして······」
ルドルフは、口を吃らせるリリアーナの事はさほど気にしない様子で頷いた。
「そうか。ではこの辺りの服屋がいいだろう。仕立てもするし、既製品も売っている店だ」
言われた通りのその店に入ると店内はお洒落な若い女の子たちで賑わっていた。彼女達は、店に入ってきた彼をみて頬を染め、『格好いい』『あんな彼氏ほしい』と囁きあっている。
確かに、ルドルフ様は格好いいけれど、こんなに異性から人気だと凄く胸が苦しい·······。
そんなリリアーナの心情も知らず、店の外に出たところでルドルフがふと尋ねた。
「平民になる理由はあるのか? なって、どんなことがしたい、とか」
「うーん·····、そうね。自由になりたいの。色々な国に行ってみたいわ。そういえば、ルドルフ様はリドゥレラ中立国の出身なのでしたっけ?」
「いや、俺の出身国は、違うな」
「? どこの国か、っていうのは······言いたくないならいいの。でも、自由になれたらきっと······貴方の出身国にも行ってみたいわね」
「······その時は歓迎しよう」
「リドゥレラ中立国にも是非行ってみたいけれど」
「そうだな。あそこは色々な国の人間が集まる。
とても愉快な国だ」
◆
彼と話せば話すほど、外の世界を知りたいと思ったし、なにしろ彼自身をもっと知りたいと思った。
彼はどんな事をしているのだろう?
彼はどこの国から来たのだろう?
ラナーは彼女なりに詮索しているようだったが、未だに何も得られてはいないようだ。
昨日、ラナーが兄レイアードに彼の事を報告していた事をリリアーナは知っている。
レイアードはリドゥレラ中立国の国立魔法学園を卒業しており、冒険者登録もしているからだ。
そして、そのレイアード曰く、"ルドルフ"という冒険者は知らない、との事だった。ただ、レイアードが卒業してからとうに五年が経っているし、冒険者チームの仲間が有名でそこに所属しているだけの場合はわからない、と。
未だ謎に包まれたままの彼をラナーは警戒をしつつも、リリアーナの心の変化に敏感に気付いているのだろう。全力で力になれるように立ち回ってくれている事も、勿論分かっていた。
「明日で城下町散策も終わりね。舞踏会の準備で忙しくなると言われていたから分かってはいたけれど
··········自ら望んだとはいえ、気が重いわ。
またいつか彼に会えれば良いのだけれど」
急に訪れた睡魔に襲われ、リリアーナは抵抗することなく意識を手放した。
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